2015年12月13日日曜日

人口問題の死角

 最近母子プラス祖母三人づれよく見かける話し振りなどから想像するとおばあちゃんは多分母方でおまけに随分若くてどっちが親でどっちが娘なのか見紛ってしまうことも多い。こうした関係は喫茶店の雑談などでも話題になっていて、若夫婦の住居も実家近くに住まうことが多く息子の親―特に母親は寂しいものだと嘆いている。このような都市部での夫の父母との関係の「希薄化」は統計(国立社会保障・人口問題研究所「全国家庭動向調査・2013年」)にも明らかになっており、特に病気時に「夫の母」の面倒を見る場合にそれが顕著に表れているという
 これは核家族化が極度に進行しそれと時期を併せるように高齢化が高まって、子育てに未熟な都市部若夫婦が妻の母親に頼らざるをえなくなった結果であろう。
 
 見方を変えると保育所不足の裏返しでもある。夫婦共働きが一般化した現在、働きたい20~30代の妻層が出産子育て期に離職せざるを得ない―いわゆるM字カーブの「女性労働力率」の表れが「母子・祖母の三人づれ」なのだ。あの三人づれの若いお母さんの多くが働きたくても働けない人たちである可能性が高いということだ。晩婚・晩産化があって1975年にはカーブの底が25~34歳であったのが2004年は30~39歳が底になっているが、こうした女性の労働市場からの離脱―スキルの劣化が日本大で見た場合「生産性の低下」となって経済に大きな影響を与えることに繋がる。
 アベノミクスの「新たな三本の矢」は2020年に①GDP600兆円②出生率1.8③介護離職ゼロを掲げているがそれもこれも「保育施設の充実」次第であるといっていいほどこの問題は重大である。
 ところが政府の考えている「子ども・子育て支援」は小規模保育等を認定こども園に囲いこんだり幼保連携型認定子ども園を追加することなどでとにかく『量的』な保育施設の確保を打ち出しているだけで、「出生率1.8」を達成するための『究極的な子育て支援』がどうあるべきかが全く示されていない。だから政府の「子育て支援」がたとえ旨くいっても「出生率1.8」は実現されないであろうことは現場の人たちや識者多くは今でも分かっているに違いない
 
 では究極の子育て支援とはどんなものか。それは①「24時間保育」と「病児保育」の確保だと考えている。又それとは別に「堕胎―人工中絶」の解消についても真剣に取組む必要がある
 労働の多様性の一般化が急速に進展し今後もその傾向は継続するに違いないなかで「一定時間帯」の保育を前提とするあり方は現状に即さない。9~18時就労で土日が休日、などの1970年代までの普通はいまでは特別に恵まれた職場といっても過言ではない。高齢化に伴って「介護職」の不足は必然でその充足が国の大きな施策になっている現在、介護職の就労時間は極めて不規則なことは皆承知している。それへの対応に備えなくてどうして「③介護離職ゼロ」が実現できるというのか。
 「病児保育」も同様だ。「37.5℃の壁」が共働き夫婦を悩ましていることも保育現場では常識になっている。今年TBSで放映された『37.5℃の涙』が評判を呼んだが現在の保育制度では「37.5℃」が一般保育施設での保育の限界になっており子どもが37.5℃になると扶養者に引取りが要求される。仕事途中の勤務先に連絡が入り速やかに迎えに行かなければならない。幼児は得てして熱を出すものである、その都度仕事を中断しなければならないのでは職場で安定して勤務することは不可能であろう。
 『量的』な保育施設の確保だけでは不完全であり『質的』―「24時間保育」と「病児保育」を充実することではじめて本当の「保育施設」の完備となる。数的なもの―人口10万人にどれほどの施設が必要かなどは現場と専門家で協議すればよい。
 付け加えれば「働き方改革(例えば『長時間労働』の解消など)」が併せて必要なことはいうまでもない。
 
 人口問題のタブー―堕胎(人工中絶)についての論及はこれまで表立ってされたことがない。しかしその数字をみればこの問題をなおざりにして人口問題は語れないことが分かろう。平成元年度の中絶数は466,876を数えており以降年々減少をたどっているが26年度でも181,905件でこれは同年の人口の自然増減数マイナス269,465人の70%近い数字だ。人口の自然増減数は平成5年度にはじめてマイナス21,266人に転じて以来マイナスをつづけて26年度はこれまでの最多を記録した。人工中絶数と出生数を比較すると平成26年度出生数1,003,539人中絶数181,905で18.1%に相当し平成5年度は36.4%10年度では31.1%を示していた。
 出生数の20~30近い人工中絶が行われていることに眼を瞑ったままで出生率1.8を論じる愚かさを知るべきで、その原因を究明しそれへの対応を行えば「人口減」解決の道は大きく開けることは明かだ。勿論そのためには経済面だけでなく社会面倫理面に関わる問題への踏み込みも必要となるだろうがそれを避けていたのでは何時まで経ってもこの問題の根本的な解決には至らないであろう。
 
 人口問題の解決策は身近にある。     
 

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