2025年6月18日水曜日

少子化問題もう一つの視点

  わが国の出生数が2024年始めて70万人を割り込んで68万6061人(前年より約4万人減)、合計特殊出生率は全国平均1.15で過去最低になりました。国の想定よりはるかに早く80万人割れからわずか2年で70万人を割ったことは少子化の深刻さが放置できないレベルに達していることを示しています。岸田総理の異次元の少子化対策――「加速化プラン」はなにを加速化しようとしたのでしょうか。

 

 これまでの少子化対策は「子どもを生み育てやすい環境づくり」にまとめられます。そして待機児童の解消、放課後子ども総合プラン、多様な保育サービスの充実、、希望の教育を受けることを妨げる制約の克服といった子育て支援策が打ち出されました。それは若者の雇用安定・待遇改善、働き方改革の推進、非正規雇用の待遇改善といった働き方支援のかたちで充実が図られ経済的な支援としては児童手当の充実、育休・時短勤務の推進、出産費用の補助、高等教育費用・奨学金の拡充が行なわれました。

 にもかかわらず少子化に歯止めはかからなかった、のです。

 何故かと考えると少子化は「晩婚化、未婚化、晩産化、無産化」といった社会的な風潮の結果であるにもかかわらず国は見当違いの支援や方策を繰り返してきたからとはいえないでしょうか。

 

 そこで視点を変えて一つの指標に注目してみようと思います。「婚外子比率」です。婚外子とは結婚していないカップルの間に生まれた子のことで非嫡出子ともいいます。(戸籍上は母親の戸籍に入ります。父親の認知は戸籍とは別問題です)

 世界の主な国別「婚外子比率」次のようになっています。

 フランス61.0%スウエーデン54.5%イギリス48.2%アメリカ40.0%イタリア35.4%ドイツ33.3%。これを出生総数から実数を換算するとフランス41万人スウエーデン32万人イギリス32万人アメリカ149万人イタリア14.5万人ドイツ74万人になります(婚外子率はイギリスは2017年、その他は2019年のもです。出生数は2021年のものを使用しました)。

 これに対してわが国は2.4%(2020年)婚外子数19,600人です。この圧倒的な差はどうでしょうか。もしこの比率が25%になれば約20万人、40%なら約30万人になりこれを70万人に加えれば約90万人から100万人になります。少子化は一挙に解決です。ちなみに韓国は2%から4.7%がここ4、5年の傾向で中国はデータがありません。

 

 この数字をどう考えるか、です。わが国では「戸籍」に登録する結婚を前提としてその後の出産・子育て・教育への支援を行なうことで少子化を脱しようとしてきました。当然のことながら経済的・社会的権利や補償・補助も結婚届を出す出さないで大きな差が生じる体制になっています(戸籍制度があるのはわが国以外では韓国と台湾だけですがこれもわが国の植民地化や統治の影響です)。ところが世界の先進国は「事実婚」が趨勢となっており半数を超える国や4割を超える国がほとんどです。

 ということは「出産」に至る道が多様化しているということです。婚姻届を出して「家」を継承し「同一の家(氏)」を家族連帯の基礎とすることを「出産」への唯一の選択肢(僅かな事実婚はあるものの)としている現在のわが国の社会的状況では少子化対策にいくら予算をつぎ込んでも「少子化」を止めることはできないということを意味しているのではないでしょうか。「選択的夫婦別姓」でさえも保守層の一部の頑強な反対で実現できないでいる今のわが国では少子化は加速化こそすれ歯止めなどできるはずもないのです。

 

 生殖に至る性行為は個人的かつ生理的(動物的)衝動にもかかわらず現在わが国で行われている「少子化論」は社会的・経済的側面が主でありかつ偏った伝統的道徳観との整合性が論じられています。「事実婚」は今のわが国では社会的承認以前に止まっていますし経済的地位もあやふやで伝統的道徳観に固執する一部の保守層からは非難さえ受けているのが実情です。欧米先進国では最低でも4、50万人、ドイツでは70万人アメリカに至っては150万人近くを占めている「婚外子」を排除するわが国の「少子化政策」が、その費用対効果において膨大なる「ムダ」を流しつづけているのは至極当然の結果なのです。

 「少子化問題」の本質は極めて「道徳的・倫理的」であり「個人的な幸せ」の問題なのです。事実婚を受け入れる「道徳的(倫理的)」土壌を醸成しどんな「幸せ」を結ばれる「ふたり」に約束できるかという問題として論じられるべきなのです。

 

 上に述べましたが韓国も我が国同様婚外子率が極めて低いのですが中国はつい最近まで「一人っ子政策」を厳格に実施していましたから婚外子の多いはずもありません。さらにこの三国はジェンダーギャップ指数が先進国中最低ランクという共通点もあります。韓国は94位中国106位、わが国は何と118位です(2024年)。そしてあえて付け加えるなら一時代前までこの三国は儒教思想が非常に強く残っていた側面もあります。

 こうしたことを前提にわが国の社会経済状況を考えてみると、離婚割合(離婚数/婚姻数)が3組に1組以上(18万3千組/47万4千組―2023年)と非常に多い上にシングルマザーの収入(年)が約306万円と子どものある非離婚家庭(745万円)の半分にも満たない低所得にあえいでいる現状があります。

 

 こうしたわが国の状況をまとめてみるとこんな風に言えるのではないでしょうか。

 結婚をしないカップルが子どもを持とうとした場合男性はそうでもないのに、女性に対してはふしだらだとかだらしがないといった蔑視の非難が強く、子どもが欲しいという願望が強くあえて子をもうけても離婚の可能性は決して低くなくシングルマザーの年収は300万円少々と低所得を覚悟しなければならないのです。

 これでは女性が婚外子を持とうという決断をためらうのは当然ではないでしょうか。

 

 もし子どもが「社会の宝」だというのなら、そのカップルが婚姻届けを出しているいないで祝福されないカップルの子どもという烙印を押されるような差別はあり得ないのではないでしょうか。婚外子の誕生を社会がこぞって祝福するような寛容で包摂的社会を実現することが多子社会を実現するもっとも可能性の高い道なのです。

 選択的夫婦別姓はそのような社会を実現するための最初の一歩に過ぎないのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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