2010年8月17日火曜日

自動織機を打ち壊した日本

 先日中国の過剰設備廃棄の記事を見た。セメントなど18業種2087社に対して老朽化した生産設備を9月末までに廃棄するよう命じたもので、罰則が新規融資の差し止めや電力の供給停止等相当厳しい内容になっている。
 この記事を見て1960年代に行われた我国の繊維機械(紡績機械や自動織機など)の廃棄処分を思い出した。構造不況業種に指定された繊維産業が「繊維工業設備臨時措置法」に基づいて廃棄を命じられたもので、1台幾らかの処分費用が支給され強制的に実施させられた。当時生家が西陣で自動織機のメーカーを営んでいたのでハンマーで機械を打ち壊すテレビの映像を家族と共に口惜しい思いで眺めていた。強制的な生産設備の廃棄処分は1980年頃まで繰り返し実施され、成長期を過ぎた産業や過大な設備投資を行った産業の需給調整を国が産業政策として組織的に行い、対象産業は造船、鉄鋼(平電炉)、化学肥料、セメントなど多岐に亘った。

 我国は長期間デフレに陥って未だにその出口が見えない。3月に発表された法人企業統計によれば日本経済の「需給ギャップ」は昨年10~12月期にマイナス6・1%となり年約30兆円の需要不足の状態にあるという。デフレが語られる場合このように需要不足の側面が指摘されることが多いが供給面に問題はないのだろうか。
 
 米国勢調査局の研究によると、米国製造業の生産性の成長の半分以上が「事業所(工場や店舗)間における生産資源の再配分(参入・退出を含む)」によるものであると推計されている。日米を比較すると事業所レベルの参入・退出が日本で極端に少なく凡そ米国の半分より少し多い程度と考えられる。何故日本で生産資源の移動が少ないかについては金融市場の不完全性や労働市場での慣習・規制が非効率性の原因となっており『ゾンビ企業』が生き残る結果になっている。

 デフレの需要不足の側面が強調される余り供給面の検証が不十分なまま、規制緩和や構造改革を中途半端に中断し、郵政改革見直しに象徴されるような改革後退に繋がる動きさえ見られる昨今、かつて我国で行われた「設備廃棄」のようなドラスティックな産業政策への躊躇が非効率な資源配分を放置して需給ギャップを拡大していないか。

 このままでは自動織機を廃棄した先輩たちの涙が無駄になってしまう!

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