2025年8月22日金曜日

管見妄語(25.8)

  千玄室さんがお亡くなりになりました。齢102才、大往生です。師の「after you お先にどうぞ」こそ今世界が最も欲している言葉でしょう。合掌。

 

 若輩恐るべし、という言葉があります。若者の才能や可能性を尊重し畏敬する態度が年長者には求められるという意味です。先の参議院議員選挙はまさに「若輩恐るべし」でした。安倍一強のもと傲慢不遜に国会を軽視ししたい放題に政治を自分たちの方向に捻じ曲げた「負の遺産」が円安と物価高を引き起こし若者や弱者を非正規雇用、低賃金にあえぐ「格差拡大」と「分断」状況に陥らせました。あまつさえ「裏金」というポケットマネーの脱税集金までした綱紀紊乱は長年の岩盤支持層にも「自民党離れ」に走らせ、国民民主党と参政党を大躍進させ自民党は無惨にも衆参両院において少数与党に成り果て「55年体制」の崩壊という歴史的転換を政界に惹起しました。このほとんどが若輩の「既成政党ノー!」という意思表示の結果といっても過言ではないでしょう。

 

 では何故若者をこれほどまでに怒らせたのでしょうか。自民党税制調査会宮沢会長の「税は理屈の世界」発言ではなかったでしょうか。106万円の壁問題と消費税減税を否定する論拠としての発言ですが、何を勝手なことを言っているんだ、今まで好き放題やってきたじゃないかと若者は思ったはずです。ガソリンの暫定税率なんて「暫定」といいながら半世紀もつづけているじゃないか。消費税は社会保障の重要な財源だから絶対に減税はできないと言い張っているけど、その社会保障が私たちの時代に存続しているの?年金は貰えるの?社会保険料は年々高くなって手取りは減る一方なのに私たちの時代に残っていないかもしれない社会保障制度のために負担を押し付けられるのはもうごめんだ!

 もうひとつ、食料費の税率8%は絶対に正しいの?よその国では3%とか5%の低いところもあるしそもそも食料品は無税というところもあるじゃないか。物価高に賃金増が追いつかない今、大企業でさえ5%アップするのがせいぜいという時代に8%をゼロにしてくれれば中小企業に勤めている人にも公平に恩恵は及ぶじゃないか。消費税は逆進性があるから金持ち優遇だと「理屈」をいうけど8%の重みは低所得ほど堪えるんだよ!若者の不満はこんなところではないでしょうか。

 

 今年も8月15日に「終戦特番」が放送されました。300万人有余の戦死者が出た先の大戦ですが外地で亡くなった方の半分以上は飢餓と病気で亡くなったことは明白な事実です。武器ではなく「兵站(食料や物資の補給・整備)」の失敗が多くの兵士の死を招いたのです。

 こんな明確な歴史の証言があるにもかかわらず相変わらず我が国の軍備は「兵器偏重」です。食料自給率は35%という脆弱な体制であるにもかかわらず、そして「令和の米騒動」が露呈させたのは主食の米さえ自給できない危うさです。米も十分に確保できず戦時となって貿易相手に輸出を拒否されたらわが国はたちまちに戦闘能力喪失です。さらに言えば学力の格差もあります、軍を支える人材の劣化は戦闘能力に重大な影響を与えます。

 GDPの2%の軍事費を財源の手当てもないのにアメリカの言うままに予算化して兵器購入をアメリカに約束する。いくらアメリカの「核の傘」に守られていると安心していても肝心要のわが国の戦闘能力がこんなに脆弱では「抑止力」の効果も危ういものです。

 

 アメリカは長いあいだ「民主主義と法治国家」のモデル国として世界の尊敬を集めてきました。しかし今のアメリカはその名に値する国でしょうか。トランプ氏は大統領令を頻発して自分好みの政策を強引に推し進めています。しかしすべてが良い政策とは限りません。そんなとき「賢人」が傍らにいて彼に諫言してくれてこそアメリカという国が正常に機能するのです。ところが今のアメリカは、トランプ氏を批判するような言動を行えば彼の逆鱗に触れて「クビ」になることを恐れて誰ひとり彼に「ノー」と言えないというのです。これが正常な国の形とはとても言えません。議会も党の制約も無視して「唯我独尊」の政策を続ければアメリカは世界から軽蔑され見離されることでしょう。

 その最たる「愚策」が「トランプ関税」です。トランプ氏は国の経済と一企業の経済を混同しています。ましてやアメリカは「基軸通貨国」です。トランプ氏は二重の誤りを冒して「トランプ関税」という愚策を行なって世界中を「大不況」に陥らせアメリカ国民に未曾有のインフレの惨禍を見舞わせようとしているのです。

 企業であればひとり勝ちでも、それによって競合他社が倒産しようが犯罪さえ犯していなければ誰にも文句を言われる筋合いはありません。しかし国の経済にそれは通用しません。世界経済の全体を考慮して経済の運営を行うのが、特に大国の責任です。トランプ氏は国の経済を企業のディールと同じに考えてアメリカ経済を運営しています。これが彼の誤りのひとつです。

 もうひとつは基軸通貨国ということを全く理解していません。彼は長年の貿易赤字を怒っていますが見当外れもはなはだしいと言わざるを得ません。乱暴なことを言えば、アメリカは赤字が出ればドルを刷ればいいのです。アメリカはその権利を持っていますし誰も文句は言いません。勿論野放図にバンバンドルを増刷すれば他国の信認が得られなくなりますから規制体制をとっています。そのひとつがいわゆる「債務上限制度(デッドシーリング)」です。国の債務に上限を設定して政府の野放図な赤字政策に規制を設けているのです。上限を引き上げるには議会の承認を得る必要があります。

 何故トランプ氏はそんなに資金が必要なのでしょうか。ひとつは「減税」です。支持者にお金をばらまきたいのです。FRBのパウエルさんはそれでなくてもインフレですからトランプ氏の要求にもかかわらず金利の引き下げに抵抗していますが減税で消費が増えればさらに物価は上昇することでしょう。もうひとつは「軍事予算」の増大です。トランプ氏は今年1兆ドルの予算を要求しています。前年より1000億ドルのアップです。2023年時点でアメリカの軍事予算は世界の軍事予算の40%を占めていましたからさらに比率は増大して圧倒的な軍事力を誇ることになるでしょう。トランプ氏は戦争反対論者を装っていますがどうなのでしょうか。

 

 アメリカは基軸通貨国の特権で世界から豊富な商品を輸入して国民の消費生活を潤沢にしてきました。しかし今のままのトランプ政策が継続されるなら世界の国々のアメリカに対する信認は低下して「ドル基軸通貨」体制は破綻するかも知れません。そうなったとき、アメリカ国民の豊かな消費生活は終わりを告げることになるでしょう。

 一時の豊富な関税財政と引き換えに「基軸通貨国としての特権」を手放すかもしれない愚かなトランプ氏に鈴をつける人がいつになったら現れるのでしょうか。