2013年5月13日月曜日

私の中央銀行論

 黒田日銀による「異次元の金融緩和」が行われアベノミクスに弾みがついた。米欧につづいて我が国も超金融緩和に踏み込んだことで先進国はすべて従来の中央銀行では考えられなかった「非伝統的金融緩和」を実施したことになる。極めて専門性の高い金融理論の知識のない我々はこうした状況をどう理解すればよいのか。
 
 20世紀は「戦争の世紀」だった。世紀初頭の第1次世界大戦と紀央の第2次世界大戦、そして冷戦とその終焉が世紀末に及び大きな戦争だけで世紀を通観することができるがそれ以外にも絶えることなく世界各地で地域紛争が戦われていたのだから正に20世紀は戦争の世紀であったといえる。この間英国が基軸国から転落しその後を襲った米国の基軸国としての世界制覇、そして冷戦のための経済戦争に疲弊した社会主義国ソ連邦の消滅と世界の勢力地図は激しく変貌した。
 戦争の経済は「戦費と戦後復興資金」の調達という厖大な資金を中央政府が市場から吸い上げる「大きな政府」の経済である。このため市場で流通する財・サービスと流通資金量は絶えず不均衡な状態に陥る危険性をはらんでいた。流通資金量は何かを引き金に突然流通する財・サービスより不足し物価騰貴する可能性があったから中央銀行は「インフレ」の危険性に細心の注意で臨む必要があった。中央銀行に求められたのは「物価の番人」として「インフレ」を招かない機能であった。
 20世紀最大の金融的パラダイムシフトは「ニクソン・ショック」による金本位制の終結であろう。金(銀)への兌換性が保持されることによって流通資金量の創出が金(銀)の保有量によって制限されていたものが基軸国アメリカの金本位制の放棄によって規制のタガが外されてしまった。事実これ以降アメリカの流通資金の創出は基軸国の立場を利用した、ある意味「野放図」なものとなっていった。そしてこのことが今起こっている金融緩和の伏線になっている。

 冷戦終結以後21世紀は戦争に変わって経済のグローバル化に伴う「世界市場の拡大」が世界経済の攪乱要因として顕在化した。アメリカを中心としたG5やG7の先進国主導の経済体制は終焉し現在の混沌とした「Gゼロ」の世界経済体制に変貌した。
グローバル化の特徴は、世界経済が耐えず「供給過剰」の状態にさらされることであり、とりわけ工業製品はその傾向が強い。我が国や韓国、また現在の中国等の新興国の例を見ても明らかなように、世界市場に新規参入する後進国はまず「工業化」するからである。工業は多くの場合「資源消費型産業」である。資源は有限であり、その有限の資源をG5であったりG7という限られた国で利用できていた「先進国有利」の状態が崩壊してG20の競争状態に突入している。新規参入国は今後益々増加し続けるであろうから工業製品の供給過剰状態は21世紀の「定常的特徴」として受け入れなければならない。この状態を金融面から見ると「市場に流通する資金量」が流通する財・サービスに比して絶えず「不足」する傾向にあると考えられる。
グローバル化による工業製品の「世界的供給過剰」を解消するために不足する流通資金を世界の市場で流通している「ドル、ユーロ、円」を投入することで均衡を図る、こうした過程が現在先進国の行っている「非伝統的金融緩和」の実態ではないだろうか。

 中央銀行、特に先進国中央銀行の20世紀と21世紀における機能の変化―インフレ抑制のための「物価の番人」から非伝統的金融緩和による「世界市場への流通資金の供給者」への変化を、私はこう理解したのだが……。

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