2013年1月21日月曜日

豊かさの先に

 人類の歴史は「飢餓からの解放」の歴史であった。今でこそ「飽食の時代」などといわれているが我が国でもほんの50~60年前までは満足に食べることのできない人が少なくなかったし今でも世界中に10億人近い人が飢餓に苦しんでいる。
 歴史を人口的にみるときジャガイモのもたらした恩恵は大きい。穀類は生育が難しく収量に限界があってヨーロッパでは一般庶民の主食になることはほとんどなかった。有名なミレーの「落ち穂拾い」は農場に雇われた農夫たちが収穫後の農地に落ちている穀物を拾い集めている姿を描いたもので彼ら農夫に許された収量は一握の砂にも等しい乏しさであった。ところがジャガイモはどんな荒地でも、寒冷地でも収穫が可能であったのでジャガイモの普及は一般庶民の栄養状態を一挙に改善した。貧困層にとって家族数の適正維持は重要問題であったから「産児制限」は必須であったが今のように避妊器具の発達していなかった当時の避妊術は「間引き」か「性交中断」しかなかった。ジャガイモによる食糧事情の改善は貧困層にも恩恵を及ぼし爆発的な人口増加を実現、産業革命による「ヨーロッパの時代」を招来することになる。

 閑話休題。「大金持ちの貴族がお雇のメイドと結婚した。これによるGDP(国内総生産)への影響はいかに」という問題。正解は、GDPは減少する、である。メイドとして雇用されている間は「給与」が発生するからGDPに計上されるが結婚した後彼女の仕事は「無償の家内労働」となりGDPから抹消されるからである。
 2000年に施行された介護保険制度によってそれまで家族で面倒を見るのが当たり前とされていた「介護」が社会化され家内労働から生産・サービス財となって有償化されGDPの大きな一つの項目になった。
 太平洋上の人口5000人足らずの小さな島嶼国。自給自足と隣同士の融通で過不足なく生活している。年寄りや病人の面倒は勿論家族の務めである。国連がGDP統計を取ろうとしても島に市場がないからほとんどセロ。しかし住民は皆、満足して暮らしている。

 安倍政権になってデフレ脱却を旗印に相当強引に金融財政政策を展開し経済を成長させようとしている。しかし上述したようにGDPという尺度は幸福度を表すには万全とは言い難い指標だということを理解する必要がある。数字上は2%なり2.5%の成長を示しているが実感がないとか、大企業は儲けているが中小企業や一般庶民には恩恵が及んでいないとか、GDOへの不信感は根強い。
 
 食うに困らない年金生活者が多いにもかかわらず余生を楽しんでいるように見える年寄りは思いの外少ない。経済は「本当の幸せ」「満足のゆく生き方」を実現するためのひとつの要素であり物質的な豊かさは「選択肢」の幅を広げるに過ぎないことを彼らは実感している。

 遥かなる島嶼国は桃源郷か……。

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