2022年1月24日月曜日

新しい資本主義(続)

  「新しい資本主義」が取り組まなければならない三つ目の課題は「仕事が無くなる」という問題です。ちょっと前、ワークシェアーとかベーシックインカムが話題になりました。一過性だったのか尻すぼみになっていますが現実はその必要性が徐々に高まっているのです。

 

 2015年12月、野村総研と英国オックスフォード大学の共同研究が発表され、10~20年後にはわが国労働人口の約49%の就いている職業がロボットやAIに取って替わられる可能性が高いという推計結果が報告されました。アメリカの会計士が過去10年間に数万人規模で減少していることが例証として挙げられ機械に仕事を奪われる仕事ランキングも予想されていてそれによると1位が小売店販売員、2位が会計士3位一般事務員以下セールスマン、一般秘書などがつづいています。わが国では2017年に3メガバンクが3.2万人の業務削減を目ざす構造改革を表明し支店の閉鎖や窓口業務整理など目に見える形で進行しています。しかしみずほ銀行はAI人員を過剰に削減して大きな業務支障を発生させ信用棄損を招いていますから道のりは厳しいようです。

 今回のコロナ禍によって「リモートワーク」が有無を言わさず強制されたためにロボットやAIによる「仕事の置き替わり」が加速されそうな状況になっています。「対面」でするのが当然とされてきた多くの仕事が、対面が強制終了されてしまうことになれば「AI化」「ロボット化」が重要な解決策につながるからです。ホテルのフロント業務やコンセルジュ業務はロボット化が進行しています。アメリカの会計士の仕事がAI化で急減したように「士(さむらい)仕事」――弁護士、計理士、会計士、弁理士、社労士など――のうちの多くの部分はAI化が可能ですから対人交渉(法廷業務など)を担当する上級業務以外の「士」仕事はAIに取って替わられる可能性が極めて高いでしょう。お役所の「定型業務」の多くもAI化が適していますから「受付業務}の一部を残してほとんどの業務はAI化され、判断・調整業務を担当する上級公務員が残る以外は不必要になる日も近いかもしれません。

 2035年(2015年から数えて20年)はあと10年少しで『現実』になります。半分は極端すぎるとしてもそれに近い仕事が「人の仕事」から消えることを前提に「資本主義」を変える覚悟が必要です。

 

 人類の歴史は「飢餓からの解放」の歴史でした。人類の進歩は『飢餓の克服』を『豊かさの実現』で可能にしてきました。それでもまだ「貧困ライン―1日1.90ドル」以下で過ごす貧困層が2019年時点で総人口の10%近い約7億5千万人存在していますがコロナ禍で2021年には1億人近い増加が見込まれています。 

 これまでの人類は貧困からの脱出(生活維持)を「仕事をする」ことで実現してきました。「賃金(労働)」「所得(金融)」「利益(企業)」を仕事を通じて得ることでそれを可能にしたのです。その賃金・所得・利益に課税した「税収」を基に「国家」は存立しています。『仕事』――「個人の生命」や「国家の存立」を支えている仕事が無くなってしまうとこのシステムは成り立たなくなるのは自明の理です。

 2021年わが国の失業者数は182万人、生活保護を受けている人の数は205万人弱になっています。労働人口は約7千万人ですから「再分配政策」でセーフティネットの維持が可能な範囲に収まっていますが失業者が1千万人規模になればとても今のシステムでは対応できなくなってしまうでしょう。

 ここ20年近く問題になっている「非正規雇用者」は今や総労働の4割弱に達していますがこれは見方を変えると一種の『ワークシェアー』です。仕事の流れを業務分析し細分化して代替可能な部分をワークシェアーしたのが非正規雇用者ですが、1999年末には1200万人台(25%以下)だったものが2020年には2100万人弱4割近くにまで増加したのです。わが国は国際的に低失業率を誇っていて2020年の2.8%はアメリカの4.2%ドイツ、韓国の3.1~3.3%に比べても低いですしヨーロッパ先進諸国は軒並み8%を超えていますから相当優秀なことになります。しかしこれがワークシェアーによる非正規雇用の増加によって演出されているとしたら見方が一変します。

 わが国はすでに仕事が減少しておりそれを「ワークシェアー」でしのいでいるのではないでしょうか。今後この傾向が加速度的に上昇し、失業者の増加とそれ以上の非正規雇用が増加して国民の平均所得が低下、低所得層の割合が飛躍的に増加するかもしれません。なみに生活保護受給の所得基準は月収13万円以下年収では156万円以下ですが、所得階層別分布では200万円以下が約2割、300万円以下は33.4%を占めています。今後下位層へのシフトが増加して200万円以下が5割りを超えるようなことになれば社会保障システムの持続可能性が破壊されてしまいます。しかし決して可能性のないことではないのです。

 

 人類は長い間、「仕事」を通じて収入(給料、所得、利益)を獲得し生活を維持、収入への課税によって国家を存立させてきましたが、仕事が減少することによってこのシステムを維持することが困難になる可能性が非常に高くなっているのです。野村総研とオックスフォード大学の共同研究がそうした事態の2035年ころに現実化することを示唆しています。少なくなった仕事を非正規雇用という形でワークシェアーしてきたのが21世紀のわが国ですが、コロナ禍が仕事のロボット化、AI化を加速させることで一挙に「人の仕事減少時代」に突入してしまうかもしれません。生活保護ではなしに「ベーシックインカム」を基本としなければならなくなるかもしれません。しかしそうなると「原資」の調達をどうするのでしょうか。

 古代ギリシャでは「奴隷制民主政」で市民の生活が保障されていましたが21世紀の資本主義的民主政は「ロボットとAI」が奴隷に取って替わってくれるのでしょうか。

 

 仕事減少時代の社会の仕組みを考えるとき、経済封鎖を解かれた後のキューバの町のおばさんが「生活は苦しかったけど学校と病院がタダだった昔の方が良かったね」と言っていたのが印象的に思いだされました。

 

 自国一国優先主義の終焉制限のない競争による資源配分制度の改革仕事をして得る収入(賃金・所得・利益)て生活を維持するシステムからの脱却。「新しい資本主義」は最低この3つの課題を解決しなければならない、私はそう考えます。

 

 

 

 

 

 

 

 

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