2015年7月11日土曜日

遠くを見る

 近くの田圃が今年は休耕になった。毎年なら今頃満々たる水を湛えた水田に早苗が勢いを増し蛙が喧しく鳴き声を上げる時期なのだが今年は干上がった田に雑草のようなものが生い茂っている。もう50センチ近く生長している。最初は雑草かと思ったが地主さんに訊ねると「牧草」で、農地の荒廃を防ぐために牧草の雑草抑制効果を利用する休耕田の維持管理法によるものだという。ある程度生長した頃合を見はからって耕耘して鋤きこむと土地が痩せないらしい。この地区には結構休耕・放棄地が多いがこのような措置を施しているのを見たことがない。あれらの土地はもう田圃としての機能は喪失しているだろう。
 折りしも今年は国連の定める「国際土壌年」にあたる。土地の保全をすすめて地球環境の劣化を防ぎ自然環境と生物・食物連鎖を健全化しようという取り組みである。降り積もった火山灰から植物を育む土が1センチできるには100年かかるともいう。無数の微生物がすみ養分が豊富な土になるには長い歳月が必要なのだろう。(以上は2015.7.9日経「春秋」から)。もし中国がこのまま工業化・近代化を推進して農業からの人口移動をすすめていけば莫大な農地放棄がすすむに違いない。それが「沙漠化」にまでいってしまうと測り知れない「環境汚染」をまねくことだろう。
 休耕田への農家の方の地道な取り組みから「土」を考えさせられた。
 
 世界の観光動向にも影響のある米大手旅行雑誌「トラベル+レジャー」の発表した「2015年世界観光都市人気ランキング」で京都が2年連続1位になった。文化・芸術、食事に加えて風景も高い評価を得ており昨年の宿泊外国人客は183万人で前年比6割増を記録した。
 原因はいろいろ考えられるが昨秋完全実施した「屋外広告物条例」の効果も大きいに違いない。厳格すぎると一部の市民には不人気だったが、できてみれば街の景観は見違えるようにすっきりした。これまでに進めてきた「建築物等の制限に関する条例」による建物の高さ制限も景観美化に貢献している。祇園やその他の地区の整備も観光地としての価値を随分高めたことだろう。しかし行政の取り組みとは別に市民レベルでの投資もここ20~30年目立っている。三条通りが最初に開発が進んだが今では中京のたて横のほとんどの通りが年毎に目新しく変貌しているし京都市全体が活性化している。こうした積み重ねが新興国の発展と「円安」「ビザ発給要件緩和」などが相乗して「インバウンド」急増に結びついたのだろう。
 いま進めようとしている「四条通りの歩道拡張」にしても「一般車両通行禁止」にして東山通りまで延伸し、東山通りは「南行一方通行」にするくらい徹底するべきだ。今のままでは市民生活への悪影響ばかりで観光への寄与効果は何もない結果に終る可能性が高い。お役人があれこれ無い知恵を絞るより、やると決まれば最善策を必ず打ち出してきた京都市民なのだから、ここは思い切って町衆市民の手に委ねるのが得策であろう。
 「観光京都」という将来設計に間違いはない。
 
 中国株の暴落が世界金融界を震撼させている。しかしこれは今年年頭のコラムに書いたように予想された事態である。概略を再録すれば次のようなものである。
 中国経済は香港経済を抜きにすれば既に5%前後の中成長に陥っており、これは少子高齢化による労働人口の減少が大きな要因となっている。加えて13億人を超える人口は「マクロの国民経済の巨大化とミクロの1人当GDP(国内総生産)の伸び悩み」というアンバランスな国民経済を不可避なものにし、更に不透明な軍事支出の膨張が経済にボディブローのように悪影響をもたらす。もうひとつ為替の国家管理(表向きは市場不介入をよそおっているが)が国民経済に歪みを齎すだろう。従って表面的な動きにとらわれずこうした経済的社会的基盤の改善如何を見据えて中国動向を判断する必要がある。
 今回の株価暴落の直接の引き金は株価下支えを目論んだ政府の公然たる市場介入の効果が限定的であったことにあるが、経済の大きな部分を占める国営企業の非生産性や過剰設備がもたらす鉄鋼やセメントなどの生産資材の過剰生産など「資源配分の歪み」という経済のファンダメンタルズの脆弱性が根本にあることを認識すべきである。少し前世界を揺るがしたAIIB(アジアインフラ投資銀行)問題にしても、巨大人口のもたらす中所得の罠(個人所得が1万ドルを超えて増加しない)という構造的な需要不足に膨大は軍事費を起因とする労働分配率不足が加わった恒常的な需要不足を、海外需要で補って、過剰供給(鉄鋼やセメントなど)を解消しようとする国内事情による設立の必然性を理解したうえでAIIBを評価すべきである。
 格差拡大による反政府運動の高まり、少数民族問題、過剰生産と需要不足の解消の緊要性などを考慮するとき、現共産党独裁体制の綻びは予断を許さないところまで来ているのではないか。そうでなければ政権中枢の最上部にまで及んだ「反腐敗運動」の急進は理解できず、南沙諸島問題も含めて昨今の中国情勢は抜き差しならない状態に追い込まれた国家経営の危うさをうかがわせるものとして判断すべきで状態にあるのではないか。
 
 人間ややもすれば目の前の事象にとらわれる傾向があるが、世情混乱の昨今、ちょっと視線を上げて、遠くを見やる余裕が求められている。

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