2018年9月10日月曜日

仕事について


 経団連が2021年に卒業する学生から現在採用されている「新卒一括採用」の「就活ルール」を廃止する考えのあることを表明した。これについては今後論議が尽されるだろうがそれとは別に「仕事・就職」についての本質的な検討が一向に深まらないことに違和感を抱いている。なぜなら「仕事・就職」というものが彼らの時代になれば今とは相当異なったものになっている可能性が高いのにそうした問題意識がほとんど表面化していないことに疑問を抱いているからだ。たった3年先のことだがこの3年で起るであろう変化は可なり激しいように思えるのだが。
 
 我々の時代と比べて大きな変化は四つある。①グロバリゼーション②100才時代と少子化③AI時代④自然災害の過酷化がそれで④を除いてそれぞれが関連し合っている。
 象徴的な現象が昨年打ち出された3メガバンクの人員削減方針である。みずほ銀行の1万9千人を筆頭に3行合わせて約3万4千人をこの先10年ほどの間に削減するという。現在の在職人数は約17万人であるからおよそ2割に当る人員削減はAIを活用した業務変革によるもので、グローバリゼーションによる金融業の国際競争激化に対応するためである。業務合理化は少子化による労働者数激減から金融業に限らずあらゆる業界で早急に対応しなければならなくなっている。AIや機械化による職業の置き換わり(職業消滅)の最もショッキングな数字は2013年オックスフォード大学のマイケル・オズボーン准教授が発表した、こんご10~20年で47%の仕事が機械に取って変わられるというものだろう。今ある職業のおよそ半分が機械に置き換わるうえにグローバリゼーションは単純作業を中心に賃金の安い発展途上国に移し変えられる可能性が高いから、職業消滅の危機はさらに広範囲に及ぶと覚悟しておく必要がある。
 どんな職業が奪われるのかを週刊ダイヤモンドの特集(米国の上位15位)によると次のようになっている。1.小売販売店員、2.会計士、3.一般事務員、4.セールスマン、5.一般秘書、6.飲食カウンター接客係、7.商店レジ打ち係やキップ販売員、8.箱詰め降ろしなどの作業員、9.帳簿係などの金融取引記録保全員、10.大型トラック・ローリー車の運転手、11.コールセンター案内係、12.乗用車・タクシー・バンの運転手、13.中央官庁職員など上級公務員、14.調理人(料理人の下で働く人)、15.ビル管理人。
 アメリカと我国では職業意識が異なるからこのまま日本に当てはめることははばかられるが、会計士や上級公務員が含まれていることはこれまでの単純作業だけを対象とする考え方を改めなければならないことを教えている。
 グローバリゼーションとAI化だけでも「仕事・就職」を取り巻く環境が激変することを予見させる。
 
 100才時代は仕事(観)にどんな影響を及ぼすだろうか。我々の時代―人生60年で「教育・仕事・引退」の3ステージを生きることが当然とされた時代は大きく変わらざるを得ないだろう。今でも定年65才か70才が求められているがそこで留まらず75才80才までも引退時期が引き延ばされることは確実だ。しかもグローバリゼーションは企業と商品の消長を激しく、短期化することも明らかな傾向だから、「いい学校に入って、いい会社に勤めて」ひとつの会社で勤め終えるということは稀有なケースになるのはまちがいない。仕事のステージ(期間)が2、3のステージに分かれて会社や職種を移り変わり、しかも企業という範囲に限らずNPOであったり、短期中期の大学(院)での学び直しが入り込むこともあろう。加えて引退後の生活を充実させるための「健康」「趣味」「生涯学習」への備えもこのステージに必要な要素となると考えた方がいい。
 「新卒一括採用」で最初の勤務会社がその後の人生を決定づける、という考え方はほとんど用を成さない時代だという認識が最も重要な変化であろう。
 このことは今のように、大学は入学すれば卒業できるという固定観念を改めさせられることにもつながる。卒業が保障されているから勉強そっちのけでアルバイトや部活を主体にして3年の春からは就活にいそしんで、就職が決まれば残された期間に旅行や遊びを楽しむ、といった学生生活を根本的に見直さねければならなくなるだろう。学生時代は学業を通じて今後の人生を生き抜くための「物の見方考え方」と「技術」を身に付ける重要な時間になるであろうし、そのためには4年間はすべて学業に費やすことが当然になりさらに2年間修士課程に進む学生も増えるにちがいない。
 そうなれば3年の春から就活などというルールは意味を成さなくなるのは当たり前になってくる。
 
 最後に「自然災害の過酷化」であるが今回の台風21号の被害を見れば、そしてここ数年の台風、豪雨、地震の有り様を考えれば、一旦災害に見舞われたら被害は甚大にならざるを得ないと覚悟する必要がある。今回の関西空港の被害は関西経済への影響ばかりでなく日本経済のGDPにさえマイナス影響があるかもしれないほど甚大な被害をもたらす可能性さえある。それは企業への短期的な影響だけでなく企業消滅もあるかもしれない。自然災害とその過酷化は「めったにないこと」ではなく「いつでも・どこでも」起りうるものとして人生設計しなければならないのかもしれない。
 
 経団連の「就活ルール」廃止の一石は単に21年度卒業生への影響だけでなく、多くの若い人たち―これからの人も含めて―に「仕事・就職」に対する考え方に変更を迫るものとして捉えることが必要だ。そして最も確実なことは、大学生活が根本的に変わらざるを得なくなる、ということだろう。
 
 P・F・ドラッカーは「将来についてわかっている唯一のことは、今とは違うということだ」といい、「未来を語る前に、今の現実を知らなければならない。現実からしかスタートできないからである」ともいい「すでに起こった未来は、体系的に見つけることができる」と教えている。
 すでに起った未来を、今の現実から導き出す『賢明さ』がないとこれからの時代は生きていけない。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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