2024年1月22日月曜日

能登半島地震と国土強靭化

  能登半島地震が起こって3週間が過ぎました。この間の新聞の報道を読んでいるとこの地震は極めて高い可能性で「起こるであろう」、それも「近いうちに」と『覚悟』できた地震ではないかと強く思うようになりました。

 

 能登の群発地震は2020年末から活発化していました。これによって「周りの活断層が刺激される」と複数の研究者が懸念を表明していましたが、地震の危険度を評価する政府の「地震調査委員会」は無難な一般論に終始して誘発するかもしれない大地震や津波を警告することはありませんでした。

 例えば22年6月19日にM5.4(最大震度6弱)の地震が起こったとき地震学者で同委員会の平田直委員長は、「地下で何が起こっているか分からない」などと「分からない」を連発するばかりでした。23年5月5日、M6.5(最大震度6強)が発生、震源が海底活断層に近く影響を心配する声はさらに強まりましたが、調査委の評価は「原因不明でしばらくつづく」。平田氏の会見も「分からない」づくしで活断層との関係についても「今後の調査を見ないと分からない」と濁すばかりでした。ただこの時の評価文には末尾に「強い揺れや津波には引き続き注意が必要である」と津波を登場させましたが公式見解としては海底活断層への警戒は強調しませんでした。ところが産業技術総合研究所(産総研)出身の一委員は「活断層でM7級の地震が起きる可能性も否定できない」と取材で答えています。産総研は広島大学などとの複数の調査で能登半島の海底から南東側に長大な活断層が傾いて延びており地震が起きれば震源は能登の真下になる可能性が高いと発表していたのです。

 地震発生2日後の会見で平田氏は「たまたまここで起きたから『見逃した』とおっしゃるが、群発地震の影響で活断層が動いたという例は私は知らない」と答えています。しかしほかの地震学者によれば、先行する小さ目の地震で大地震が誘発されたとされる例は珍しくなく、トルコ・シリア大地震(23年)、鳥取県西部地震(00年)のほか16年の熊本地震や11年の東日本大地震でも似たようなことが起きているといっています。

 以上は2024年1月15日の京都新聞「核心評論」をまとめたものですがこの記事は、おそれるべきは「空振り」ではなく「見逃し」だと結んでいます。

 

 地震本部はこれまで、陸域にある114ヶ所の「主要活断層帯」と、東日本大地震を引き起こした日本海溝沿いや南海トラフ、相模トラフなど各地の海溝型地震の長期評価は公表していましたが、海域の活断層評価は22年に公表した日本海南西部(九州・四国地方の北方沖)のみに留まっています。海域の活断層が引き起こす地震の切迫度に関する評価が後回しになってきたことは明かです。このため地震本部が公表している2020年から30年間に震度6以上の揺れに見舞われる確率を示した「地震動予測地図」でも能登半島は3%程度の予測で「白色」になっているのです。「地図作成時に能登半島沖に活断層があるという情報が入ってないので結果的に評価が低くなった可能性がある」と政府の地震調査委員会の西村氏は述べています。

 日本海側の津波防災に向け海域の活断層を評価した国土交通省の調査検討会は、能登半島沖に今回の震源とほぼ一致する活断層のモデルを想定していましたが「津波想定としては良かったが、地震による揺れの予測に用いていなかったのは反省すべき点だ」と東北大の遠田晋次教授(地震地質学)は述べています。(2024年1月17日京都新聞「インサイト」より

 

 次は「凡語」(京都新聞2024年1月.6日)からの引用です。

 天災から助かった命なのに――。その後の避難所生活の苛酷さは、十年一日の感が否めない。雑菌やほこりを吸い込んでしまう床上の雑魚寝、不衛生なトイレ、冷たい食事。長期化すると、ストレスはなおさらである。▼我慢を強いられ体調を崩し、持病の悪化や肺炎などで亡くなる。2016年の熊本地震では、犠牲者(筆者注・276人)のうち約8割がこうした災害関連死だった▼日本は自然災害が多発しているのに、身を寄せる避難所の環境は二の次にされてきた。市町村の努力義務のため、地域間で差も生じている(略)▼先進地とされるイタリアでは、災害発生から48時間以内にトイレ(T)とキッチン(K)、ベッド(B)を整備することを法で明記する。被災者はテントで暮らし、キッチンカーによる温かい食事を口にできるという。日本でも専門家らが「TKB」の必要性を訴えるが、能登半島地震ではいまだ最低限の水や食料も行き渡っていない。

 さらに10日の社説はこうも書いています。

 「助かった命」を守ることに全力をあげたい。(略)避難所生活の疲労から心の健康を失った人や、車中泊でエコノミークラス症候群になり、命を落とした例も報告されている。繰り返してはならない。メンタルも含めた医療分野の支援を早期に充実させたい。(略)関連死を防ぐためにも、ホテルなどへの2次避難を進めるべきだ。石川県は、被災者を地域ごとに都市部の宿泊施設に移す準備に入った。民間の賃貸住宅を自治体が借りて提供する「みなし仮設住宅」の開設も急がれる。(略)住宅の耐震化を急ぐのはもちろん、被災者になった場合に、どう支え合い、生き延びるかを、それぞれで考え、用意しておきたい。

 

 2011年3月11日の東日本大震災を教訓に国は2013年12月「国土強靭化基本法」を定めました。大規模な自然災害などに備えるために、事前防災や減災、迅速な復旧・復興につながる施策を計画的に実施して、強くしなやかな国づくりや地域づくりを進める取組を法制化したものです。以来毎年数兆円単位の予算が計上されてきましたが、令和2年(2020)12月には15兆円規模の「防災・減災、国土強靭化のための5ヵ年加速化対策」も閣議決定されています。このような莫大な予算はどのように使われてきたのでしょうか。

 流域治水対策、港湾津波対策、災害に強い市街地形成、治山などの対策、医療・福祉施設の耐災害性強化、道路ネットワーク、道路等の機能強化――。ほとんどがインフラ関係の土木・建築建設に係る工事に使われているのが分かります。そしてその全国的な完成は20年50年先になるにちがいありません。

 しかし災害は毎年全国のあちこちで起こります。インフラなどのハードも大事ですがそれよりもっと緊急性があるのは被災者の「安全・安心な避難生活」です。快適で早急な「TKB」の整備が最緊急必要事項です。強靭化予算の1割りでもこの方面に活用できれば今すぐにも実現可能です。発想を転換すべきです。

 

 石川県知事は有感地震が頻発する能登地方の住民から寄せられた「不安・恐怖」と「対策要望」にどう対処していたのでしょうか。もし彼が緊迫感を持って対応していたら今発生している被害の何分の一かは防げていたはずです。にもかかわらず彼の口から「反省」と「謝罪」の言葉は一度も発っせられていません。彼にひとつの責任も無かったのでしょうか。

 

 

 

 

 

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