2020年9月28日月曜日

新型コロナが地球を静かにした

最初にいい話をひとつ。6歳のブリッジャー・ウォーカー君は1歳のジャーマンシェパードのミックス犬に襲われた妹を助けて90針の重傷を負いましたが父親によくやったと褒められて「もし誰かが死んでしまうなら、自分がそうなろうと思った」と答えたといいます。おばさんがこのことをインスタグラムに上げたのをみた人気のスーパーヒーロー映画「キャプテンアメリカ」(ブリッジャー君はこの映画の大ファン)に主演するクリス・エバンズさんは、主人公の持つ本物の盾をプレゼントして「君の行動はとても勇敢で献身的だった。君のような兄がいて妹さんは実に幸運だった。ご両親も君を誇りに思っていることだろう」と称賛の言葉を送ったと伝えられています。  

 さてコロナの感染状況に一応の落ち着きが出てきたと判断されて、GoToトラベルに東京が加えられたり野球やサッカーの入場者数が5000人から収容人数の50%に上限アップされたりと感染症対策が緩和されてきています。この判断はどんな指標にもとづいてなされたのでしょうか、たんに感染者数の減少傾向だけで判断されたとしたらこれから寒くなってウィルスの活動が旺盛になると第三波の襲来を防げないのではないでしょうか。  

 そうした事態に対処するには「抗体検査」が重要になってきます。  抗体とは免疫細胞がつくりだすたんぱく質のことで過去の感染歴の判定に有効です。ウィルスのどの部分にくっついてできたかによって抗体の種類や性質が異なりますが、感染防御に働くのは「中和抗体」でこれが十分でないと再感染は防げません。検査によってこの中和抗体が検出できれば感染症を正しく判定することになりますが、風邪コロナなどに反応すれば擬陽性になりますからたとえ陽性でも再感染しない証にはなりません。したがって検査の精度が重要になるのです。  抗体検査によってその地区の感染率をはじき出して再感染の可能性を判定するためには感染人口が一定数以上必要ですが、わが国の状況はそこまでPCR検査が実施されていませんので検査結果を用いて単純計算でその可能性を判定するまでには至っていません。  

 また一日も早い終息を願ってワクチン開発が前のめりで行われていますが、安全性の確保されたワクチンはこの冬には間に合わないと考えた方が現実的でしょうし特効薬の発見・開発も同様だとすれば、マスク、手洗いうがい、三密を避ける、というジャパン方式とPCR検査、抗体検査を有効に行って感染拡大を防ぐというこれまでの対策を、より賢明に実施するしかないということになります。一時の減少傾向に浮かれて野放図な経済活動を願うには時期尚早な気がして仕方がないのですがどうでしょうか。  

 コロナで外出自粛が徹底して行われたおかげで、上海の空がキレイになったりヴェネチアの運河のゴミが激減して清潔になったとか、経済活動の停滞は思わぬ環境の浄化をもたらしました。気候変動の激化が台風やハリケーン、森林火災の続発・大規模化をもたらし森林破壊が進行すると奥地に生息していた野生動物の消滅や人間居住地への移動が招来され、そうした野生動物を宿主としていたウィルスが新たに人間に感染して新型ウィルス感染症となって地球大の感染拡大となることは今回の新型ウィルス感染症で経験しました。低開発国をいまのまま際限のない森林伐採や焼き畑農業をつづけざるを得ない状況に追い込んでいけば、新型コロナウィルス感染症はつぎからつぎへと新種となって人類に襲いかかってくることになるでしょう。  

 ところで、新型コロナが地球を静かにした!といえば驚かれるにちがいありません。しかし、ロックダウンや自粛要請によって人びとの活動が抑えられたことによって世界中の地震計の「ノイズ」が減少したとベルギー王立天文台の地震学者トマス・ルコックさんらが米サイエンス誌に報告しています。世界117ケ国268観測地点の高周波振動を観測した結果がそれを示しているのです。地震計は地震だけでなく核実験を感知することもありますし人の歩行、車や電車の運行、工場などの人間活動、花火大会やサッカーの試合も検出することもあるのです。こうした地震以外の揺れの感知は地震学の観点からは小さな地震を覆いかくすじゃまものという意味でノイズ(雑音)と呼ばれているのですが、今回の新型ウィルス感染症の場合はノイズの減少が「地球の静かさ」を表す指標として有効な働きを示したというわけです。  

 最後にもうひとついい話を。アメリカ・テキサス州のネイルサロンで施術を受けていた女性が指輪を外したまま忘れてしまいました。指輪はサロンの人たちに気づかれないでゴミとして回収に出されました。指輪のなくなっているのに気づいた女性から連絡を受けたサロンの人たちは、すべてのゴミ袋を一つずつ掘り起こし処分直前に指輪を見つけ出すことに成功したのです。「『残念でしたね』で済むところを親切に探していただいてとてもうれしい」と女性は感謝しきりだったということです。  コロナは私たちに経験したことのない恐怖と苦しみを与えました。しかしそれと同時に忘れていた大切なことを思い出させてもくれました。待ったなしの環境破壊と経済のバランスをどのようにとっていくのか、人類の賢明さが試されています。

(本稿のコロナに関する多くの記事は毎日新聞・青野由利さんの『土記』を参考にしました)

2020年9月21日月曜日

ひとのフリ見て

  ベラルーシの大統領選挙をめぐる選挙不正に対する抗議活動が拡大しています。ルカシェンコ大統領の6選が決まったのですが長年つづく独裁政権に市民の抗議は収まる気配が見えません。ここ一二年の間にロシア、インドネシア、香港と選挙不正が世界的に続発しているのは見方を変えればこれまでの政治の潮流が世界的に転換点を迎えている裏返しの証と見ることもできます。

 香港の場合は被選挙人――選挙で選ばれる側の候補者として立候補する自由がないのです、特別行政区(行政長官)が立候補の可否を決定するという選挙の公正さを侵害する制度に市民が不満を抱き抗議しているのです。  

 ロシアの場合もベラルーシの場合も選挙の自由が侵害されていて上から押しつけられた候補者にしか投票できません――投票が監視されていて指定された候補者以外に投票すれば何らかの被害を蒙る制度(見えない制度)になっているのです。  

 アメリカは選挙情報が真偽入り乱れてどれが真実でどれがフェイクか判断できないような状況に陥っていて自分の意思を正確に投票に反映させることが困難な状況になっています。こうした情報操作は相手方政党によって行われることもあればロシアや中国の介入もうかがえる状況になっています。トランプ氏が大統領に選ばれた経緯を検証するとロシアの介入による影響が大きかったことが分かります。  

 自由陣営の一翼を担う民主主義国――わが日本ではこんな選挙不正は起こりえないだろう、そう思いたいのですが9月14日に行われた自民党の総裁選挙で堂々と、しかも権力を監視するはずのメディアを巻き込んであからさまに行われたのですが、一般市民はそれを「不正選挙」と認識しているでしょうか。  まず被選挙人の自由は、議員の推薦人が最低でも20人以上を要するという規制によって、誰でもが立候補できる自由が侵害されています。これまで何度も立候補してきた石破氏はこの規制によっていつも薄氷を踏む状態で立候補してきています。  

 今回の選挙に関していえば、公示前から――公示後は相当な確からしさをもってマスコミが三人の候補者の得票数の予測を面白おかしく報道しましたから、勝馬に乗って選挙後の立場を優位にしようという欲望にかられた選挙民(議員と党員)は優勢とされる菅氏への投票に急激に傾いていきました。明らかな「情報操作」といっていいでしょう。  

 これまでの自民党の選挙では「派閥の締め付け」が強力に働いて派閥の力学で総裁が選ばれてきた、といってもあながち誤ってはいないでしょう。しかしそれは水面下で行われてきましたから、田中角栄の場合も小泉純一郎の場合も予想外の結果として国民には驚きをもって迎えられました。ところが今回の総裁選挙ではこうした派閥の力学がマスコミに常時垂れ流されて、リアルタイムに候補者の勢力図が国民の目にさらされました。だから公示の三日目には菅氏が圧倒的な得票数で選ばれるであろうことはすべての国民の知るところとなりました。これは明らかに民主主義の劣化です。国民は明らかに自民党にナメラレたのです。  

 選挙で最も大事な「投票の自由」が派閥の領袖以外にはまったく保証されていなかったのが今回の自民党総裁選であったのです。もっとも情けないのは、安倍総理が蛇蝎のごとく嫌う石破氏の地方人気を削ぐために菅氏の票を岸田氏に融通したという顛末です。ここにいたって民主主義は完全に冒涜されました。  

 先にも書きましたがわが国は民主主義国家と世界に公言してきました。しかしその民主主義国家の、政権党である自民党のトップを選ぶ総裁選において、かくも堂々と「不正選挙」が行われたのです。しかもマスコミもこれに加担するという前代未聞の形で。これほどの『恥――恥辱』があるでしょうか。ひとかどの見識を誇るコメンテーターも知識人もこの不正選挙を面白がって見るだけに収まらずなんだかんだとコメントをするのですから呆れかえって言葉もでません。  

 これほどの恥を外国はどのように報道するのでしょうか、そして論評が加えられるのでしょうか。今から恥ずかしくて身の置き場もありません。情けない限りです。  

 もうひとつ、菅新総裁の「安倍政策の継承」という公約を危ぶみます。  

 まず「コロナ対策」ですが安倍体制のままではこの冬のインフルとコロナの同時進行になった場合、まったく対応できない危険性を感じます。無症状や軽症の感染者も入院になる今の感染症分類では医療崩壊を招くこと必至でしょう。さらにPCRの検査体制も公表されている1日5万件という実施能力が実際はそうでないらしいと「ココア(接触感染アプリ)」で警報を受けた人から聞いています。その人は深夜突然の警報で濃厚接触を知らされたのですが、翌日センターに電話すると、無症状なので普通に行動してよいと言われ、それでもPCR検査をしたいというと翌日保健所から連絡があり検査キットを5日後にお送りします、検査結果はキット返送後3日して通知しますが土日祝日がはさまる場合はその後届きます、という返事だったといいます。ということは無症状で「新しい生活スタイル」で生活するのですから濃厚接触する場合もないとはいえないことになり、感染させる可能性はゼロではありません。またPCR検査は唾液型なら30分ほどで結果が出ると公表されているのに、最低でもアラームから11日後、場合によっては14日かかることになります。これではPCR検査の意味がありませんし、アラームを受けた本人は結果が出る2週間近い間不安を抱えたまま過ごさねばなりません。これでインフル、コロナの同時進行に対処できるとは到底思えません。医療用のマスクや防護服、検査試薬の生産体制と備蓄は進行しているのでしょうか。すべて「安倍体制」の継続では不安なのです。抜本的に体制強化してくれなくては困るのです。  

 デフレ脱却も成長力回復も未達成です。雇用増も実体は非正規ばかりで生活の安定には程遠く、賃金も一向に上がっていません。格差は開くばかりで差別も減る気配がありません。東京一極集中は加速して地方創生は掛け声倒れで地方の疲弊は加速しています。すべての課題は安倍体制では解決しなかったのです。  

 安倍政策は検証されて新たな方向に転換しなければ日本は善くならないのです。貧しくて不健康で楽しくない子どもたちが増えるばかりなのです。もちろん大人も不幸な人が多いままです。  

 安倍体制は継続してもらっては困るのです。  

 菅さん、分かってください。  

2020年9月14日月曜日

拝啓 中信 様

 拝啓、仲秋の候、貴庫益々ご清栄の段お慶び申し上げます。
 
 とはいえ、こうした定型文の虚しさをつくづくと感じる昨今の社会情勢ではありませんか。緊急避難だったはずのゼロ金利政策が曲折を経ながらもう二十年を超え、その後の財政状態を考えるとあと十年以上はこのままの状況がつづくことを覚悟せざるを得ない中でのコロナ禍は貴庫に置かれましても一方ならぬ苦境を強いられておられるにちがいありません。
 
 そんな折ではありますが本日はお願いの儀ありこの手紙を認めました。
 磁気不良によるキャッシュカード(以下CCと略す)再発行手続きの簡素化についてです。
 先日S支店でCCの磁気不良が生じ磁気再生を申し出ました。対処してくれた女性行員さんが再生不能でカード交換しなければならない、そのためには通帳、届出印鑑、身分証明書が必要だという。驚きました。いまどき磁気不良でカード交換をしなければならないなどということは他行ではありませんし、再発行に印鑑まで提出を求めるなどこのIT化時代に信じられません。
 というのも今年になってK銀行とY銀行でCCの磁気不良にあっており、とくにY銀行など二度も発生して、そのつど磁気再生されているのですが、そのさい当該のカード以外何も提出を求められることなく、即時、その場で対処してくれました。
 
 自宅に求められたものを取りに帰り引っ返して再度手続きをしました。再交付申請書に署名捺印して再発行を待って、やっと手続きが終わった行員さんが近寄って来たのでヤレヤレと思っていたら、「二三日後に郵送されてきます」という説明です。さらにそばから別の行員さんが「他店(N支店)分ですのでもう少しかかります」と言い添えました。今すぐお金がご入用なら窓口で出金いたしますがという申し出を受けましたが「もういい!結構です!」と言い捨てて店を後にしました。
 二度目に店に行ったとき、窓口で押し問答しているのを見かねて支店長がじきじき対応してくれたのですが、想像もしていなかった事態に感情的になり声を荒げたこと、年甲斐もなく恥じ入るばかりですが、それほど貴庫の対応は常識を逸した対応と私には感じられたのです。
 
 そこで本日のお願いです。磁気不良による磁気再生あるいはカード再発行に関する手続きを、当該カードの提出のみで一切の手続き書式不要、即時、再生または再発行に改変していただきたいのです。もちろん本人確認(証)が必要ならその程度は受け入れ可能範囲です。それほどCCの磁気不良は日常化していると思います。
 
 手続きの途中で支店長に忠告したのですが、これまでもCCの磁気不良の苦情を申し出る利用者は少なくなかったはずでしょうし、他にも日常的に苦情や注文はあって当たり前で、利用者(預金者)と直接接する現場はそうした苦情、意見を情報として本部に日常的に、懸隔なく、スムースに、流通するようになっていなければおかしいのではないか。そうした利用者に寄り添った細かなサービスに徹した地域密着の金融機関が中信だったはずです。なぜなら中信は「On Your Side――あなたの身近に」 なのですから。
 
 貴庫とはK区で鉄工所を営んでいたころからのおつきあいで、二十年ほど前、居宅だけはK区に残しておきたかった私に最後まで親身になって対応していただいたN支店のKさんという若い行員さんのことは今でも懐かしく覚えています。ですから中信は私にとって一番身近な存在であり、利用者のことをもっとも親身になって考えてくれる存在なのです。その中信が、社内手続き上の問題で、磁気不良という今どき日常茶飯の事故で年寄りに(私も来年は八十歳になります)暑い中を通帳と印鑑と身分証明書を取りに帰って提出させることになんら疑問を抱かないなどということは信じられないのです。
 
 コロナ禍後の景気浮揚、企業再生に地域金融機関の果たす役割は重要です。デフレ下で景気浮揚を狙った金融緩和は正しい政策でした。しかし市民と中小企業にお金が届かない今の金融システムでは機能しません。ゼロ金利で利子(利息)収入を得られなくなった市民の逸失利益は25兆円(5年ほど前の立命館大学教授の試算)にも上るといわれています。所得が上がらないうえに金融所得が無くなったのですから消費の増えるはずもありません。企業活動を活性化させるためには地方の中小企業にお金が届くようにしなければならないのに、中央政府が旗を振って政府系金融機関(かメガバンク)が窓口になっているのでは必要としている中小企業にお金が届くはずもありません。彼らには地方の中小企業に対する与信機能もありませんし、中小企業のもっている技術や地元密着の新しいサービスの目利き力がないからです。これでは何兆円の中小企業活性化資金を用意しても中小企業にお金は届きませんし(持続化給付金詐欺は政府による金融政策の制度設計の脆弱さを露呈しました)、中小企業のもっている新技術・サービスの種子が実現することもありませんから資金需要も増えず、したがって地方創生も実現しません。
 所得増大と金融所得の復活なくして消費増大はありえず、地方金融機関の活性化なくして地方創生が実現不可能なことは誰が考えても当然のことです。
 しかし現今の財政状況ではゼロ金利解除はあと十年は不可能でしょうし、そうなれば地方金融機関活性化も今までの延長線上ではなかなか困難な課題でしょう。
 
 京都中央信用金庫は庶民に最も身近な存在としていつまでも京都の中心的金融機関として存在してほしい。そのためには現場の意見が円滑に本部(理事長)に届く組織でなければならないと思います。そのきっかけとして、CCの磁気不良の磁気再生とカード交換が、即時その場でできるような手続きに改変してほしい。そう思ってお願いの手紙を認めた次第です。
 善処を、早期に、実現されることを願っています。
 
 コロナ禍のもと厳しい経営環境が続くでしょうが、どうかお体ご自愛されまして業務に精励されますように、そして貴庫がますます繁栄されますことを祈っております。
敬具
 
 
 
 
 

2020年9月7日月曜日

後生畏るべし

 連日のニュースショウに登場する米大統領選挙のトランプ氏とバイデン氏の姿を見ていると、よその国の選挙をここまで長時間放送する国があるだろうかと呆れてしまいます。興味本位であることはいうまでもないでしょうがそれにしても取り上げ方が表面的すぎないでしょうか。報道機関であるなら一つの局でいいから、なぜアメリカという「若い」「自由主義」の国の大統領にトランプ74歳、バイデン77歳という「高齢」の候補者が選出されるシステムができたのかという「本質論」に切り込んでほしい。75年という長期の「平和の時代」があぶり出した資本主義の本質的な『矛盾』と、その結果としての格差の拡大と国民の分断という「アメリカの病巣」がトランプとバイデンにどう影響しているのか、そこが知りたいのです。アメリカばかりではありません、ロシアではまたまた反プーチン派の党首が毒殺される(?)という事体が出来していますし、香港では中国の「国家安全法」のもと林鄭月娥・行政長官が「香港は三権分立ではない」という驚くべき発言をしでかしているのです。
 米中ロという世界を三分する巨大国がそろいもそろって「民主主義」と「自由主義」という価値観を無視する勢力が権力を握っており、しかも彼ら三人が絶対的な暴力装置としての核兵器の『核のボタン』を握っているのですから、今ほど「危機的状況」はないということを私たちはもっと真剣に認識すべきではないでしょうか。
 
 しかしわが国も対岸の火事と座視していい状況とは言えません。安倍首相の突然の辞任をうけた自民党の体たらくはおよそ民主主義国の第一党の総裁選挙と思えない『談合』選挙となってしまったではありませんか。民意(党員の総意)を無視した「両院議員総会」での選挙となり、しかも地方党員の選挙結果を議員投票前に発表せず、議員選挙と同時に分明させるという姑息な方法さえとるという完全な党員無視を行うというのです。「自由民主党」という「自由」と「民主主義」を標榜する政党がその総裁を選出する選挙において「民主」を破棄して「偏向」を奉戴するというのですからこれからのわが国の政治状況を考えるとき暗澹とならざるを得ません。まあしかし、この状況を演出したのが二階俊博という81歳のご老人(幹事長)なのですから無理もありません。
 
 今度のコロナ禍で身に沁みてわかったことは『若さ』の素晴らしさでした。大阪の吉村知事、北海道の鈴木知事、むつ市の宮下市長などの颯爽とした思い切りのいい行政手腕は、前例にとらわれコロナ禍の対処法を自らの手で創出しなければならないという覚悟の片りんすら見られない国のトップや官僚上がりの高齢首長と比べて何と清新に感じたことでしょうか。しかし中には和歌山の仁坂さんのような熟練・敏腕知事もいらっしゃいますからひとからげにいうことはできませんが総じて若い人の方が秀れた対応を見せてくれました。そしてそれはわが国に限らず世界的な潮流であったように思います。
 ではなぜ若いひとの方が未曾有の事体に有効な対処ができたのでしょうか。官僚(役人)の使い方がうまかったからではないでしょうか、それも若い官僚を。中央は勿論のこと地方でも官僚には優秀な人が集まっているはずです。それをいかにうまく使いこなすかがトップに求められる最も重要な能力だと思います。ところがややもすれば「取り巻き」の「使い易い」人材を重用しがちなトップの多いのが現実なのではないでしょうか。吉村さんを見ていて、よくもこれだけ次から次へとアイデアが浮かぶものだと感心させられましたが、実はそれは吉村さん個人のアイデアではなく役所の各担当の役人の、それも若い役人のアイデアだったのではないでしょうか。そうでなければあれだけわれわれの思いつかない施策は打ち出せないと思います。
 ではなぜ吉村さんは――鈴木さんも宮下さんも――官僚組織を柔軟に活用できたのでしょうか。役所というのは年功序列の厳とした権力構造に出来上がっています。そこへ若い――宮下さんに至っては35歳で政界入りしたのですから、まずこの権力構造を突き崩して風通し良くしなければなりません。力づくで上から抑えつけてもうまくいくはずはありません。「懐柔」といってはそぐはないようにも思いますが、とにかく年長者を上手に「手なずけ」なければ組織は動きません。役所に入って最初の、そしてもっとも苦労するのが各組織のトップ連中との円滑なコミュニケーションの確立であったに違いありません。例にあげた三人に共通して感じるのはそうしたコミュニケーション力です、相当苦労しただろうけれども上手に年長者との関係性を築いて組織を手中に収めた「したたかさ」です。柔らかだけれども毅然とした厳しさもある、そんな印象でした。そうした準備があって、風通しの良い組織に役所を「進化」させた。その結果役所のいたるところからアイデアが上げられてきたのではないでしょうか。
 若い人たちの活躍を見ていてそんな感懐を抱きました。
 
 コロナ禍はまだまだ終息しないでしょう。そのあとにも、景気浮揚、デフレ脱却、高齢化・人口減・成長力の鈍化、難問山積の外交問題とこれまでの延長線上にはない問題の解決が待っています。若い力がどうしても必要です。劣化したわが国の官僚組織、政治組織、企業組織を若い力で「革新」しなければこの難局は乗り切れません。
 
 その第一歩が政権党・自由民主党の総裁選挙なのだという認識が自民党員の皆さんにはあるのでしょうか。かといって、地方で人気の石破さんをヒイキにしているわけではありません。自民党員の皆さんもそうでないみなさんも、石破さんが「核兵器容認論者」だということを知って応援していますか?
 
 後生(こうせい)(おそ)るべし、ということわざがあります。年寄りは若い人を馬鹿にしがちですが、若いということはそれだけ可能性を秘めているのだから努力次第で将来どれほどの人物に成長するかわからない、若いからといって見くびってはいけませんよ、という戒めです。
 この国はこのあたりで若い人と女性の能力をしっかりと活かす体制に変革する必要があるのではないでしょうか。