2022年6月20日月曜日

資産倍増計画の罠

  株が暴落しています。17日東京市場の日経平均株価は前日比468円20銭安の2万5963円で、13日からの1週間の下げ幅は1861円29銭に達しています。一方アメリカ株式市場のニューヨーク・ダウ平均は3万ドルを割り込みました。アメリカの急激な金利上昇は日米の経済に甚大な影響を及ぼす展開になってきました。しかしこうした事態は少し経済の分かった人なら早くから予想していた事態で、経済の専門家集団である日銀、大蔵省、財務省の官僚ならずっと早くから危険性を認識していたにちがいありません。

 であるのに、なぜ今「資産倍増計画」なのでしょうか。

 

 株式市場のバブル感(平均株価が正常値からどれほど乖離しているか、高くなりすぎている)の判断指標として「バフェット指数」があります。これはその国の株式時価総額を名目GDPで割って100を乗じたもので100を超えると「割高」と判断されます。このバフェット指数が2021年アメリカ株は200を超えたのです。コロナ禍の景気下支えのため行われた金融緩和が原因とされていますが、今年に入った当初から暴落の噂はささやかれていたのが急激な金利上昇で一挙に現実化したのです。日本株はアメリカに連動していますから、連れて日本株もいずれは下落することは覚悟されていました。

 コロナが一応終息しポストコロナになればジャブジャブと交付された支援金・交付金も打ち切りになるでしょうし、世界経済が正常化してくれば日本の「異次元の金融緩和」もいずれは「出口戦略」をとらなくを得なくなるのは当然の道すじです。

 にもかかわらずこの期に及んで日銀はまだ「金融緩和の継続」の姿勢を崩しません。

 

 これも予想されたことで、金利を上げれば即国債の利払いに影響します。仮に普通国債の残高を1000兆円(すでにこのラインを超えていますが)とすれば金利1%の利払いは10兆円です。国家経済への影響は甚大です。国が無節操に発行した国債を際限なく引き受けてきた日銀の抱えている国債を減らして金融正常化を図ろうとすると「国債の暴落」を招きます。これは日本の国際信用を毀損してしまいます。唯一残された金融正常化の方策は禁じ手の「株式保有」で日銀に積み上がった株式を「放出」することしかないのです。もちろん株価は下落しますが、もし放出した株を誰かが引き受けてくれれば株価下落を防ぐことも可能ですし、最悪をさけてショックを和らげることも期待できます。投資信託を組成して放出株を紛れ込ませればなおのこと影響を薄めることになるでしょう。

 そこで「所得倍増」を「資産倍増」に衣替えしたというわけです。値下がりする可能性の高い株を一般庶民に買わせようとする政府の、権力の「たくらみ」が岸田内閣が公約として打ち出した「資産倍増計画」の不都合な真実です。

 

 「資産倍増計画」は「アベノミクス」の尻ぬぐいです。当然それを考えたのは安倍さんであり黒田さんです。自民党の権力を、退任した元総理が握るという「いびつ」な構造が、分配重視、富裕層への増税という「新しい資本主義」を後退させ旧態依然の企業、富裕層優遇という「アベノミクス」を生き残らせたのです。そして安倍さんの失敗のツケを最も弱っている一般市民に押し付けようとしているのです。

 大体日本の株式市場は昔の「株屋体質」からどれだけ近代化したでしょうか。SMBC日興証券の幹部が東京地検特捜部に起訴・逮捕された株価操縦事件があったのはほんの二三ヶ月前のことです。それ以外にも証券会社の不祥事は枚挙にいとまがありません。またインサイダー取引も後を絶ちません。結局大きなお金を操る人が不当に利益を上げられる体質が根強く残っているのです。

 そんな海千山千の巣食う株社会へ「貯蓄から投資へ」の美名をもって無力な庶民を誘導しようというのですから「あこぎ」極まる手管ではありませんか。「森友・加計問題」や「さくらを見る会」はお友達に権力の恩恵を与えた「不平等な事件」で公平な競争が踏みにじられました。しかし今度は自分の犯した国家的失敗を庶民を「おとしめ」て尻ぬぐいさせようというのですから罪深さのレベルが違います。岸田さんも何故拒否できないのでしょうか。お金持ちと権力者ばかりが得をしていつまでたっても恵まれないままの庶民がやっと救われると自民党に期待した「新しい資本主義」はどこへ行ってしまったのでしょうか。

 

 一体安倍さんは誰のために政治をしたのでしょう。デフレ脱却と日本経済の成長を謳ってアベノミクスを強力に推進しました。非伝統的、異次元の施策を強引に採用し企業が成長すれば「トリクルダウン」で給料は必ず上がると企業減税を行ないましたが結果は社内留保と株主還元ばかりで――会社と金持ちだけが恩恵を被って働く人の給料はまったく上がりませんでした。失業者は減ったけれどもそれは見せかけで、非正規雇用者が4割を超えました。成長できなければ結局パイの分捕り合戦になるのが道理で弱い立場の人にシワ寄せがいくのは当然の帰結です。

 

 安倍さんがアメリカの要求を全面的に受け入れて作成したのが「アベノミクス」です。日米経済調和対話でアメリカ側から提出された要望を忠実に実行したのです。この対話という組織は1989年に設定された「日米構造協議」が1993年に「日米包括経済協議」と名を変え、以後「年次改革要望書」、対話と今日に続くもので、壊滅的な打撃を受けたアメリカ産業再生を果たすために強権的に日本経済の構造変革を迫るものです。なぜこのような理不尽とも思える片務的な要求を受け入れて来たかといえば「安全保障」でのひけ目と従属関係があったからでしょう。製造業に変わって金融と情報と軍事で世界を制しようというアメリカの意図をタッグを組んで実現する忠実な同盟国に安倍さんは日本を仕立てたのです。異次元の金融緩和は日米同時株高を演出し、巨大情報プラットフォームの跳梁を許したわが国は厖大な情報量の管理の自由度をアメリカに握られてしまいました。

 結果として「小アメリカ化」は当然の帰結で格差と差別の拡大が日本を覆いつくしているのです。

 

 日米地位協定と日米経済調和対話を甘受しているうちは日本の「独立」を語る資格はないのです。

 

 

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