2013年10月14日月曜日

入(い)るを計って出(いず)るを制す

  働く人の給与が下がり続けている。民間給与実態調査(国税庁・1年を通じて勤務した給与所得者)によると平成9年の年収467万3千円が平成23年には409万円まで、58万円13%以上減少している。アベノミクスを通じて安倍首相は産業界に賃上げを要請しているが、内部留保が250兆円以上に積み上がっているにもかかわらず一向に積極投資に打って出ることができないでいる経営者がおいそれと賃上げに踏み切るとは思えない。

一方でいよいよTPP(環太平洋経済連携協定)が年内妥結を目指して本格交渉に入っているが『聖域』の取り扱いをめぐって産業界の抵抗が続いている。その聖域論争なるものの報道に接するたびに強く違和感を覚えるのはその全てが「生産者」サイドの論議に終始していることで、消費者の利益がほとんど考慮されていない。
コメの関税は778%というおよそ常識外れに設定されているので実質輸入禁止になっているようなものだから国産米の価格が相当高めに誘導されており我々消費者は高いお米を買わされている。どれくらい高いかというと諸説あって2倍とも3倍とも言われているが、今低めの2倍として我が家の場合を考えてみると、1ヶ月5Kg2000円クラスのものを3度買っているので月間の購入金額が6000円から3000円に減少することになる。これを逆に考えると給料が3000円分上がったのと同じことになる。
医療費も『聖域』のひとつだ。現在の医療制度の多くは「医師会」と政治・行政の妥協で今日に至っているが「医師会」はどちらかといえば「個人開業医」の団体という色合いが強かったから、個人開業医に有利な制度として設計された。もし今日の状況に即応した制度に改めることができたら―個人開業医に有利な制度(税制等)を是正できたら―「医療費」は少なからず低下させられると専門家は言っている。医療費改革の大きなツールであるカルテの電子化も個人開業医の抵抗が強いせいで実施が遅れていると言われているからここにも医療費低減の『シード』がある。生活保護費3.7兆円(2012年)の半分近くを占めている医療扶助の歪みを是正することでも相当額の医療費が削減できる。その他ジェネリック薬の活用促進等も有り「医療費」の合理化余地は少なくない。もしこれらの改革が全てできれば「健康保険料」の低減も実現可能になるから、その分実質的に給与を高めることができることになる。
教育にも『岩盤規制』がある。NHKの大河ドラマ「八重の桜」では新島襄と熊本バンドの確執が面白おかしく描かれているが、学校の本質が「自治」にあることを再認識させられる。現状は大阪維新の会など一部の勢力によって教育委員会から地方の首長に管理運営の主導権が移されようとしており全くの逆行である。それでなくても教育内容から指導方法に至るまで文科省の規制でがんじがらめになっており、教師や学校の工夫や合理化が著しく阻害されている。いい例が幼保の一体化で無駄な規制で待機児童問題の解決が一向に進捗しない。電子教科書が現実味を帯びてきている今、工夫次第で「教育の質的向上・効率化」が可能なのだが文科省の規制がそれを阻んでおり塾代など無駄な出費を強いられている。規制改革で自由な教育環境を整えることができれば無駄が省けて実質的な賃金上昇を齎すことが可能になろう。

働く人の給与が上がることは願ってもないことだが、出費を抑えることで実質的に賃金を高める工夫も忘れてはならない。その為には、既得権者の利益を保護している『岩盤規制』を打破することが必須であり、そうした意味でTPPは「良い外圧」になる可能性が高い。

タクシー会社はいくつか倒産したかもしれないが、規制改革が進んでおれば今頃「安いタクシー」で我々消費者は利益を享受しているはずだ、と私は考える。

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