核を保有する軍事大国の傍若無人な振る舞いが世界を混沌に陥れ一触即発の戦争危機と到達点の見通すことのできない軍拡競争を招いています。そんな折高市総理の台湾有事に関する不用意な存立危機事態発言がわが国をのっぴきならない状況に追い込みつつあります。
こうした事態は根本原理を認識すれば至極当然の結果であることが理解できるのですが根本原理とは何か。カントが300年前に提示した次の公理です。
将来の戦争の原因を含む平和条約は、そもそも平和条約とみなしてはならない。その理由は、この条約はたんなる停戦条約にすぎず、敵対的な状態を延長しただけであり、平和をもたらすものではないからである。平和とはすべての敵意をなくすことであるから、永遠のという言葉をつけることさえ、そもそも余計なことなのである。平和条約というものは、締結の時点では当事者ですらまだ意識していない原因を含めて、将来の戦争の原因となりうる原因のすべてをまとめて排除するものである。(略)常備軍が存在するということは、いつでも戦争を始めることができるように軍備を整えておくことであり、ほかの国をたえず戦争の脅威にさらしておく行為である。また常備軍が存在すると、どの国も自国の軍備を増強し、他国よりも優位に立とうとするために、かぎりのない競争が生まれる。こうした軍拡費用のために、短期の戦争よりも平和時の方が大きな負担を強いられるほどである。そしてこの負担を軽減するために、先制攻撃がしかけられる。こうして、常備軍は戦争の原因となるのである。(『永遠平和のために――哲学的な草案』)
何と簡単な原理でしょうか。常備軍がある限りいつでも戦争を始める用意があるのですから平和状態は次の戦争までの“停戦状態”にすぎない。軍備を持てば二位では不安で一位をめざして限りない軍備増強に走る。その負担を軽減するために先制攻撃をしかけたくなる。
現在世界で進行中しているトランプ主導の軍拡競争。世界最貧国北朝鮮が突っ走る核武装の高度化。ここで機能不全に陥った国連を再び80年前の「理想追求の場」に再生しないならば世界は限りなく暴発へと傾斜していくにちがいありません。とりわけ北朝鮮の経済状況はもういくばくの猶予期間も残していないはずです。緊迫度がここ一両年で急速に高まっていくであろうことを肝に銘じておくべきでしょう。
エーリッヒ・フロムの『自由からの逃走』を読んだのは65年前です。彼は言います。人類の歴史は「~からの解放」の歴史であった。飢餓、感染症、暴力(戦争)からの解放、自由の獲得が有史以来近代までの人類の歴史だった。ところがその自由を手にした途端人類は新たな「依存・従属」を選んだのです。ナチズムへの従属の危険性をフロムは1941年に書いたのです。
すなわち近代人は、個人に安定をあたえると同時にかれらを束縛していた前個人的社会の絆からは自由になったが、個人的自我の実現、すなわち個人の知的な、感情的な、また感覚的な諸能力の表現という積極的な意味における自由は、まだ獲得していないということである。自由は近代人に独立と合理性とをあたえたが、一方個人を孤独におとしいれ、そのため個人を不安な無力なものにした。その孤独はたえがたいものである。かれは自由の重荷からのがれて新しい依存と従属を求めるか、あるいは人間の独自性と個性にもとづいた積極的な自由の完全な実現に向かうかの二者択一に迫られる。本書は予測よりもむしろ診断――解決よりもむしろ分析――ではあるが、その結果はわれわれの行為の進路に一つの方向をあたえている。なぜなら、全体主義がなぜ自由から逃走しようとするのかを理解することが、全体主義的な力を征服しようとするすべての行為の前提であるから。(『自由からの逃走』フロム著1941)
アメリカの半数の国民がトランプに依存しているのは明らかです。アメリカだけでなく世界中で極右勢力が跋扈しているのは多くの国民が既得権の回復を標榜するポピュリスム極右政党に依存して一時の救済を求めようとしているからです。個人の知的な、感情的な、また感覚的な諸能力の表現という積極的な意味における自由――これまでになかった新しい価値への自由を創造しなければ人類の進歩は頓挫しまた暗黒の「前近代」へ陥落していくのは確実です。
84才になっていよいよ「晩年後期」に入った我が人生の立地点を明らかにしておこう。なにやら頭脳に薄靄がかかったように感じる昨今、幾分でも頭がはっきりしている今それをしておこうとこの稿を書いています。次回はわが国の賢人からの学びで現在地を明らかにしたいと思います。 (続)
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