2023年4月17日月曜日

AIがサムライを斬る

  対話型AI(チャットGPT)が話題になっていますがどうも的外れなところで騒いでいるように感じます。このニュースに接してまず浮かんだのは数年前の「今ある仕事の半分が無くなる!」というセンセーショナルな研究でした。そしてもうひとつはつい最近の「将来1000万人の労働力不足が起る」という発表です。

 

 平成30年(2018)版情報通信白書の「特集 人口減少時代のICTによる持続的成長」で、英国オックスフォード大学の研究(マイケル・A・オズボーン准教授とカール・B・フレイ教授)によると、米国において10~20年以内に労働人口の47%が機械に代替可能との試算を得ている。日本については㈱野村総研が、同研究により日本の労働人口の約49%が就いている職業において、機械に代替可能との試算結果を得ている」という報道は衝撃的でした。実際わが国のメガバンクは単純計算で3.2万人分に上る業務量を削減するという構造改革を実行しています。

 もうひとつはことしの3月末に「リクルート」の研究機関が発表した、いわゆる団塊ジュニア世代が65才以上になる2040年に、企業などで働く担い手の不足が全国で1100万人余に上るという予測です。都道府県別に見ると東京以外のすべての道府県で不足し、不足率が20%を超える地域は18道府県と全体の3分の1を占める結果になっています。

 

 この二つは一見矛盾しているようで、もしオックスフォードや野村総研の予測が正しいとするならば2040年に1100万人の労働力不足が起こる可能性は極めて低いはずです。その辺の事情が明らかになっていませんから一概にこれらの研究を信じることはできないのですがわが国で現在進行中の「少子高齢化」は厳正な事実で極めて深刻な状況です。厚労省の見通しでは2020年の6404万人の労働人口が2065年には3946万人に、約4割減少すると予測しています。人口統計の今現在の年齢別人口は事実として存在しているものですしそれに基づいて40年後までの結婚可能人口とそれに基づく出産人数も相当な確実性で予測できますからこの人口予測は真実らしい数字と見ることができます。そして2065年の総人口は9000万人を割り込み、高齢化率は38%台の水準になると推計されているのです。

 

 チャットGPTを考える場合最も重要なことは、減少する人口を補完する「成長力の向上」を実現して、崩壊の危機に瀕している社会保障制度を持続可能にするとともに、国民の豊かさを保証できるかという視点です。

 

 チャットGPTは、厖大なデータをインプットして、人間の言葉や文章を理解し、問いかけ(質問)に適格に応答するシステムと理解して間違っていないでしょう。今現在入手可能で確実なデータは、各種統計と法律・判例(発表されている通達なども含む)と公的な仕事手順(公的資格等の)などです。今後必要なデータが累積的に増加してシステムは進化していくでしょうから信頼性は飛躍的に向上していくはずで利用範囲はどんどん広がっていって代替可能な職業も予想を超えて拡大していくかもしれません。

 

 今最も脅威を感じているのは「お役人さん」でしょう。お役所仕事というのはほとんど「規則と手順」が決まっていてそれをいかに確実に、早く、幅広く実行するかで役人の能力が判定されます。「規則と手順」はAIの得意分野です。「早さと確実性」もAIに及ぶ人は極めて稀でしょう。「幅広さ」は人間の能力をはるかに凌駕しています。こう考えてくるとお役所仕事の「AI代替可能性」は想像以上です。本気で役所がAI導入に取り組めば公務員の数は驚くべき削減数になることでしょう。「窓口業務」など今ワンフロアーを埋め尽くしている人員が5、6人で処理できるようになるのも夢物語ではありません。お役人さんたち、戦々恐々しているのではないでしょうか。

 

 弁護士さんもAIに取って替わられる可能性の高い職業です。弁護士に限らず「士(さむらい)仕事」と呼ばれている職業のほとんどはAIの得意分野です。パラリーガルという弁護士の下働きとして当該案件の相当法規や判例の収集作業を行なっている職種はAIに今すぐにでも取って代わられる可能性があります。交渉とディベートが弁護士の仕事として重要になってくるでしょうが競争が激しくなって生き残りは峻烈になるにちがいありません。

 計理士、会計士も事情に変わりありませんし弁理士はもっとも存在の危うい職種でしょう。社会保険労務士などはそもそもが関連法規や通達、手続き類が「継ぎ足し継足し」で普通の職業人では全貌を把握・理解するのが困難になって業務の進捗に支障をきたす事態を招きかねないという危機感から止もう得ず設定された専門職ですから(法体系がきちんと整備されていて誰にでも分かり易い制度であったら必要のない資格ですから)これもまた存在が危うくなるにちがいありません。

 「AIがサムライを斬る!」というタイトルはこうした事情を勘案してちょっと「向こう受け」を狙ったのです。

 

 政治家の答弁のために官僚が徹夜で資料作りにコキ使われている「公務員の長時間労働」の悪弊などAIを活用すれば今すぐにも解決できるにちがいありません。ただしそうなると与野党とも同じ資料で論戦することになりますから紛糾する機会は限られてきて法案成立がスムースになって政治家の存在価値は限られてきますから「政治家の削減」がドラスティックに行なわれれば現在の3分の1、4分の1になることもそう遠いことではありません。政治家の抵抗は激しいでしょうし、そもそもそんな削減案を政治家が提案するとも思えませんが。

 

 学生の利用やお笑い、創作の分野での活用を面白おかしく盛り上げていますが枝葉末節の論です。何のために学ぶのか、試験のためならAIがすぐにも取って代わるでしょうしそんな試験は意味を持たなくなって「塾・予備校」の類は存在価値を失い「学校教育」の必要性が再認識されることでしょう。

 お笑いも創作もAIに取って代わられたらこんなつまらないものはないのであって論議自体が無意味なのです。

 

 日本語のデータが不足していますから本格利用までには時間が必要ですが5年以内にはここまで述べてきたことの多くは実現されてもおかしくありません。

 お役人に政治家、そして「士(さむらい)仕事」の皆さん、今から覚悟しておいた方がいいかもしれません。そして「エッセンシャル・ワーカー」が改めて見直されるでしょうし、「今日注文して今日お届けします」などという「使い捨て雇用」で成立していた過剰サービズは消滅の運命にあります。

 うまく利用すれば「人口減を克服して持続的成長」を可能にするすばらし技術になると期待しています。

 

 

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