2019年6月10日月曜日

アベノミクスは失敗した

 老後資金 年金頼み限界―金融庁試算「2000万円貯蓄必要」という記事が新聞の一面におどった。それを受けてテレビでも特集を組んで詳細を報じていた。長寿化する「人生100年時代」に備え、計画的な資産形成を促す報告書を金融庁の金融審議会がまとめたものを3日発表したもので、かいつまんで内容を紹介すると、95歳まで生きるとすれば高齢者一人あたり950万円ほど不足が生じるから夫婦で約2000万円が必要になる、ゼロ金利時代の現在は銀行利子での運用は難しいから「株式の分散投資」で賢く運用して老後に備えよ、と金融庁の賢い人たちが庶民に教えを垂れたのである。
 しかし、ちょっと待てよ?年金「100年安心」ではなかったのか?2004年の年金法改正時に政府与党はこぞって100年安心を喧伝したではないか?公明党は今でもことあるごとに「100年安心」を訴えている。同じ政府の財務省と厚労省で言う事が180度違うのはどういうことなのか!
 大体専門家でさえ株式投資で利益を出すのは困難なのに素人がそんな利口な運用が可能なのだろうか?ゼロ金利時代がこのまま続けば10年以内に地銀は半減するとして金融庁は地銀の統合を進めているが、もし株式運用で利益が生み出せるなら地銀の担当者も金融の専門家なのだから地銀の赤字転落を防げるはずで、それができないから多くの地銀は経営不振におちいっているわけで、大体地域産業の振興に目利き力を持っている地銀は地場産業への融資を利益創出の源泉としていて、それが「ゼロ金利」などという「緊急避難的」な措置が五年も十年も続いて今や半永久的政策になろうとしている状況は、国が地銀をツブソウとしているといっても過言ではあるまい。それを「エラそうな顔」をして「地域金融の再編」などとどの顔して言えるのか。『理不尽』とはこういうことを言うのだろう。
 ゼロ金利でなければ、たとえ「年1%」でも庶民の資産運用は「銀行利子」だけでも安定運用できるはずで、大元の「ゼロ金利」を放置したまま「年金不安」をあおるような政府の姿勢は根本が間違っている。
 
 ところでその株式市場が今、異変を呈していることを識者は認識しているだろうか。東証一部の売買高は一日15億株前後がが標準とされているが、昨年の10月あたりから異変が起り今年になってからは15億株を超えた日は6日しかなくほとんどが12億株前後で10億株を割った日が5日もある。これは何を意味しているのか。日本株の人気が著しく低下しているのではないか。ちなみに東証の投資部門別売買動向を見ると2015年以降海外投資家は売り越に転じ2018年は5兆6300億円の売り越しで31年ぶりの高水準の売り越し(買い高から売り高を引いてマイナスになること。マイナスが長期に続けば市場に人気がないと言える)になっている。今年は米中の貿易戦争が激化し解決の見通しもなく、識者の一部は30年戦争などという向きもありIT関連を中心に業績悪化も見込まれる中、更に海外投資家は日本株を避ける傾向が強まりそうな気配である。それなのに、金融庁が一般庶民に株式投資を資産形成の有力手段として斡旋するかの様な報告書を提出するという事は一体何を目論んでいるのだろうか。そうでなくともGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)などという「巨鯨」が市場を攪乱している、不安定で恣意的な株式市場を放置したまま「貯蓄から投資へ」庶民資金の誘導をこうもあからさまに行う金融庁の姿勢に納得のいかない不健全さを感じる。
 
 さて、実際問題として今の情勢で一般庶民が2000万円という貯蓄は可能なのだろうか。
 家計調査報告(2018年)で平均を見てみると働く世帯の平均貯蓄額は1752万円となっている(一方で負債現在額は558万円になっている)。しかしこれはあくまでも平均値であるから所得分布を詳細に見てみると(国民生活基礎調査平成21年)、中央値は427万円で年収300万円以下の世帯が46.6%もある。勤労世帯の平均年収は平成10年を最高にして低落傾向にあり平成29年には10年に比べて約11%低下している。労働分配率(国民総生産GDPに占める雇用所得の割合)は2017年66.2%で43年ぶりの低水準に低下している(財務省・法人企業統計)。
 安倍首相は「アベノミクスの3本の矢」として大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略を打ち出し、市場にジャブジャブ通貨を流通させてデフレを脱却させる、企業の体質を強固にしてグローバル時代を乗り切り企業の儲けを増大させて、その結果働く人の給料も増えるようにする――いわゆる「トリクル・ダウン」の考え方で国民の理解を得るように働きかけた。そのお蔭で大企業の利益は毎年史上最高を記録しいわゆる「内部留保」は年々積みあがり2017年には前年度より40兆円以上増えて446兆4844億円になり第二次安倍政権発足以来164兆円積み上がっている。
 これだけ企業業績が良くなったにもかかわらず働く人の給与は横ばいで、非正規雇用者の割合は今や三分の一を超えるまでになっている。「トリクル・ダウン」――企業の儲けが増えればそれがこぼれ落ちて、ほうっておいても働く人の給与は自動的に増えていく――そう言ったはずなのに給与は一向に上らず、しかも不安定な非正規雇用の人が増え続けている。
 「アベノミクス」は失敗だったのではないか。
 
 「100年安心」を言い続けてきた年金制度を主管庁たる厚生労働省の頭越しに財務省が「年金だけでは老後が不安だから2000万円現役時代に貯金して下さいよ」と、そうでなくても年金制度に不信を抱いている若い人の不安を煽り立てるなどということが許されてよいものだろうか。
 財務省のお役人やその御用学者が机上の計算ではじき出した数字を閣内の調整も経ずに剥き出しにする。年金制度は国民生活のいわば根幹を占めるものであるのに、こんな無神経な形で国民に不安を与えるなど政府の態をなしていないのではないか。
 
 まずは政府の経済・財政政策を根本的に見直すべきだ。 
 
 
 

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