2016年12月19日月曜日

成心・僻見(28.12) 

 「ポピュリズム」―今年の本当の「流行語大賞」はこの言葉がふさわしいのではないか。
 
 今年、世界はポピュリズムに席巻された。イギリスの「EU離脱]、アメリカ大統領選挙での「トランプ現象」、そして東京都知事選挙での「小池旋風」。この他にも世界各地でポピュリズムの嵐が吹き荒れている。
 ポピュリズムは一般に「大衆迎合」とか「衆愚政治」と訳されることが多い。ウィキペディアには「一般大衆の利益や権利、願望、不安や恐れを利用して、大衆の支持のもとに既存のエリート主義である体制側や知識人などと対決しようとする政治思想、または政治姿勢のことであるとある。では「反対語(対義語)」は「エリート主義」ということになるのか。
 なるほどイギリスのEU離脱は、エリート層のキャメロン首相が世論を読み違えて「国民投票」に敗れた結果であり、「トランプ現象」は市場万能主義による『格差』の異常な拡大を当然視したエリート政治家とメディアが「99.9%」の『レフト・ビハインド(見放された民衆)』に逆襲されたとみることができる。小池都知事の誕生は、形骸化した「既成政党」が民意を吸収することができなくなった『間隙』をついて小池氏が「こぼれた民意」を吸い上げることに成功した結果であり、既成政党がいかに多くのものを「見失っているか」の証と言える。
 こうした現象を総じてマスコミは「ポピュリズム」として排撃するが、それは正しい認識だろうか。
 
 高度成長期(1954年~1973年)「金の卵」という言葉があった。地方の農村から大都市へ集団就職列車で就職した中卒などの低学歴者を意味したが、彼らは就職先にある「○○学校」で教育を受け数年で『戦力化』された。就職当初は「寮」生活し結婚すれば「社宅」が用意されていた。社宅の低家賃の恩恵で住宅購入資金が貯まったところで郊外の「団地」に入居して、子弟に教育を施し結婚させて巣立たせる。終身雇用で守られて60歳の停年まで勤め上げれば住宅ローンを完済しても幾らかの余裕がある位の「退職金」を支給され厚生年金と合算すれば老後の生活は安定していた。
 会社には労働組合があって組合が会社と交渉して身分保障や賃金アップを図ってくれた。定期昇給以外にベースアップもあった。選挙の時には労働組合が加入している組合連合が推薦する「革新系の政党」に投票するのが常であり時には選挙運動に狩り出されることもあった。「低学歴でもまじめに働けば生活ができたし将来が見通せた」幸せな時代――「一億総中流」社会であった。
 二回の石油ショック(1973年と1980年)で世の中が変わった。バブルがはじけて変化に拍車がかかった。農村人口の激減は地方を疲弊させた。若者の職場は徐々に製造業からサービス業に移っていった。サービス業は一部の高学歴の高技術・高付加価値労働と大部分の低賃金単純労働に二極化される。機械化とIT化は製造業を含めて仕事の合理化が行われ、標準化された仕事は外部委託が可能になり派遣やアルバイトなどの非正規雇用を爆発的に増加させた。産業構造のサービス化と仕事の合理化・標準化は非正規雇用の増加を必然化させ、それが労働組合の弱体化を加速することで、労働分配率の低下、雇用・賃金の二極化による「貧富の格差拡大」を惹き起こした。痩せ細る中間層は「将来は今より良くならない」と失望感を抱くようになった。
 グローバル化の進展は「大企業でも明日は分からない」を常態化し、『安定』と『平等』という自由民主主義のビルト・イン・スタビライザー(内生化された安定装置)を脆弱化した。
 
 我国は「島国」という特殊性に守られているから緊迫感がないが、国境を接している欧州や移民政策を国是としている米国は『移民』の過剰な流入によってグローバル化の影響が先鋭化された。その結果「中間層」を形成していたマジョリティー(白人、特に低学歴の白人層)をグローバリズムの「敗者」に追い込み「新たなマイノリティー」に転落させた
 
 政治と経済、メディアのエリートはこうした社会に蓄積された『変革のマグマ』を掬い上げることができず『レフト・ビハインド』の力を過小評価したが、今回の世界的な一連の「社会変動」は、政治がエリートに独占され、民意がねじ曲げられていることへの『意義申し立て』であって、無視・抑圧されてきた問題を争点化し、代表する側と代表される側とのギャップを修復するための運動とみる方が「ポピュリズム」と拒否反応を示するより生産的である。
 この爆発をうまく吸収することによって民主主義をより『耐性的』に改革する『賢明さ』が望まれる。
 
 「小池都知事」誕生を未だにポピュリズムの結果としか評価していない傲慢なマスコミの一部記者は、小池知事の豊洲市場問題と五輪施設建設問題へのアプローチを「大山鳴動してネズミ一匹」と嘲る。しかし「もし小池知事なかりせば…」という視点をもてば、豊洲にしろ五輪にせよ、落しどころをどこに持っていくか、とすべての責任を小池知事に押し付けて、豊洲問題を惹き起こした『張本人』や野放図な五輪組織運営と施設建設を決定した『首謀者』への「断罪」を未だに先導できないメディアの無能振りがあぶりだされてくる。そもそも「記者クラブ制度」に安住してお役所の出す「プレスリリース」を転載するだけで批判精神のかけらももっていないエリートメディアの「報道姿勢」に根本的な改革が加えられなければ、これからも今回のような世界的な変動を見抜くことはできないであろう。
 
 IR法案の奇妙な「拙速可決」にはどんな「裏事情」があるのだろう。いずれにしても「カジノ法案」であることは誤魔化しようがない。既に世界最大の「バクチ国家」である―パチンコだけで世界のカジノ収入とほぼ同額の規模にある―わが国でカジノが成功する可能性は極めて低いが、唯一メリットがるとすれば隠蔽されているパチンコの「ギャンブル依存症」がカジノによって『顕在化』することであろう。パチンコは身近にあるから「バクチが日常化」しており「依存症」も深刻なのだが表立って「パチンコ依存症対策」は講じられていない。カジノとパチンコでは客層とバクチ志向が異なるから顧客の「横滑り」は望み薄だが、「バクチの日常化」という世界的にみて「不名誉」な国民性―朝の十時から何十万人という国民が、毎日、バクチに耽る―の是正のとっかかりになれば予期せぬ「恩恵」となるであろう。
 
 今世界で最も安定している国は、中国とロシアと我が日本である。これを素直に「誉れ」と喜ぶべきなのだろうか。
 
 

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