2021年7月12日月曜日

人類の強欲と蒙昧のあかし

  最近つくづく思うことは吉田茂のような老獪な政治家が欲しいなぁということです。吉田茂に限らない、野中広務時代までの政治家は保革を問わず「クレバー」であったと思います。老獪ということは、広角で長期的と言い直してもいいし清濁併せ呑むともいえるし、敵の敵は味方という狡猾さを胸底に潜めていた「嫌な奴」と言ってもいい。ようするに底が浅くない「食えない」存在であったのです。加えて「教養」もそれなりにあった人たちでした。森、麻生、安倍、菅の歴代の総理・総理経験者に教養のおもかげを求めても無理な相談と言えば彼らは怒るでしょうか。いや多分一顧だにしないでしょう、彼らはそこに一片の価値も認めていないでしょうから。

 言いたいことはこうです。もし菅総理をはじめオリ・パラ開催当事者が本気で「国民の命と健康」を守ろうと願っているのなら、少なくてもボランティアの方々がワクチンの2回接種が完了するまで開催を延期するのは当然ではないかということです。丸川五輪相が「1回の接種でまず一次的な免疫を…」などという非科学的な発言で接種の遅れを糊塗して見切り発車を正当化しようとしていますが感染防止効果は極めて疑問です。8万人を超えるボランティアが移動するのですから感染者が出るのは当然として開催に臨むべきで、デルタ株の感染力の強力化を考えればかなりの感染者の発生は覚悟しなければならないでしょう。そうなると選手、関係者、オリンピックファミリーそしてボランティア同士の感染も予想できるわけで、その結果五輪後の爆発的感染拡大――国内だけでなく世界的な拡大も覚悟しなければならない事態も予想できます。もしそんなことになれば開催責任が厳しく問われる可能性があります。菅総理はG7の支持でなにか「お墨付き」を得たような言葉振りですが感染爆発となればそんな言質はなんの責任回避にもつながりません。

 勿論これは最悪のシナリオですが可能性として十分考えておくべきでしょう。

 

 私が「老獪」というのはここなのです。選手も関係者もワクチン接種が完了していてPCRの検査体制も整っているとしてバブルから漏れる可能性が唯一予見できるのはボランティアです。そうなら感染爆発を防ぐためには「ボランティアの2回接種」が必須の条件になってきます。これはIOCもIPCも説得できるはずです。これを利用するのです。ボランティアへの接種状況がどうなっているのか詳細は知りませんが2回目の接種までの3週間と抗体発現の1週間~2週間を考慮すると8月下旬か9月初旬が開会式というスケジュールになります。勿論こんな事態に至ったワクチン接種の遅れというわが国の政治責任は厳しく問われるでしょうがそれは仕方ありません。それもこれも吞み込んでシレーっとIOC(IPC)に延期を申し入れるのです。もしIOCが「ノー」をいえば感染爆発の非難は彼らに集中することは明らかですから彼らが拒否することはないでしょう。菅総理お得意の「専門家の先生方のご意見」で延期の必要性を強化すればIOCの受諾はより容易になります。

 今の東京の感染状況だと事体はさらに悪化するかもしれません。そうなったらワクチン接種が人口の4割を超える10月中旬頃まで(11月末までに希望者全員に接種完了するという思惑は大幅にズレ込みそうですが)開催を延期することも可能になるかもしれません。そうなればベストな開催条件を整えることになります。

 コロナ禍という史上まれにみる悪条件下の五輪開催です。ギリギリの切羽詰まった今だからこそ「老獪」政治家のごり押しがきくのです。だから菅さん、「はら芸」を演じてほしいのです。(タイミングとしてはもう遅いのかもしれません。でも『今』ならギリギリのギリギリなのです)。

 

 こんな「はら芸」をだれも思いつかないのは現在の「オリンピックのあり方」について真正面から考えたことがないからです。二言目には「アスリート・ファースト」をいいながら2020東京五輪がそうなっていないことは皆わかっています。暑熱の日本の7月後半から9月初旬にかけてオリ・パラを開催すること自体無茶な話ですし競技時間が早朝だったり夜遅くに設定されることも選手を無視しています。一流選手が参加しない可能性がありますし日本に来ても練習が十分に行なえないからトップコンディションで競技に臨めないかもしれません。全競技の最後にマラソンのゴールが閉会式会場であることがどれほど観客に興奮を与えるかは誰にでも想像できることです。これらを皆無視してオリンピックを開催しなければならないのはオリンピックの「商業主義」のセイです。そしてその根元はアメリカのテレビ局事情にあることは周知の事実です。なぜこんな「傍若無人」の振る舞いが許されるのかといえば「IOCの金満体質」にあるのです。今のIOCはヨーロッパの一部エリートが権力を独占する体制になっていて彼らに巨額のリベートが入る組織になっています。そしてその最大の金主がアメリカのテレビ局なのです(数年前に組織改革されましたが金満体質はまったく改善されていません)。

 

 もしこれが中国であったりロシアであったら西側諸国のマスコミはその横暴を一斉に騒ぎ立てることでしょう。アメリカだからそれが許されるとしたらこんな理不尽なことはありません。もうそろそろこんな馬鹿げたオリンピックに見切りをつけるべきです。

 

 アスリートが最高の条件で、最高の競技ができる、オリンピックに参加することがアスリートの名誉であり、勝利することが世界最高であるような、そんな「アスリートファースト」なオリンピックに改革する。その第一歩が2020東京オリ・パラになったらこんな素晴らしいことはありません。

 これこそ『レガシー』なのではないでしょうか。

 

 

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