2016年11月21日月曜日

想 滴々(28.11)

 福岡の大陥没事故の顛末は久しぶりに「日本の底力」を見た思いで爽快だった。事故が起こったのが今月8日、福岡市博多区のJR博多駅前の道路が縦横およそ30メートルにわたって大規模に陥没したのだが15日早朝には復旧した。当初は最低でも一ヶ月はかかるだろうと思われていただけに「快挙」と言っていい。福岡市の高島宗一郎市長は「官民一体のオール福岡。この心意気なしに復旧はなし得なかった。日本の底力だと思う」と胸を張った。決め手は『流動化処理土』で、これによって「水を抜く」工程を取らずに作業が進められたことが工期短縮に結びついた。今回の素早い対応は海外も驚きの目で見ているようで誇らしい。震災時の被災者の振る舞いといい日本人の「美徳」は「国民性」を貫く力強いバックボーンを形成している。賢明で情熱的なリーダーが出現すればこの国はきっといい国になれる。
 「流動化処理土」というものの存在を知って、中国の南シナ海環礁の埋め立てが何故可能だったかが分かった気がした。あの広大な埋め立てがどうして短期にできたのか不思議で仕方なかったが、多分こうした技術をフル活用して実現したのに違いない。中国恐るべし!だが、力の出し方が残念至極なのがあの国らしい。
 
 アメリカ大統領選挙で民主党のヒラリー・クリントンが敗れたことについて個人的な感想を述べてみたい。
 アメリカは「現状変更」を求めて『黒人大統領』を選出するという大転換を図ったが結果は予想に反したものであった。残された新しい道は『女性大統領』しかなかったはずだがそうはならなかった。クリントンも「ガラスの天井は固かった」とこんな敗北宣言を述べている。「今私にはわかった、わかったんです、われわれはまだ、高くて固いガラスの天井(女性には超えられない壁とされている)を、壊していないということです、けれどいつか誰かが、できれば近いうちに、われわれが期待しているよりも早く、壊してくれることを期待します」と。
 しかし彼女のこの言葉に疑問を感じる。粗野で野卑で暴力的なトランプに彼女はどう対抗しただろうか。テレビで見た彼女、美しくも上品でもない、知性すら感じられない女性を演じさせられている、絶えずそう感じていた。力のトランプに力づくで対抗しようとする彼女の姿に違和感を覚えた。そうじゃないだろう、知性と品位に装われたたおやかで強靭な『女性』に国運を託そうとしていたアメリカ国民の期待を彼女は裏切っている。そう思えてならなかった。女性票が逃げたのがその証拠ではないか。
 ヒラリー・クリントンがアメリカ国民の求める女性像に適った女性であったなら「ガラスの天井」は打ち破れたに違いない、なにしろあのトランプが相手だったのだから。偏見とも女性蔑視とも取られかねないがそう思う。
 
 福島の被災児のいじめは「陰惨」過ぎる。どうしてこんなことが起ったのだろう。
 テレビなどで報じられている内容を簡単にまとめると、福島の原発事故で横浜へ移住してきた当時小学二年生の男の子が、放射能を持ち込んだ「菌」などといじめられ、五年になると賠償金が出ているだろうとゲーム代金などを強要されて百万円以上の被害を被ったという。今中学二年のこの子の負った『心の傷』は深く、永く彼を苦しめるに違いない。横浜市の第三者委員会は「教育の放棄」と厳しく学校と教育委員会を弾劾しているが、余りにも空しい。
 福島の復興も、広島も熊本も、遅々として被災者の救済と復興が果せていないのに、五輪だ、万博だと浮かれている『おとな達』。博多陥没事故の復旧を、地域が心を一つにして達成した日本人と同じ日本人が何故!
 
 電通社員の過労死問題はこの国の「長時間労働」の根の深さを浮き彫りにしている。
 電通には「鬼十則」というものがあって電通社員の行動規範として長く存在してきた。これは中興の祖と呼ばれた第四代社長吉田秀雄氏が1951年(昭和26年)に定めた彼、吉田の「広告の鬼」としての経験則をまとめたもので、競争の激しい広告業界で揺るぎない地歩を固め断然の業界首位を築いたバックボーンとして社員を規制、遵法されてきた。内容の詳細は省くが設定されてから半世紀以上を経て、古色蒼然、余りにも時代錯誤の感の否めないものだ。「時代の最先端」を行く広告業界の雄が、もし未だに信奉しているとしたら、「五輪エンブレム問題」にみられる前時代的な営業手法も宣(うべ)なるかなと納得できるし今回の長時間労働の実態も否定し難い企業体質そのものに根ざしたものといえる。
 長時間労働による過労死が頻発する改善策として「月80時間以上の残業をさせている企業に対し、労働基準監督署が立ち入り調査し現状を確認する」と3月に指導強化された。これに対応して東京、大阪など主たる5監督署が指導してきたが電通は無視、過重な超過勤務の実態は改善されなかった。そんななかで若い女性社員の自殺が明るみになって表面化した。
 巨大広告会社「電通」の威勢はマスコミ各社に絶大な影響力を誇っている。少々のことなら新聞であれテレビであれ力づくで抑え込める、そんな自信過剰があったのではないか。もし吉田社長存命なら今回の醜態をどう思うだろうか。実態を「80時間規制」にねじ曲げるようなことは彼の潔しとするところではないことは疑う余地はない。100時間なら100時間を、180時間ならそれを堂々と明らかにするのが彼の流儀だと思う。もしそれが法に触れるのなら事態を改善して新たな展開をするのが「吉田流の本質」なのではないか。かって広告業界に身をおいたことのある者として電通の大変革を願う。
 それにしても電通のみならず運輸大手ヤマトの残業代未払いの是正勧告、大企業の下請けいじめ、大手スーパーの納入業者との取引に於ける優越的地位の濫用―売れ残り品の不当引取りなど、東電系電力小売業者による電力取引所への不当に高い価格の売り注文提示による「市場価格の吊り上げ操作」など、大企業の「不正」が多すぎる。
 近年株式市場の活性化を図った「スチュワードシップ・コード」や「コーポレートガバナンス・コード」の策定などによって株式取引の透明性と公開性を狙った改善が相次いでるが、それ以前に企業活動の実態である「生産活動・業務活動」そのものの『公正』さの追求がまずもって要求されることを知るべきであろう。
 
 我国の国民性の素晴しさとは裏腹な企業の醜悪な振る舞いが成長を阻害しているのではないか。アベノミクスの「三本の矢」よりももっと根本的なところに成長回復の要諦がある。
 
 
 

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