2022年1月17日月曜日

新しい資本主義

  岸田さんが自民党の総裁になって「新しい資本主義」を表明したとき大いに期待したのですが見事に裏切られました。せめて「新自由主義からの脱却」だけでも打ち出せたら分断と格差のグローバル経済を改革する第一歩を踏み出せたのですがそれも元総理や副総理への忖度によってもろくも尻すぼみしてしまいました。

 

 コロナ禍で分かったことはグローバル化した現在では一国の経済を世界から切り離して運営し成長を達成することが不可能になっているということです。先進国がワクチンを独占して2回接種、3回接種を行ったところで貧しい発展途上国の蔓延を放置したままでは終息は実現しません。いい例がイスラエルで、世界最先端のワクチン接種を行っているにもかかわらずブレイクスルー感染をくり返しています。それは多分国境を接しているシリア、ヨルダン、エジプトなどから感染が浸み込んでくるからでしょう。ワクチンが『有限な資源』である限り世界全体で「分配の適正化」を図らなければ結局自国の終息も、世界の終息も達成できないのです。ファイザーやモデルナが「特許権」を「解放」すれば生産量の拡大と価格の低廉化が実現できますから終息を早めることができるのですが、今のままなら世界的な終息はあと3、4年先になるにちがいありません。コロナが終息しなければ経済の復興・再生もありませんから、結局ワクチン接種を自国だけが先走って途上国を置き去りにしておく限り富裕な先進国経済の復興はありえないのです。

 こうした現象はすでに起こっていました。それは「難民」の問題です。アメリカはメキシコなどの南米諸国から、ヨーロッパはアフリカや中近東諸国からの難民で自国経済が毀損されています。難民の低賃金が自国民の仕事を奪い失業に追い込む、こんな事体がアメリカでもヨーロッパでも起こって不満と不安が増幅し、格差がますます拡大して分断が危険水域に達しています。わが国も対岸の火事ではありません。わが国で就労している外国人労働者は2020年10月時点で172.4万人に達しています。わが国の労働力人口は6868万人(2020年)ですから総労働力の3%近くが外国人で賄われており安閑としておられません。中国、ベトナム、フィリピン、ブラジルなど途上国からの労働力は今後増加の一途をたどることでしょう。

 これまで一国の経済運営は国家の「存続」を第一目標として自国の成長と国民の豊かさの達成が図られてきました。生産力を拡大することで企業が活性化し雇用の増大と賃金アップを実現することによって国民が豊かになるように経済が運用されてきたのです。しかもこれまでは「先進国クラブ」が世界の富を独占して7ヶ国かせいぜい20ヶ国が繫栄すればそれで良しとされてきました(南北問題は半世紀以上の長きに亘って論議されてきましたがそれは建て前のことです)。繁栄から取り残された途上国の存在は表だって取り沙汰されることはありませんでした。ところが新型コロナの世界的な感染は途上国を無視しつづけることを許さなくなったのです。先進国の「健康と安全」を実現するためには『途上国を巻き込んだ世界』全体でワクチンを接種しコロナを終息させることが「必須条件」になったのです。先進国クラブの「わがまま」が通用しなくなったのです。

 地球上を占有し尽くした200近い「国民国家」が等しくその「存続権」を認め合うような世界にならざるを得ない状況にコロナ禍が追い込んだのです。自国一国優先主義の終焉をコロナが宣告したのです。

 

 何故富める国とそうでない国が生まれたかといえば、『競争』という美名のもとに「有限な資源」を強い国の『独占』に放置してきたからです。そもそも弱い国は「競争の場」にさえ『参加』できないでいました。戦前は「植民地」として先進「宗主国」の『収奪』のほしいままにされました。戦後は「国民国家」として独立したのですが、それは民族、宗教、領土を無視した先進国の「恣意な線引き」による理不尽なものでした。そして国家体制が未成熟なまま「地球上の有限な資源やエネルギー」をめぐる国家間の『争奪ゲーム』に放り出されたのです。勝負ははじめからついていました。歴史上まれな80年近い戦争のない時代がつづいたこともあって、豊かな国の野放図な資産蓄積が累積し国家間の格差が異常に拡大してしまいました(勿論国内の格差も拡大しましたが)。そうした国家間の格差をあらわにしたのが「ワクチンの不公平な配分」だったのです。

 このまま『制限のない競争』に「有限な資源」の「配分」をまかせておくと世界は取り返しのつかない「惨禍」に見舞われることになります。世界人口は今(2020年)約78億人ですがこれが2050年には98億人にまで増加するのは既定の事実です。今でさえ富と資源の偏在が世界平和実現の「足枷」になっているのですからこの状態を放置すれば米中の新冷戦と呼ばれる「世界の摩擦」状態が更に悪化するのは明らかです。中国が「一帯一路」政策と国際法を無視した「海洋進出」を図っていますが、これは資源の「平和的」と「暴力的」の二面からの獲得政策なのです。14億を超える国民に「豊かさ」を与えるためには無尽蔵の「資源とエネルギー」が必要になります。2021年の中国の豊かさ(1人当GDP)は約1万ドルですがこれを習体制が計画(第13回全人代「2035年までの長期目標」2021.3.5)しているように先進国の中レベル(3~4万ドル)に引き上げるためには今後15年間にわたって4.73%の成長を続けなければなりません。このための資源を獲得するために賢明な中国共産党が数十年の周到な計画のもとに進めてきた二面作戦がコロナで不可能になったのです。世界が「有限な資源をめぐる国家間のサバイバルゲーム」をこのまま放置しておいてはいけないことに気づいたからです。国家は今や、自らを守るために自らの領分を部分的に放棄せねばならない、地球規模の問題解決のためにグローバルな「主権」を求める必要性に気づいたのです。

 それはまだ一部の人たちの間だけかもしれません。しかし「地球温暖化問題」にしても「核兵器不拡散」「核兵器禁止」問題にしても、まったなしの緊迫度を増してきています。

 「有限な資源の配分を制限のない競争に任すシステム」に変わって「自らの領分を部分的に放棄する」「地球規模の問題解決のためにグローバルな『主権』」を認めるシステムに改変する必要性に迫られているのです。                                          (つづく)

(この稿は福嶋亮大著『ハロー、ユーラシア』を一部参考にしています

 

 

 

 

 

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