2015年7月17日金曜日

現代の戦争

 安倍政権「安保法制」強行採決た。
 しかし「現代の戦争」について安倍政権の人たちはどれほど知っているのだろう。そして彼らでない人たちも、本当に「現代の戦争」を理解しているのだろうか。
 
 ピュリツァー賞受賞作家デイヴィッド・フィンケルのイラク戦争からの帰還兵の「その後」をルポルタージュした「帰還兵はなぜ自殺するのか(古屋美登里訳・亜紀書房)」は帰還兵の癒されることのない心の傷を余すところなく描いている。
 イラク戦争は、イラクが大量破壊兵器を隠しているという理由でアメリカがイラクに侵攻したことから始まった。2003年3月のことである。その裏には、9.11以降のアメリカの不安と、石油問題や宗教問題があったと言われているが、国家の威信を守るために直接戦地で戦ったのは、大半が貧困家庭出身の若い志願兵だった。第16歩兵連隊第二大隊の兵士の平均年齢は20歳だった。
 ひとつの戦争から別の戦争へと二百万人のアメリカ人がイラクとアフガニスタンの戦争に派遣された。(略)調査によれば、二百万人の帰還兵のうち二十パーセントから三十パーセントにあたる人々が、心的外傷後ストレス障害(PTSD)―ある種の恐怖を味わうことで誘発される精神的な障害―や、外傷性脳障害(TBI)―外部から強烈な衝撃を与えられた脳が頭蓋の内側とぶつかり、心理的な障害を引き起こす―を負っている。気鬱、不安、悪夢、記憶障害、人格変化、自殺願望。どの戦争にも必ず「戦争の後」があり、イラクとアフガニスタンの戦争にも戦争の後がある。それが生み出したのは、精神的な障害を負った五十万人の元兵士だった。
 毎年240人以上の帰還兵が自殺を遂げているという事実は(自殺を企てたは10倍と言われている)、限りなく重い。なぜ、帰還兵は自殺し続けるのか。
 フレッド(快復プログラム施設長)は自分の施設に来る兵士ひとりひとりの記録をつけている。そのうちの60%が自殺を試みていた。73%が仕事を辞めたり、クビになっていた。80%が学校に入学しようとしていた。そのうちの83%がドロップアウトした。(略)ほとんど全員が、こんなところ(施設)に来なくてはならなくなった自分にうんざりしている。
 
 帰還し兵士たちの心どのように傷ついたのか。
 こうなったのはアダムのせいというわけではない。彼のせいではなかった。彼は快復したがっていないわけではない。快復したいと思っている。しかし別の日には、死んだほうがましだとという気がする。アダムに限ったことではない。アダムと共に戦争に行ったあらゆる兵士たち―小隊30人、中隊120人、大隊800人―は、元気な者ですら、程度の差はあれ、どこか壊れて帰ってきた。アダムと行動を共にしていた兵士のひとりは、「悪霊のような物に取りつかれずに帰ってきた者はひとりもいないと思う。その悪霊は動き出すチャンスをねらっているんだ」と言う。
 快復病院の)女性が説明している。「ベトナム帰還兵たちはとても表現が豊かですが、最近の、イラクやアフガニスタンからの帰還兵は、暴力や自殺といった行動に走るんです」
 自殺について説明した別の将官が言った答えが、いちばん真実に近いように思える。「終わりのない罪悪感。私が理解できる唯一の理由がそれです」。
 「俺は普通の男で、イラクに送られてからおかしくなった。だから陸軍は俺をまともにするためにアメリカに帰した。ところがいまや、俺をおかしくしているのはアメリカなんだ」。
 「イラクは恐ろしいところだった」ゴレンブが言う。「お前はどうして三度も行ったのか、俺にはわからん」
 この日いたるところで、戦争の痕が続いている。戦争の痕は、戦争と同じように永遠に続く。
 
 フィンケルは帰還兵とその家族の悲惨な「戦争のその後」を詳細にレポートすると共にアメリカの最新の「快復プログラムとその施設」の苦闘を伝える。そして日本の現状を訳者の古屋美登里が次のよう伝えてこの本は終っている。
 2014年4月16日に放送されたNHK「クローズアップ現代―イラク派遣 10年の真実」では、イラクから帰還後に28人の自衛隊員が自殺したことを報じた。自殺に到らないまでも、PTSDによる睡眠障害、ストレス障害に苦しむ隊員は全体の1割から3割にのぼるとされる。非戦闘地帯にいて、戦闘に直接かかわらなかった隊員にすらこのような影響が出ているのである。そして日本では、そうした隊員に対する支援のシステムができているとは言いがたいのが現状だ。
 
 1992年に公開されたアメリカ映画A Few Good Men」はトム・クルーズジャック・ニコルソンデミ・ムーアが共演する軍事法廷サスペンスである
 キューバにあるグアンタナモ米海軍基地海兵隊員ウィリアム・T・サンティアゴ一等兵が殺害された。被疑者は同じ部隊のハロルド・W・ドーソン上等兵 とローデン・ダウニー一等兵 。は軍律で禁じられている古い「軍隊内の落ちこぼれに対する制裁、通称コード・レッドCODE RED規律を乱す者への暴力的制裁」を命じられ遂行したのだがサンティアゴは軍隊生活で心身を著しく毀損しておりその制裁を受け入れられるだけの肉体的条件を損なっていた。このため口中に埋められた布切れで呼吸困難に陥り死亡する。サンティアゴは心身異常を理由に異動を申請していたがネイサン・R・ジェセップ大佐はそれを軟弱だとし部隊の名誉を傷付けるものと断じて受け入れていなかった。コード・レッドの命令は隠匿され軍医の死亡診断は口中に入れられた布切れに付着した「毒薬」による毒殺であり犯人をドーソンとダウニーだとする。
 この困難な事件の弁護を命じられたのがハーバード出身ダニエル・キャフィ(トム・クルーズ)中尉 だが彼には法廷経験がない。特別弁護人ジョアン・ギャロウェイ少佐 (デミ・ムーア)サム・ワインバーグ中尉 (ケヴィン・ポラック) の3裁判に臨むがキャフィらの企図はつぎつぎに崩され絶望的な状況に陥る。最後にキャフィはジェセップを証言台に立たせる賭けに出る。法廷での2人の対決は、キャフィの巧みな弁舌で、ジェセップの権力への盲信を突き、自らコードRの指令を出したことを白状させ裁判に勝利する。ドーソンはこの裁判を通じて、自分が守るべきものは軍の規律ではなく、弱者であるサンティアゴだったこと悟る。
 ジャック・ニコルソン演じるネイサン・R・ジェセップ大佐が放つセリフ「You can't handle the truth!(『おまえに真実は分からん!』)」は、アメリカ映画の名セリフベスト100において29位にランクインされている
 
 赤旗2015年3月25日に「自衛隊員に遺書強要か?」という記事があった。
 陸自北部方面隊(札幌市)関係者によると、2010年夏以降所属部隊の隊長ら上司から、「『家族への手紙』を書き、ロッカーに置くように」と“服務指導”された。これは自衛官にとって事実上の「命令」に等しく絶対服従が求められていると言う。 この「指導」は陸自服務規則などに明記されている「有事の際直ちに任務につくことができるよう常に物心両面の準備を整えること」に準拠して「物心両面の準備をより具体化したものであり(略)長期の任務に急遽就くことに備え(略)あらかじめ本人の意思を整理しておくことにより、個人の即応性を向上させるものである」「単に自己の死亡のみに準備する遺書とは全く別物」としている。しかし書かされた元隊員は「“殉死(戦死)”への覚悟を求めたものであることを感じた」と証言している。
 
 兵器の進歩は著しく殺傷能力は驚異的に向上している。自分が斃した敵方であれ自分のすぐ横で共に戦っていた戦友であれ、殺された死体は、頭が吹っ飛び胴体はバラバラに断絶されているに違いない。強力な破壊力は兵士のみならず無抵抗な一般市民をも巻き添えにする可能性が高い
 「人権教育」を幼い頃ら教え込まれた「現代人」にとって、軍隊という「不条理な集団」に属されたとしても、「ひとを殺す」という『罪悪感』を「抹殺する」ことは可能なのだろうか。無慙極まる「死体」を『正視』できるだろうか。
 
 「帰還兵はなぜ自殺するのか」の訴える『戦争の不条理』、「A Few Good Men」の描く『軍隊の不条理』、そして遺書を強要する『日本の不条理』。これらが、みなあって、「現代の戦争」だが、どれほどの人たちがこの『事実』を知っているのだろう。
 
 

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