2016年4月11日月曜日

消費増税先送り論について(1)

 消費増税先送りをノーベル賞受賞経済学者など学識者知識人の力で権威付けして規定事実化しようという政府の世論操作が着々と進行中である。その先には増税延期を争点とした「衆参同日選挙」が控えているであろうことは政治の素人にもミエミエなのだが、この問題をそんな「矮小化された」政治問題にしていいのだろうか。
 先送り論の主な主張は消費の反動減とそれに連れた景気悪化であろう。しかしそもそも消費減少は増税が原因なのだろうか?景気は株式相場の悪化を判断材料にされることが多いがそれは正しいのだろうか?
 
 新年度(4月)になって株式相場が大幅に低下している。今年の最高値19000円近い相場から直近は16000円を割り込んでいるから3000円(15%)以上値下がりしているが、しかしこれは3月の株価が異常に高かったせいで、急速に進んだ円高などから考えれば「クジラ」―年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)による年度末をにらんだ「官製相場」だったのではないかというのが多くの専門家の見方になっている。事ほど左様に昨今の株式相場は世界の大金持ち―アメリカなら1%の富裕層が国の資産のほとんどを握り他の国でも10%未満の限られた人々が多くの資産を独占している―の資金をバックにした大型の投機ファンドや日本のGPIFなどと同様の世界の年金ファンドや保険会社などの大型ファンドが蹂躙している。折りしも「パナマ文書」という中央パナマの法律事務所が保有していた脱税目的と思われる世界の金持ちの「ペーパーカンパニー」のリストが公になり、エリツイン・ロシア首相や習・中国最高指導者の関係者の名もその中にあり大物議を醸している。日本の株式市場も外国人の影響力が格段に増している現状では、こうした限られた富裕層の『汚れた金』と大型ファンドによる『歪められた相場』になっているとみてほぼ間違いない。株式相場に神経質に反応して政策操作してきた安倍政権だが、果たしてこれからもそれは正しい対応といえるのだろうか。昨年度外国人投資家の日本株売り越し額は5兆円を超え1987年のブラックマンデー暴落時以来の多さを記録したと報じられている。ということは外国人投資家にアベノミクスが見放されたということだろう。ここに至っては短期の弥縫策を弄するのではなく、現在の日本が抱えている根本的な問題に真正面から取組んだ成長戦略を国民と世界に訴えるべきではなかろうか。
 
 一方連日のように「介護疲れによる殺人事件」が報道され、「保育所落ちた 日本死ね!!」というブログが共感を呼んで慌てて子育て支援策を打ち出さざるをえない状況に政府を追い込んだ。こんな情勢にあるにもかかわらず政府は「低所得高齢者向け給付金」を三万円給付しようとしている。このような支離滅裂な政策で「100年安心」の社会保障制度は持続できるのだろうか。
 そもそも消費税増税は「社会保障と税の一体改革」を目的として決定された政策である。5%から10%への増税で約10兆円の増収を見込み持続可能な社会保障制度への道筋をつけるのが本来のねらいであったはずだ。将来不安を払拭して安心して生活ができるよう状況を作りだそうというのが「消費増税」のねらいではなかったのか。
 ところが増税されても「待機児童」は減らず介護離職や介護疲れは解消されない。一体税金はどこに使われているのか。そういえば東日本大震災の復興特別税(所得税上乗せ2.1%25年間、住民税10年間1000円と別途法人税でも徴税されている)も被災地以外への流用が多額にのぼったにもかかわらず、2014年度分は18%も使われずに復興が遅れている。増税されても何に活用されているのか不透明で増税に対する不安・不満が国民に充満している。
 
 消費不振は増税そのものにあるのではなく、社会保障の将来への不安、増税への不信、一向に賃金が上がらない「国の成長政策」への不満―つづめていえば『将来不安』、生活を取り巻く『不確実性』が原因になっているのではないか。終戦直後の壊滅状態の中で国民が前向きにひたすら働きつづけられたのは、頑張れば必ず報われるという希望が持てたからだった。ところが消費増税によってその先にどんな明るい生活が待っているのか明確な、そして信頼のできる『将来見通し』が誰からも提示されない。だから増税のたびに不安な将来に備えて、身をすくめ消費を抑えざるをえなくなってしまうのだ。
 アベノミクスの三本の矢、大胆な金融政策でも機動的な財政出動によってもわが国はデフレ脱却を果せず経済を成長軌道に乗せることはできなかった。この閉塞感を打破するためには『国民の納得できる成長戦略』―希望の持てる将来が提示される以外に方途(みち)は無いのではないか
 

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