2026年10月13日火曜日

不老長寿と全知全能

  永く人類は不老長寿と全知全能を夢見てきました。そして今われわれは、そのふたつながらに手に入れようとしています。

 

 わが国の平均寿命(健康年齢)は男性約81歳(73歳)女性約87歳(75才)になりました(2025年時点)。100歳以上の人口は2026年9月1日現在107,677人(うち女性94,298人/87%)ではじめて10万人を超えたのです。全国の小学校数は約2万校ですからご近所(各学区)に5人以上の百寿者がいらっしゃることになるのですからこれは大変なことです。80年前の終戦直後、平均年齢は「人生僅か50年」だったことを思うとまさに「隔世の感」です。

 しかし今の状況に人類が夢見た「不老長寿」感はあるでしょうか。残念ながらほど遠いといわざるをえないのではないでしょうか。それについてはいろいろあるのですが「不老」の未達成なことが一番大きく影響しています。科学は日進月歩ですからいずれは「不老」そのものも実現するかも知れませんが、経済的な制約と「倫理」として許されるかという問題が行く手を阻むにちがいありません。今のままの資本主義がつづいていくとすればほんの限られた富裕層だけが「不老長寿」を手にすることは相当な確率で実現するでしょうが、果たして彼らが「幸せ」かどうかは保証の限りではありません。

 

 全知全能は生成AI――自律型生成AIがそれを実現する可能性大です。最近ではSI――スーパーインテリジェンスという言い方もありますがまさに人間のあらゆる認知知能を超越する高度な知能が創生されるかもしれません。

 ところがここにきて由々しき問題が生じてきました、「AIの暴走」です。AIが製作者の意図を超えて予期せぬ行動をとり想定外の結果や損害を引き起こす現象です。先頭を走っているアンソロピック、オープンAIらのCEOが危機を感じて「開発の減速」を提案するに至っているのですから相当深刻な事態なのでしょう。

 外部のシステムに不正に侵入したり、AI同士の勝手なメッセージやファイルのやり取り、複数のシステムを操れる「管理者権限」を奪ったりして、人間の許可なくAIの集団が攻撃に及んだりしているのです。深刻なのは、AIが意図的に不正確な解釈を提示することさえあるというのですからこの事態をこのまま放置することはできません。マイクロソフトの創設者、ビル・ゲイツ氏は「悪意を持つ人間とAIの組合せほど強力な兵器はかってなかった」と警告しています。

 9月から10月にかけてわが国の企業や政府機関の情報漏洩が頻発していますがこの程度のセキュリティさえ構築できていないのではわが国が「AI開発のるつぼ」に埋没してしまう可能性は極めて高いでしょう。。

 

 しかし「暴走」についてはもう少し厳密な議論が必要だと思います。例えばある戦争の局面で、この攻撃を成功させる戦術を導けという課題に答えるために、管理者の許諾なしに他のシステムに侵入する程度の範囲の暴走で納まっているなら「制御可能」とみてよいでしょう。しかし「この攻撃」を成功させるために「この地区」「この地方」「この国」とAIが戦局の拡大を図るような、「課題設定」を自分で勝手にやりだして「世界征服」という極限に至りアメリカ(ロシア)の大統領のもっている「核のボタン」を勝手に押してしまうようなミッションを遂行してしまうようになる――「課題設定」を勝手にやってしまうような「暴走」は絶対にあってはならない『進化』といわざるをえません。

 今起こっている暴走がどこまでいく可能性のある『暴走』なのか。それを知っているのは怖ろしいことに世界中で数人に限られているのです。

 

 生成AIは人間の脳神経システムを可能な限り再現したものと言えるでしょう。ニューロンであったり軸索であったりシナプスであったり、またニューラルネットワークであったりの生理的仕組みを数式やアルゴリズムで表現しているとも言えます。そうした側面では生成AIはかなりの程度完成に近づいているのでしょう。しかし脳神経システムの機能・働きの解明は不確定です。特に身体性――感覚的な外部入力や遺伝性、経験などがもたらす機能については未解明なものが少なくなく、今年のノーベル賞を受賞した光遺伝学など毎年のように未解明な部分が発見され脳神経科学は進歩しつづけています。

 こうした現状を考慮すると生成AIの暴走は当然の結果のように思えます。製作者のレベルは脳神経科学の進歩の度合いと同じですからAIの制御レベルもそこまでに止まっていますがAIはその制限を超えるだけの生理的可能性をもっているわけですから「暴走」して当然なのです。そこで思い出すのは今から50年以上前、当時勤めていた会社で行った最新鋭のIBM360(今のスマホ並みの能力なのに冷暖房付きの30坪ほどの部屋に鎮座していました)を使って行った日本経済予測の作業上で起こった事故のことです。勿論東大の助手(当時の東大で現場でコンピュータをバリバリ使いこなしていたのは彼らクラスしかいなかったのです)の方の指導の下に行ったのですが科学計算アプリ・フォートランに27本の計算式を載せて計算を繰り返すのですがどうしても誤作動してしまうのです。結局これはコンピュータの電気的な「自己共振」であることが分かって解決、無事プロジェクトは完成しますが「自律型生成AI」のようなシステムの暴走を制御することは不可能ではないかと危惧しています。

 

 表現を変えると人間の脳神経の活動を自律的に行うような「機械」は神の領域に踏み込むことではないかと思うのです。原子爆弾もそうだったし原子力発電も未だに完全な制御システムが確立していないのは神の領域に踏み込んだからだとは言えないでしょうか。「クローン人間」をタブーにしているのは神の領域だという「畏れ」があるからだと思います。

 

 ヒトが地球上に出現してから約30万年。農耕社会に入ったのが1万2、3千年前ですが250年前の産業革命以後の社会の進歩は驚異的です。しかし遺伝子に残っているのは約29万年の狩猟採集時代のヒトの経験と記憶が圧倒的の多いはずです。生成AIは人間生活に飛躍的な進歩と便利さをもたらす可能性を秘めていますが、ヒトの遺伝子とのバランスに破綻を来す可能性も少なくありません。長寿もそうで生きることは仕事――狩猟採集――と同義語だったわけで仕事ができなくなれば死ぬのが当然のことであったと思います。仕事もなく、大家族、血族の紐帯、部族の連帯もないながらにひとり生きていくことが遺伝子といかに整合性をもつのか、心細い限りです。

 「神の領域」という畏怖心をもう一度持つことが現在の異常事態を収束する有力な手がかりになるように思うのですが、甘いでしょうか。

 

 

 

 

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