2016年4月18日月曜日

インバウンド観光は持続するか

 爆買景気はいつまでつづくのか、という不安げな声を最近よく聞く。彼らの不安は凡そこんなものだ。
 ①円安がいつまでもつづくはずがない。②中国や東南アジアの経済成長が止まって今までのように可処分所得の増加がつづかないのではないか。③爆買の中心である中国で生産環境がよくなって良い物が作れるようになったり商品の供給量が増えるのではないか。
 こうした疑問あるいは不安は正しいのだろうか。
 
 昨年度(2015年)の訪日観光客は約二千万人。うち中国人は約五百万人である。中国の人口は大雑把にみて14億人だから0.4%程度の訪日客数になる。中国客が目に見えて増えてきたのはここ10年くらいだから単純に掛け算してもまだ人口の5%ほどが日本を訪れたにすぎない。成長が中成長に落ち着いたとはいえまだ10年以上は6%前後の成長は続くだろうから可処分所得もそれにつれてアップするはずだ。中国のインバウド観光は始まったばかりだし、東南アジア諸国も事情は同じだろう。東南アジアの観光需要の本格化はむしろこれからとみた方がいいかもしれない。
 為替相場は国力を反映しているから本当の円安はこれからではないか。中国も東南アジア諸国もまだまだ成長余力を残している。それに比べてわが国の少子高齢化は今後15年以上は進行していくだろう。とすれば相互の国力の比較は相対的に我国の方が低下していくと覚悟するべきで、できるだけ国力の劣化を押し留めるように懸命な努力にはげまなければならない。そして「ゆき過ぎた円安」をむしろ警戒しなければならない。
 商品の品質と供給量の問題の予測は難しい。中国に限っていえばゾンビ企業の市場からの撤退や品質管理の向上は相当年月を要するのではないか。習政権のあいだに体制が整うかどうかも怪しい。これまでのように日本やその他の先進国の工場の海外移転が中国一辺倒であれば事情の改善は10年もあれば達成できたかも知れないが、ここ数年は中国以外の第三国への工場移転が加速しているだけに、中国の自立的な品質向上の動きは限定的になるのではないか。
 
 一部独断的ではあったが、インバウンド観光の需要先細りの懸念はそう深刻に考える必要はないように思える。むしろ受け入れ側としての我国の観光資源の確保と洗練が心配される。というのもこれまでの我国の観光行政は「供給サイド」からの発想で行われてきたから、需要側―訪日客の視線が不足している。少し前まで地方自治体の観光課は「産業局地方振興課」的なところにあった。旅館ホテル業、運輸業やお土産産業の振興を主に観光行政が行われてきた。従って産業サイドからのアプローチが主体だった。それがここ数年のインバウンドの増加によってようやく『旅行者視点』で『観光』を考える姿勢ができてきた。
 そこでまず『観光省』を設置することだ。現在は国土交通省の一部局として「観光庁」があるがこれでは不十分だ。成熟国としてサービス産業が70%以上を占めるような産業構造になるなかで、観光産業はその主産業にならねばならない。としたら今の省庁編成のままでの取り組みでは駄目であって独立した省庁へ格上げする必要がある。ここからが観光産業発展のスタートだ。現在縦割りの各省庁に分散している「観光機能」を集約して「予算と権限」を確保し機能的に、柔軟性をもって観光立国樹立に向けて邁進することが必須だと思う。
 
 そのうえで日本の観光を考えてみよう。
 最大の魅力はやはり『歴史』だろう。少なくとも「奈良時代以降現在に至る」までの長い歴史を『ホンモノのかたち』で有している国は世界的にも珍しいといえる。中国は三千年の歴史を誇っているが、しかしその間に『民族の断絶』があり戦乱によって多くの歴史遺産が破壊されてきたから今ある史跡の多くは再建されたものである。それ以外のアジア諸国も戦乱で歴史が中断されたり「植民地化」されることで遺産が破壊された国が多くアジア以外の国でも同様の歴史過程を経てきた国がほとんどだ。そういった意味で、たとえば関西に限ってみても、「古代の奈良」「中世の京都」「近世近代の大阪」「ハイカラの神戸」と1300年の歴史が、今ここに、ある。この魅力を上手に訴えれば、世界の国から我国を訪れたいと願う人は多いはずだ。
 また非西洋国で最も早く近代化したのは我国である。工業化も、高齢化も日本が最初である。だからこれから発展を遂げようとしている国の人々にとってわが国は「未来予想図」になろう。「産業遺産」はもとより「最新の生産施設」にも興味はあろうしインフラや工場夜景すら観光資源になる。「雪」も「サル」も日本の大きな魅力である。
 日本食ブームも始まったばかりだから世界の人が本場の「日本食」を求めてくるにちがいない。清潔、キレイ、オイシイ、安全・安い・いいものへの需要に応える体制を崩してはならない。
 G7の首脳が初めて、揃って「ヒロシマ」を訪れた。「人類の悲劇」をその目で確かめたいと希う『真摯』な人たちも多いはずだ。「環境汚染」という『文明の負の遺産』をさらけだすことも『先進の愚かさ』を知るうえで重要な視点になろう。
 LCC(格安航空)も益々増えるに違いない。諸国の発展に応じて「ビザ要件の緩和」も行う必要がある。
 しなければならないことは無数にある。ということは、見方を変えればインバウンド観光の本格化はこれからだということだ。なにしろフランスの観光客数は八千万人を超えているのだから。
 
 観光の絶対条件、それは『世界平和』であるということを最後につけくわえておこう。
 
 

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