2016年2月21日日曜日

正念場の日本経済

 昨年10~12月期のGDP(速報値)が0.4%のマイナスになったという内閣府の発表があった。年率に換算すると1.4%減となり4~6月期につづいてのマイナスになる。この数字をどうみるかだが、経済指標を注意深く観察しておれば、アベノミクスに浮かれていた一部の人たち以外には十分予想された結果だろう。経済の見方はいろいろあるが一般の市民感覚に最も敏感に反応するのは残業代―日経経済指標のうち「所定外労働時間(全産業前年比)」だ。庶民というのは身勝手なもので「基本給」はあくまでもベースであって「今月は給料が多かった」と実感するのは残業代の多いときだ。個人的な印象だが残業代は月給の2割前後が平均なのではないか。もしそれが半分に減りでもしたら「今月の給料は少なかった」と『実感』して買いたいものも手控えるに違いない。その残業代が平成13年14年と前年比+4.8%、+2.0%だったものが昨年は毎月マイナスで平均すると前年比マイナス1.3%近くになっていた。従って庶民感覚では「景気がよくない」と感じていた人が多かったに違いない。
 別の視点で景気指標をながめると、「マンション契約率」「新設住宅着工数」が身近に景気を感じさせる。このうち一戸建て住宅を表す新設住宅の数字は昨年90万戸を上回っていたのが9月から90万戸を切り12月には86万戸まで落ち込んだ。一方のマンションの契約率も9月を境に首都圏が70%を割り込み近畿圏も同様で12月に至っては59.6%に低下した(首都圏は64.8%)。
 残業代が毎月前の年より減りつづけ「景気が悪い」という庶民感覚がデフレマインドに逆戻りしてマンションも戸建ても売れ行き不振に落ち込めば当然消費者物価指数も上がるはずがなく、昨年はゼロ近辺にへばりついたままで8~10月はマイナスさえ記録している。
 「アベノミクス」を手柄顔に勝ち誇っていた首相はこの現状をどう説明するのだろうか。まったなしで真剣に「成長戦略」に取組まないと日本経済のデフレ脱却は夢物語に終ってしまう危険地帯に、今ある。
 
 アベノミクスの牽引力となってきた「円安、株高」演出の最後の「黒田バズーカ」として「マイナス金利」を1月末に打ち出した日銀だが、その効果は一週間ともたず、円は121円台から112円台に急騰、株式相場は2月12日には14,952円と15000円を割る『底割れ』となって金融市場は一挙に不安がみなぎった。現在は小康を保っているが『円安・株高』は再来可能なのだろうか。
 為替相場が経常収支と密接な関係にあることはアベノミクス以前の長期の「円高」の経験で身に沁みている。1973年以降の円高基調の背景には「大幅な経常黒字」があった。東日本大震災後原油輸入増で貿易赤字に転じ高齢化による貯蓄の減少と相俟って経常赤字が常態化するかと思われたが昨年の原油安は一挙に経常赤字を改善した。アベノミクスによる「円安」誘導は経常収支赤字化と時期を同じにした『僥倖』であったに過ぎないという見方も成り立つわけで、現在の原油安が後進国の成長率低下やEUと我国の景気低迷という中期的な世界経済の低迷を背景にしているうえに米国の成長力停滞も加わって、原油安・資源安は我国の経常収支構造を『黒字化』で定着する可能性を高めている。こうした情勢を考慮してかIMFは2020年の我国の経常収支黒字のGDP比率をユーロ圏2.3%、中国0.6%を上回る2.8%と高めに予想している。経常収支黒字拡大というファンダメンタルズの変化は『円高』を中期的な趨勢に導くことを懸念させる。
 
 「株高」も今年に入って一挙に暗転した。昨12月初旬二万円をうかがわせる騰勢を誇っていた株式市場は中旬から下落に転じ今年になって坂を転がるように四千円以上値を下げた。今後の見通しはどうなるのだろうか。
 そもそも「株式市場」は『不安定』が本質なのであって一方的な上昇基調や下落傾向はなく当然のことながら「均衡点」など存在するはずもない。例えば東証一部の売買代金で市場動向を見てみると、二兆円が基準ラインとなって相場の冷熱が判断されるが、昨年12月下旬は二兆円に満たない低調な相場だったものが、今年1月末株価が急激に下落するや一気に「売り浴びせ」が起こり三兆円から四兆円の大型相場が展開されている。こうした相場の裏には多数の『投機家』の存在があるわけで、「多数の専門的な投機家が(略)おたがい同士で売り買いをはじめると、市場はまさにケインズの『美人コンテスト』の場に変貌してしまうのである。そして、そこで成立する価格は、実際のモノの過不足の状態から無限級数的に乖離する傾向を示し、究極的には、たんにすべての投機家がそれを市場価格として予想しているからそれが市場価格として成立するというだけになってしまう。それはまさに『予想の無限の連鎖』のみによって支えられてしまうことになる。そのとき、市場価格は実体的な錨を失い、ささいなニュースやあやふやな噂などをきっかけに、突然乱高下をはじめてしまう可能性をもってしまうのである(岩井克人著『二十一世紀の資本主義論』より)」。
 「黒田バズーカ」はまさに『予想の無限の連鎖』に訴える手法によって株高・円安を演出しようと企図したのであったが、ここにきてその効果は無残にも剥げ落ちてしまったのである。
 
 2020年にかけて「円高基調」が見込まれ、中国経済の中成長へのソフトランディング(を願う)、原油安・資源安による資源国の低成長、EUの低迷などが相関連して中期的な景気循環の下降局面を迎えると見込まれる現在、我国経済の先行きは決して明るくない。円安による輸出産業の業績向上に頼る従来型の景気対策でなく内需拡大を真剣に実現するような方策を地道に積み重ねる以外にこの難局を切り抜ける道はない。そのためには、規制改革を主体とした政府の「成長戦略」と「正規男性社員の働き方改革」を根底とした「女性と高齢者の労働参加率のアップ」と「若年労働者の雇用率大幅改善」という労働市場改革、ベースアップにこだわらないボーナス主体とした利益配分の増大による「労働分配率向上」と「格差解消」など、前例踏襲でない根本的な『改革志向』の取り組みを実現する必要がある。
 
 「イクメン議員の不倫辞職」という情け無い不祥事があったが、「育児休業」が男女の別なく普通に取れるような職場環境が現実化されたとき、我国経済は新しい発展のステージを迎えることになろう。
 
 
 
 

0 件のコメント:

コメントを投稿