2011年12月19日月曜日

無痛注射針と100円ショップ

先日0.2ミリの無痛注射針を開発した岡野工業㈱の岡野雅行さんの話を聞いた。普通はあらかじめ切られた細いパイプの先を尖らせて作るところを、1枚の平らな板を丸めながら作ることで軸径から先端の径をなだらかに先細りにして刺すときの痛みを限りなくゼロにする「針の先が世界一細いテーパー状注射針」を実現したのが岡野さんだ。世界中の大企業から中小企業まで製作不可能と辞退したテーパー状注射針の製造を東京下町の町工場岡野工業㈱の岡野さんが引き受けたのだ。岡野さんはいう、誰でも知っている技術だけではこの製品は絶対できない。私だけがもっているノウハウが必要なのだ、と。

 我国のいろいろな分野で「私だけがもっているノウハウ」がある。でもそれが無くても『似たような商品』は誰でも作れる。「ちょっとの違いが大きな違い(価値の差)」を生むのだが、違いの無いソコソコ使える商品が今の日本には溢れている。
 毎朝ゴミ拾いに使っているトングは2代目になる。先に使っていた100円ショップで買った1枚の板を成形して折り曲げただけの品物は3年で使い物にならなくなった。今のは2枚の板を別々に制作しピン留め、ばねで開閉できる式のもので収納しやすいように閉じた状態でハネ止めできるようになっている。それぞれの板には折り返しがあり掴み部はスペード形なので掴み易い。強度も使い勝手も100円ショップのものとは格段の差がある。これで210円は安い。
 正月の祝い椀は漆器だが収納に妻は苦労している。丁寧に常温で乾かして和紙で蓋とお椀を包み1客づつ箱に収めて保管している。雛人形でも同じような気遣いをしている。こうした妻の作業を身近で見ていて感じるのは「製作者と使用者の緊密な関係」である。どちらが欠けても日本の生活用品・道具の品質の高さと耐久性は今日まで保持できなかったに違いない。

 100円ショップにはあらゆる商品がある。しかしこの「ちょっとの違い」を放棄した「誰にでも作れる商品」が『追込んで廃らせた商品や商店や職人』がどれほどあることか。

 デフレ経済が長く続き生活ぶりが萎縮している今の日本。豊かさを実感するためのひとつの方法は「良いものを大事に使う」ことではないか。『職人技』をもういちど見直すことだ。『まがい物』でつくられた「仮り物の豊かさ」に騙されないことだ。そう仕向けようとしている人たちの企てに気づき「本物の豊かさ」を享受するための『賢明さ』を身につけることだ。
 停滞し続ける政治状況に苛立ちながら強くそう感じている。

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