2023年9月18日月曜日

ヘリテージ・アラート

  神宮外苑再開発に関してユネスコのイコモスがヘリテージ・アラートを出したことで事業の進捗が新たな段階に入ったことは間違いありません。小池知事は反論しましたが説得力に欠けますから反対する人たちの勢いを弱める効果はほとんどないでしょう。

 

 2001年3月アフガニスタンでタリバンによってバーミヤン遺跡が破壊されました。6世紀後半から7世紀前半のあいだに建立されたとみられるバーミヤン大仏は東大寺の大仏を遥かにしのぐ大きさの仏教石窟でそれがタリバンの暴虐によって破壊されたことは当時世界中から非難を浴びました。 

 しかしそのこととウクライナ戦争で「歴史都市―キーウ(旧キエフ)」が暴力的に破壊されていることとどこがちがうのでしょうか。キーウは京都市と姉妹都市提携しています。ともに1200年以上の歴史を誇る都市ですから当然の結びつきですが、もし京都が砲撃を受けて「歴史資産」が次々と破壊されたら日本人はどれほど怒りと悲しみを感じることでしょうか。しかしアメリカは「原子爆弾」の投下都市の候補地として京都も上げていたのですから今京都が残されているのは偶然の所産に過ぎません。現代人の価値観が「戦争容認」である限り次世代への歴史の継承の多くは「偶然」に委ねられているといっても過言ではないのです。

 

 8月に起こったハワイの山火事で失われた古都ラハイナの歴史的遺産の被害も甚大でした。8月8日からハワイのマウイ島で発生した大規模な山火事は多数の死者と負傷者を出し2000棟以上の建物が損壊したアメリカで起きた過去100年で最悪の山火事でした。この火事のもう一つの重大な被害はハワイ王国のかっての首都ラハイナの文化遺産――22万平方メートルの土地にあった60ヶ所以上の史跡を焼き尽くしたことです。「われわれの知る限り通りを歩くだけで時の流れを遡れるような場所は、ハワイにはもうありません。」とラハイナ史跡修復財団の関係者は悲痛な声をあげています。

 

 こうした文化遺産とは趣を異にしますが、今わが国で進行している「限界集落」や中山間地の過疎問題も次世代への継承という点では同じ意味あいをもっています。過疎地域の人口は全国の8.2%に過ぎませんが、市町村では半数近く、面積では国土の約6割を占めています。この問題をおろそかにしておくと日本という国のかたちが完全に壊れてしまうのです。そうであるにもかかわらず今のところこれといった根本的な解決策は講じられないままずるずると今日に至っています。

 この問題の根本は、地方分権の農業国家であった徳川時代の国家経営と21世紀のポスト工業化社会――グローバル情報社会をいかに整合させるかということです。国土を200以上に分割して農業生産性(主としてコメ生産の)の最大化を図った徳川時代の土地制度をそのまま引きずってきている現在の国土経営を今のグローバル情報社会にどう転換するかということです。ポツンと一軒家が全国に散在するのは新田開発に血まなこになった幕藩領主たちの苦心の結果です。しかし農業従事者が全人口の3%、農業生産がGDPの10%を割り込んだ今、全国の農地を今のまま維持することは不可能ですし不合理です。にもかかわらず国は農地の集約化による農業生産性の向上によって若者世代を農業に引き入れて農業再生を試みるといった時代錯誤の政策を繰り返しています。

 そうではなくて、食糧自給率を何パーセントにするか、国内生産の品目は何にするか、といった国全体の持続可能な「農業政策大綱」を確定してそのための農地の選択を行い、必要な労働力を算定し、併せて工業化を進め生産性を向上させ他の産業と同程度の収入が保証できる体制を整える。余剰農地は国有化して国土の保全と災害対策に特化し、国家公務員の「国土保全隊(注1)」を派遣する。というような根本的な「国土経営戦略」を立てなければわが国の農業・農村問題は解決しないのです。勿論私有財産制や土地の個人所有などの問題をクリアしなければ野放図な外国人所有を認めてしまうことになりますからそうした法的整備は困難を極めるでしょうが国土の継承という意味ではどうしても解決しなければならない問題なのです。

 

 そもそもヘリテージ・アラートとは、文化的資産の保全・継承を促進し、文化的資産が直面している危機に対して、学術的観点から問題を指摘し、未来世代に向けた保全と継承の解決策を促進するために、イコモス(ICOMOS)の専門家および公的ネットワークの活用を推進するために発する声明です。歴史ある国土をいかに過去・現在・未来世代が公平に継承していくかという問題意識なのです。ところが経済優先の戦後約80年は、現役世代の近視眼的な経済主義が横暴を振るい、先輩世代から「受け継いだ」資産であるという意識が希薄化し、次世代への「傷みの少ない継承」という責任感が欠如して今日に至っているのです。

 加えて政治家に明治神宮の森創建時の大隈重信のように本多静六ら専門家を尊敬する謙虚さが消え、とにかく目先の利益優先の浅慮な専横が政治家・官僚・経済人の行動規範になってしまっているのです。 

 

 小池さんがやろうとしている神宮外苑再開発事業は、世界的に見ればタリバンとプーチンが犯した世界遺産破壊と同じ次元の『蛮行』とみなされているのだということを彼女は認識していないのです、「ヘリテージ・アラート」は再開発の国際評価はそんなものだということを突き付けているのですが彼女は気づいていないのです。そもそも文明国日本の首都・東京の都知事にイコモスからアラートを出されることの屈辱と恥辱を彼女はまったく感じていないのです。

 

 タモリさんが「新しい戦前」と今を表しましたが、明治の先人たちが日本改革のために「国家百年の大計」を模索したように『大構想』をぶち上げる政治家が今出て欲しいのです。そうすれば若者の「国家公務員離れ」も収まるにちがいありません。

(注1)「国土保全隊」は、農地、里山、山林などを国有化し保全と継承を目的として国の機関として設立します。職員は国家公務員とします。余剰農地だけでなく山林や沼沢地なども含めて美観保全、災害防止を行ない、国土の外国人保有を禁止します。全国の農地の適正化と食糧自給率向上による食料安全保障を実現します。

 

 

 

 

 

 

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