2026年6月2日火曜日

騎手のダービー

  今年のダービーも白熱したレースでした。それは着差がアタマ差という僅少で走破タイムが2分22.7秒というレースレベルだけでなく騎手の葛藤が凄かったからでもあります。

 レース前の予想ではロブチェンが1頭抜けていましたが単勝オッズが3倍前後だったようにディ-プインパクト(110円)やナリタブライアン(140円)ほど絶対的強さではなく2番人気のリアライズシリウス以下10頭ほどが鎬を削る様相になっていました。

 

 こんな時には騎手から迫ってみるのが意外と勝ち馬予想の近道になるものでとくにダービーは「お手馬から勝馬がでる」というジンクスがあるから余計です。このジンクスは3年前のタスティエーラで勝ったレーン騎手に破られたのですが、それでもGⅠ、重賞で勝ちまくっているルメ―ル騎手でさえレイデオロの1勝に終わっていることがこのジンクスの確かさを証明しています。お手馬というのはその馬の新馬初戦から継続して唯一人の騎手が騎乗している馬のことでそれだけ人馬の関係が深く緊密でないと勝てないレースがダービーであるということを意味しているのです。

 今年のダービーでお手馬に乗る騎手は1番枠のライヒスアドラーの佐々木大輔、11.リアライズシリウス・津村明秀、13.パントルナイーフ・ルメール、16.グリーンエナジー・戸崎圭太、17.ロブチェン・松山弘平の5頭5騎手です。

 佐々木騎手は若さと1番枠というダービーでは最も手腕の問われる難しい枠なので除外。津村騎手はリアライズシリウスがロブチェンとの勝負づけが終わっていると見て外します。皐月賞は予想外のロブチェンの逃げでレースが展開し終始2番手につけたリアライズが直線半ばで並びかけましたがロブチェンが踏ん張りゴールでは1馬身まで着差が開いていました。この差は着差以上の実力差を表しておりひょっとしたらリアライズは距離的限界があったのかもしれません。そんなわけで津村騎手は捨てますが想定外の前日落馬というアクシデントもありなおさらこの取捨を後押ししました。

 もっとも買い気をそそられたのは戸崎騎手です。この10年間彼は3頭で2着という口惜しい思いをしています。とくに24年は1番人気皐月賞馬ジャスティンミラノでダノンデザイルに2馬身の完敗を喫しています。今回は4頭出し上原祐紀厩舎の最低人気馬グリーンエナジーですから逆に闘志に燃えているのではないか、そんな思い入れをしたのです。

 

 問題はルメールです。先にも述べましたが彼ほどの騎手がダービーはレイデオロの1勝に終わっているのですから思い入れは人一倍でしょう。加えてパントルナイーフを出す木村哲也調教師は開業16年目の54才、GⅠ15勝の敏腕トレーナーですがダービーは未勝利です。皐月賞馬ジオクリフ、ホープフルS勝ちのレガレイラであと一歩のところまで来ているのですからダービーにかける熱意は尋常ではないでしょう。その厩舎が主戦とも言えるルメールを初戦から配してここまできたのですからパントルナイーフにかける思いは一入のものがあるはずです。

 ここでさらに深入りすれば木村調教師は藤沢和雄元調教師の弟子です。藤沢さんはJRA1570勝、重賞勝利数129勝うちG135勝の名調教師でありながらダービーだけは勝てず「競馬界の7不思議」と言われたほどでした。彼はルメールがJRAの免許を取得して以来の盟友で藤沢―ルーメールは黄金コンビと言われ数々の重賞勝ちを収めました。その藤沢さんがようやくダービーを勝ったのが定年5年前のレイデオロで鞍上は勿論ルメールでした。

 こんな因縁のある木村調教師ですからダービーに賭ける思いはわれわれの想像以上のものがあるにちがいありません。そんな彼がダービーに送り込んだパントルナイーフ、しかも必勝を期した皐月賞が思いもかけぬ大不利を被った敗戦でしたから今度こその思いがあったはずです。それはルメールも同じで名手の彼が不利を受けるような騎乗をすることは万に一つもないレアケースですからその悔しい思いをここで晴らさずにおくものかと必勝を期していたにちがいありません。

 

 ここまで考えてきた末の結論はロブチェンに挑むルメール(=木村哲也)のパントルナイーフ、これでほぼ決まりだがひょっとしたら戸崎のグリーンエナジーがあるかも知れない。こんな結論でした。

 

 結果はご存じの通りロブチェンの勝利と松山弘平のダービージョッキ戴冠で終わりました。17番枠という不利な条件を逆手にとって好位よりも一段後ろの中段待機で爆発力温存、直線もルメールの追い出しに一呼吸遅らせ一瞬ヒヤッとさせたがゴールではアタマ差抜け出す絶妙の騎乗で松山がルメールを葬り去りました。逃げて勝った皐月賞、不利な外枠から中段差しで勝利をもぎ取ったダービー。ロブチェンという馬はとんでもない強い馬かもしれません。菊花賞は勿論春の天皇賞、有馬記念も制して海外に飛躍する希望を感じさせます。

 松山弘平騎手36才27年目。重賞勝利数58勝うちGⅠ11勝、デアリングタクトで牝馬三冠をすでに達成しているだけにもしロブチェンで牡馬三冠を成し遂げれば武豊騎手とは別の名騎手になるかもしれません。

 

 第93回ダービー(東京優駿)は私にとって「騎手のダービー」として記憶に残るダービーになりました。