2019年8月19日月曜日

驕る平家は久しからず

 経済は我々の生活の基礎である。経済の仕組みが変われば社会の仕組みも変わり我々の生活にも大きな影響がある。平成時代の経済を振り返ってみると、デフレから抜け出せず給料も上らず非正規雇用の割合が3割を超え貧富の格差がどんどん拡がっている。右傾化が止まらず役人は国民よりも政府の方ばかり向いて仕事をするようになった。
 世界に目を向けると、アメリカにトランプという今までアメリカの進んできた方針とまったく逆の政策を推進する大統領が出現し、アメリカ以外にもミニ・トランプ的政治指導者が次ぎつぎと現われ極右政権が力を増す国が多くなっている。貧富の格差はどこでも拡大し移民受け入れを拒否する傾向が世界中の先進国で起きている。
 
 では経済でどんなことが起っているのか。先ず第一に上げるべきは「経済のグローバル化」で、第二は非正規雇用の増加だろう。そしてマスコミなどでは余り取り上げないが「税収構造の変化」がわが国では顕著になっている。財務省の資料に基づいて平成2年と30年を比較してみると、個人所得税が37.8%から31.5%とマイナス6.3%、法人税が30.4%から21.5%とマイナス8.9%、消費税は18.6%から32.9%プラス14.3%と大きな変動を示しているのだ(他に資産課税等が1%ほど増加している)。他国はさておきわが国のこの変化は見過ごすことのできない重要な経済の変化でありそれによる社会の変化はもっと追及されてしかるべきだ。
 グローバル化は世界的な潮流であるから避けることはできないが、このことを重要視したアベノミクスはグローバルな競争に勝てるように企業の競争力を強化する必要があるとして法人税軽減などの企業優遇策を次々と打ち出し、企業が儲かれば個人の所得も当然増えると公約してきた。しかし実際はサラリーマンの平均年収は平成19年437万円から平成29年432万円と僅かだが減少している(国税庁「民間給与実態統計調査」より)。この間女性の社会進出と高齢者の再雇用、非正規雇用の増大も手伝って雇用者の全体数は増えているから総雇用者所得は増えていると安倍首相は強弁するが1人当りの給料がが増えなければ意味がない。それが証拠に「景気拡大を実感していますか」という問いかけに「NO!」という答えが圧倒的に多いのだ。
 
 グローバル化の根本は、市場万能主義と成長至上主義だ。市場という「隠れた万能の手」に経済の運営を委ねれば「大量生産」が有利になるのは自明だから、企業は「大きな市場」と「安いコスト」を求めて世界展開していく。その結果、発展途上国であった国々の1人当りGDPがどんどん上昇し貧困国レベルから抜け出すようになっているが、反対に先進諸国の労働者の雇用は奪われ平均給与は減り続けるという悪循環をもたらし「反移民」「反グローバル」を唱える「極右勢力」が政権に影響力を強めている。
 このような世界情勢の中で市場の有効性を信じ続けて「市場原理主義」にまかせ、「成長」を最重要目標として社会を運営していっていいのだろう。成長の最大目的は「個人の豊かさ」だが、では一体、どれほどになれば「豊か」なのだろうか。一般には1人当りGDPが2万ドル以上を「豊かな国」という見方があり、OECD(経済協力開発機構)では1人当り国民所得(GNI)約1万2千ドル以上を豊かさの基準としている(GDPとGNIはほぼ同じと考えていいだろう)。
 IMF(国際通貨基金)の「世界の1人当たり名目GDP 国別ランキング2019.4)」によれば世界192の国・地域のうち2万ドル以上の国は44ヶ国、1万2千ドル以上の国は62ケ国に過ぎない(日本39,306ドル、韓国31,346ドル、中国9,608ドル、インド2,036ドル、ロシア11,327ドル)。もし中国とインドを2万ドル以上の国に成長させようとすれば今ある地球上の資源の2~3倍の資源が必要だといわれており、ロシアも含めて世界中のすべての国を「豊かな国」にするためには地球がいくつあっても足らない計算になる。
 
 だとすれば今や「豊かさ」を最重要目標として世界の経済運営を行うことは非現実的なことになってくる(IMFの世界経済見通しによる世界経済の成長率は2018年3.7%、2019年3.5%、2020年3.6%に止まっている)。なぜなら発展途上国の成長を優先すれば現先進諸国は低成長を受け入れなければならなくなるが果たして国民はそれを納得するだろうか。そうでなくても格差拡大の不満が鬱積して国の行く末を危うくしている現状があるのに。
 グローバル化への規制はGAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)など国境をまたぐ企業への徴税強化策が各国・地域で始まっているように今後も対象企業の範囲拡大と税率の高率化として進行していくに違いない。またIMFの主導する革新的資金メカニズムのひとつとして「国際連帯税構想」もスタートしている。これは富裕層から税金を徴収し、一元管理して、世界の貧困や感染症や気候変動への対策費にしようとするもので、航空券連帯税や出国税などがそれに相当する。国連のSDGs〔エスディジーズ(持続可能な開発目標)〕に各国が積極的に関与する機運が高まれば自ずと、市場主義、成長主義への修正が実現することだろう。
 上記した「税収構造」の「企業・富裕層」優遇の傾向見直しも重要で、世界各国の低成長、格差拡大は「需要不足」によるものだという認識が有力になりつつあり、アメリカのバーニー・サンダース氏やギリシャのヤニス・バルファキス氏などの『反緊縮』の運動が今後加速するにちがいない。
 
 「需要不足」がデフレの原因だとすれば10月に予定されている「消費税10%引き上げ」はわが国の需要不足をさらに拡大する方向に作用する。単に税率の2%に止まらず将来不安が亢進すれば住宅や耐久消費財の消費を落ち込ませる恐れがあり、世界的な経済不安と相乗すると想定外の事態になる可能性も否定できない。
 
 「驕る平家は久しからず」という俚言がよぎる。
 
 
 
 

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