2013年6月10日月曜日

今年の阪神は何故強いのか

 私の友人で生粋の東京人(実は逗子人)でありながら筋金入りの虎キチがいる。今年開幕前、彼にこんなメールを送った。「今年の阪神は要注意です。チームに本物のシン(芯)ができたからです。大躍進を恐れています。健闘を祈る!」。彼からの返信はこうあった。「イエイエ、おたくの巨人にはかないませんよ、今年も巨人の優勝でしょう」。
 首位を巨人と併走しセリーグ・ペナントレースを突っ走る阪神の好調を彼はどう見ているのだろう。巷間言われているように、西岡、福留などの補強の成功と超高校生ルーキー藤波投手の加入をその主因と考えているのだろうか。確かにそれも好調の一因だろうがもっと別のところにも原因があるというのが私の見方だが、その前に為末大の「勝利へのセオリー」を聞いてみよう。

 NHK・BS1で放映されている「為末大の勝利へのセオリー」。為末大がスポーツを戦略面から読み解く新感覚ドキュメントだが5月26日の「つなぐ力 大阪ガス陸上部コーチ 朝原宣治」でこんなことを言っていた。「日本陸上・短距離界は長い低迷に喘いでいた。五輪や世界陸上の決勝へ進出できれば上出来、と考えられていたから結果が最下位の8位であっても当然視されていた世代。それが末續(200M)為末(400Mハードル)の時代になって、頑張ればなんとかメダルに手が届くぞ、というレベルに達した。その集大成が北京五輪での『男子4×100Mリレー』の銅メダルである。バトンタッチを修練すればリレーのメダルは可能性があるとの信念でバトンタッチの技術を研鑽し、アンダーハンドパスという究極の選択で銅メダルが獲得できたのだ。そして現在の「桐生世代」になった。彼らは初めから世界レベルを視野に捉えて競技する世代である。このようにして、日本陸上・短距離界は三世代にわたってひとつづつ「意識の壁」を乗り越えてきて今日がある。ジャマイカが五輪の決勝に5人、6人ものファイナリストを送り込むのは彼らに『9秒の意識の壁』がないからだ。スポーツは肉体面、技術面も大事だがある程度のレベルに達すると『意識の壁』をどう切り崩していくかも大事な要素になってくる」。

 阪神はここ10年以上、金本、新井や下柳、矢野といった移籍組を中心戦力としてペナントを戦ってきた。チームのシンも彼ら移籍組が務めたが彼らの活躍が直接チームの底上げにつながることはなかった。今年、WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)で鳥谷、能見の両選手が大活躍した。とりわけ鳥谷選手は輝いていた。これをみて、「生えぬきのチームのシン」ができたと感じた。「本物のチームのシン」ができたことで選手の力が収斂しチーム力がアップする。迷いの無くなった若手は練習に方向性が出てレベルアップが加速するかもしれない。
 新人で入団しプロ生活を阪神で始め育った選手にとって不安なのは「今の練習で一流にのし上がれるだろうか」という疑念である。例え金本選手が大活躍しても彼はよそのチームで育った人だから自分の喜びに直結しない。むしろ生えぬき選手に抜きん出て移籍組が活躍すればするほど、自分の今が正しいかどうか、不安の方が大きいかも知れない。しかし生えぬきの鳥谷や能見がWBCメンバーの中で遜色のない、いや目立って活躍したとなれば「阪神方式」の正当性が証明されたことになる。
 阪神の選手の心の中に長い間、シコリとなってわだかまっていた阪神方式への不安という『意識の壁』が払拭されたのだ。プロになるような選手はある意味で天才といえるのだから、為末さんのいう『意識の壁』を如何に切り崩していくかが選手として大成する重要な要素になる。それは陸上競技も野球も同じだと思う。
 
 今年はもう巨人と阪神のマッチレースだ。このままデッドヒートを演じれば巨人ファン阪神ファンにとってはたまらない一年になる。

0 件のコメント:

コメントを投稿