2022年11月14日月曜日

国連を見直す

  プーチンと金正恩の狂気によるウクライナ侵攻と異常なミサイル発射が国際的な緊張を高め、国連不信が世界的に拡がっています。極端な論調は「国連不要論」まで言及するようになっていますがちょっと待ってください。国連にはロシアも北朝鮮も参加しています、これは非常に大事なことです。参加しているからこそ国連のロシアや北朝鮮への「制裁」が発動出来ますし、それによって徐々にではありますがロシアにも北朝鮮にも影響を及ぼすことができるのです。あまりにも効果が限定的で即効性がないので疑問をもつ向きもありますがそうではありません。確実に両国の疲弊は進行しています。ここは粘り強く外交努力と制裁を繰り返すしかないのです。チャーチルも言っているように「民主主義はいろいろ厄介な問題があるが、これにまさる政治のかたちはない」のです。

 

 国連は周知の通り「国際連盟」の失敗を繰り返さない覚悟のもとに絞りだされた交際協調の体制です。第1次世界大戦は人類に未曾有の被害をもたらし「総力戦」の怖ろしさを教えました。二度と愚かな世界戦争を起こさないためにアメリカのウィルソン大統領の提案に基づいて設立されたのが「国際連盟」でしたが世界平和の願いは無残にも失敗に帰しました。なぜ成功しなかったのか。

 アメリカは提案国にもかかわらず創立当時から参加していません。それはモンロー主義(アメリカ第一主義)が優勢だった議会に参加を否定されたためです。ソ連も1920年の発足に遅れて参加しましたがフィンランド侵攻によって追放されます。日本は満州撤退を勧告され1933年3月に撤退しましたしナチスドイツは同じ年の10月に脱退しています。イタリアが1937年に脱退して1939年に第2次世界大戦が勃発するに至るのです。このように大国が連盟から脱退するとその存立基盤が崩壊してしまうのです。だからどんなことがあっても国連という協調の場から追い出すことは避けねばならないのです。

 常任理事国の「拒否権」もロシアや中国の度重なる発動によって問題視されていますがこれにも「付与」の理由があるのです。国際連盟は最高58ヶ国参加した時期がありましたが「全会一位の原則」があったために機能不全に陥ったのです。こうした背景があって「大国」に「拒否権」を付与することで「脱退」の可能性を防御しているのです。国連は勢力均衡を背景として存立していますから参加諸国の多様な意見は米英仏ロ中の5大国の意見に集約できるのが通常で拒否権は功罪ありますが天秤にかけたら「あった方が良い」と考えられているのです。

 

 確かに今の国連は脆弱性を露にしています。ウクライナ侵攻も防ぐことはできませんでしたし北朝鮮のミサイル発射実験も阻止出来ずにいます。しかし二つの国を追放するのではなく、内に留めておいて説得を繰り返してなんとか「暴発」を防ぐように外交努力を積み重ねる「忍耐」が今最も求められているのです。

 

 国際緊張のもう一つは「中国の拡張」です。冷戦終結後の「アメリカ一強支配」の体制が揺らいで中国が急速に影響力を高めている現状を西側陣営が深刻に受け止め「不安」を募らせているのです。特に台湾と我が国の神経質な動きが危惧されます。

 しかし過去を振り返れば「一強支配」が異常なのであって多極の「勢力均衡」が普通のかたちなのです。フランスとドイツ、ドイツとイギリス、旧大陸ヨーロッパ陣営と新興国アメリカ、日本、ソ連の対立など世界の歴史は絶えず「勢力均衡」を求めて平和の構築を模索してきたのです。何故なら「常備軍」を諸国が保持している限り『平和』は「戦間期」の一時的(大体30年間)状態と見る方が理屈に適っているという見方が国際社会では常識です。従って1991年のソ連崩壊からの30年超のアメリカ一強時代は特異な時代だったと見る方が歴史的には正常なのです。

 この30年間アメリカは製造業の衰退と金融・情報産業の興隆という産業構造の大転換を経て「格差の拡大」と「国民分断」が国力を疲弊させました。一方中国は「人口ボーナス」という恩恵を最大限生かして「高度成長」を遂げ世界第2位の経済大国に上りつめると同時に「軍事大国化」したのです。アメリカが等閑視したアフリカ、アジア、中南米を経済力で篭絡し「債務の罠」に陥らせて勢力圏に引き込んでしまったのです。そしてここに至って西側主体の「国際秩序」がそこに後から組み込まれた中国、ロシアなどの諸国が「異議申し立て」しているというのが今の世界情勢なのです。

 

 アメリカ一強という西側陣営にとって「心地よい」世界秩序が中国の急速な「大国化」によって脅かされ「地殻変動」を起こしています。アメリカと中国の「二極化」を『均衡』に導く「仲介国」が必要なのですが、これまでその役を務めてきたイギリスが「ブレグジット――EU離脱」という『愚挙』を犯してしまいましたから「仲介役」不在なのです。明治・大正時代は日本がアジアの「指導的地位」を担っていたのですが現状は「アメリカ追随」に安住して「仲介役」を買って出る『気概』と『創造力』を失っています。

 

 アメリカと中国に最も近い国はわが国をおいて他にありません。両国を仲介して新たな「国際秩序――勢力均衡」を構築するために「国連」を活性化する。我が国は今、国際情勢の中で重要な役割を期待されているのです。「アメリカ追随」を脱してアメリカと中国を『善導』する、そんな国に成長しなければならない時期をわが国は迎えているのです。それにしては今の政治家も企業人もあまりに『未熟』です。

 

 国連は曲がり角を迎えています。しかし「必要」な組織です。何とか時代に即した組織に改革するために人類の叡知を結集しなければなりません。そのためには混沌としたこの時代をまとめる「世界の共通価値」を提案できる「知性」が求められます。その役を担えるのはやはりイギリスとフランスとドイツと、そして日本です。

 そんな時代認識をもった政治家をわれわれが育てなければならないのです。

 

 

 

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