2025年3月3日月曜日

AIとSDGs

  トランプ大統領の野蛮で暴力的な言動やイーロン・マスク氏の軽薄で浮かれポンチな振る舞いを見ていると超大国アメリカの断末魔の叫びを聞いているような思いに駆られます。第二次世界大戦が終わって世界が破壊と疲弊にあえいでいる中で唯一無傷のアメリカがそのアドバンテージを謙虚に受け止める恭謙さもなく圧倒的な経済力と軍事力を振りかざして世界を睥睨しました。あまつさえ「世界の警察」を気取り発展途上・復興途上の国家・民族の軋轢に容喙しながら結局中途半端な責任放棄の挙句混沌を世界に撒き散らして現在に至っているのです。世界標準と乖離した豊かさを浪費する「アメリカンスタンダード」は製造業のグローバル競争において完敗を招き「ラストベルト」という格差と分断をもたらしました。それを挽回すべく金融と情報という「新産業」を産みだしたのですが裾野の狭さは製造業ほどの雇用創出につながらず、そこに包摂されなかった層との間に「富の偏在」による「格差と分断」に拍車をかける結果に陥り、とうとう「トランプとマスク」という最悪の「政治状況」を現出してしまったのです。

 アメリカの混沌につけ込んだイスラエルはハマスの愚挙をこれ幸いと「確信犯的」なジェノサイドと復興不能な壊滅的な破壊を行いガザからパレスチナを強制的に退却させようとしました。世界的な批判にもかかわらずアメリカが野放図なイスラエル支援を継続したのは、自らが招いた混沌の中東にあって「唯一の橋頭堡」イスラエルを失えば中東をきっかけとしたグローバルサウス勃興が抑制不能におちいりその結果「世界の強国のひとつ」に成り下がってしまうかもしれない「恐怖」にかられたからです。それはプーチンのウクライナ侵略に対しても同じ構図で、ある意味でアメリカを見限ったヨーロッパをこれ以上「反アメリカ」に傾斜しないようにロシアを対抗勢力として配備することでヨーロッパに睨みを利かせる効果を図る意図が見え見えです。それは対中国戦略としても有効で、今やアメリカの10%にも満たないGDP世界11位の老大国ロシアを「核兵器大国」としてユーラシアに残しておくことで「米中ロによる世界均衡」を保持しようという危険な賭けにトランプ・アメリカは踏み出そうとしているのです。

 

 戦争・紛争・内乱はウクライナとガザだけでなくスーダン、シリア、イエメンでも長期化しておりハイチ、レバノン、コンゴ民主共和国の人道危機は深刻化しています。ミャンマーの軍事独裁政権によるアウンサンスー・チー氏の幽閉も4年になろうとしていますが解決の見通しはたっていません。こうした現状を鑑みると「平和」を享受している国は世界のほんの一部に限られていて、何らかの不安定要素を帯びた国々を含めて世界は未だに「戦争と飢餓」の人類の宿痾から解放されていないのです。経済・社会の発展段階に注目すれば農業・漁業を主産業とする段階に止まっている国から製造業を主とする産業資本主義の段階を超え金融・情報産業に進展した「ポスト産業資本主義」の国まで「多層」な国々が併存しているのが現在の世界状況です。にもかかわらず「AIを装備した新自由主義的資本主義」の「グロ-バル化」を「自由放任」にまかせて野放図に放置しておけば発展段階の遅れた弱小国はひとたまりもなくその暴力に飲み込まれてしまうにちがいありません。折りしもトランプ大統領はガザを富裕層のリゾート地化したSNSを自ら黄金像とともにアップしましたが現在のトランプ・アメリカを放置しておけばそれは決して絵空事ではないのです。

 

 そもそもSDGsはそうした現状に危機意識をもった世界の知性の警告であったはずです。従来のままの「生産」「消費」を繰り返していたらその影響は地球規模の環境の悪化や貧困の深刻化、生態系の破壊などの形で現れることになります。それでは人類の持続可能性が危ういので、「持続可能な開発目標」を共有して人類の調和ある発展を期そうと定められたのです。その17のゴールをここで発表する煩は避けますが「貧困」と「飢餓」からの脱却はそのゴールの最上位に位置づけられています。にもかかわらず2015年に定められたこのゴールは10年経ってむしろ遠ざかってしまっているのではないでしょうか。G20に象徴される先進大国はその経済力と軍事力を暴力的に行使して国家間の「格差」を拡大する方向に暴走しています。環境破壊はむしろ悪化していますし「難民」は「包摂」から「排除」に追いやられつつあります。

 

 トランプ大統領のアメリカの危うさはSNSのプラットフォームとAIを独占しているところにあります。先進国の人口減は製造業(農業を含めて)や政府機関(地方公共団体を含む)の業務のAI化ロボット化を必然化します。「効率化」は極大化され「生産性」はそれ以前と比較できないほど向上するにちがいありません。そうした先進国が「ニューフロンティア」を求めて発展途上の市場に土足で踏み込めば弱小国は「従属」せざるを得ないでしょう。しかしアメリカは「基軸通貨国」としての『責任』を完全に『忘却』して『放棄』して暴力的に「世界支配」しようとしているのです。少なくとも「トランプの4年」は既定の事実として暴走することでしょう。

 

 AIに対してヨーロッパは自制的に取り組んでいます。わが国はAIの発達を当然化してそのデータセンターに要する厖大な電力需要を満たすために3.11の教訓を投げ出して「原発回帰」を「国民の審判」を経ることもなく推進しようとしています。

 免許を返納して歩行と自転車が移動の手段となって気づいたことは、厖大な高速道路整備を含めて駐車場などの「自動車関連資産」へどれほどの税金を投入してきたことかということです。間接的な恩恵はあるとしても「自動車産業」という一産業の発展のために国家財政を限りなくその「育成と保護」に投入してきたのです。そして今度は「AI産業」です。しかもそのすそ野は自動車産業とは比較にならない狭い産業です。格差は今以上に広がることは明らかです。

 

 SDGsはこの10年間あらゆる分野で推進に努められたような印象を抱いていますが17のゴールのほとんどが未達成で、現状はますます遠のいていく方向に進んでいます。

 きれい事でなく「人類の知性」のマイルストーンとして世界が前向きに取り組むようわが国が働きかけることを願った止みません。