2023年9月4日月曜日

ことばの重み

  最近になってはじめて知ったのですが「画竜点睛(がりょうてんせい)を欠く」のセイは「晴」でなかったのです、目ヘンだったのです。「晴」が竜の目であるはずもなく「睛」、すなわち「目玉、くろ目」が当然なのです。まったく粗忽なことで恥ずかしい限りです。この誤りは漱石の漢詩を読んでいて気づいたのですが漢詩つながりでいうと頼山陽の「天草洋に泊す」のなかにある「青 一髪」という句が好きです。「雲か山か呉か越か 水天彷彿(すいてんほうふつ)青一髪(せいいっぱつ)(以下略)」、「雲であろうか山であろうか、それとも中国の呉の地であろうか越であろうか。海と空とが接する辺り、一本の髪のようにかすかに青く見えているのは。」長途の船旅は毎日毎日海と空が無辺につづきます。陸への渇望が日増しに狂気に近づく、そんな折遥か水平線のかなたに薄っすらと緑の線がぼやけて見える。そのときの「ときめき」が見事に表現されている言葉ではありませんか。

 ちょっとおもむきは異なりますが今再放送されている「あまちゃん」の主人公たちの「夏子、春子、アキ」という名前が春夏秋冬から微妙にそれぞれの年代にあった選択をしているように感じます。冬は厳しさのある字ですから今どきのドラマの登場人物にはふさわしくないですし、もし冬子としたら夏子の母・祖母世代が似つかわしいでしょう。夏子は最年長――戦後スグ世代らしいですし、春子は昭和後半に感じます。アキはカタカナを使用することも手伝って最も若い主人公にふさわしい名前になっているのではないでしょうか。

 字の不思議さです。

 

 晩年の読書をはじめて二十年近くなって、漢詩と古典和歌(万葉集、古今和歌集など)を読みつづけてきて、座右に置いた冨山房「詳解漢和大字典」と岩波書店「古語辞典」を日に何度か引いています。その繰り返しが言葉に対する「感覚」を鋭敏にする効果があって、最近のマスコミが報道する「言葉」の「薄っぺらさ」「嘘っぽさ」がヤケに耳(目)ざわりになってきました。こうした状況をさらに増幅しているのが「ネット空間」です。ちょっと前話題になった本で『ネット右翼になった父』というのがありました。どちからといえば穏健な常識人であった父がしばらく会わないうちに、ヘイトスラングを口にしテレビの報道番組に毒づきつづけるネット右翼に変貌させたのは右傾化したYouTubeチャンネルだったのです。コミュニケーション不全に陥った父子の相克を描いたこの本は現在の情報化時代の陥穽を浮き彫りにした問題作でした。

 マスメディアの情報の空虚さ以上にネット空間は「偏向と虚偽」に満ち溢れており、その結果何が真実かを判断するのが困難な状態になっています。とくに「政府発表の(公的な)情報」に対する『不信感』が抜き差しならない状況に至っています。

 

 最近のマスコミで取り沙汰された報道の真偽を検証してみます。 

 関東大震災100年の今年特番も多く放送されましたが松野長官の、震災時の朝鮮人虐殺について「政府内において事実関係を把握する記録は見当たらない」という発言が物議を醸しています。これは完全な「ウソ」です。虐殺の事実を示す文書は数多くあり、政府の中央防災会議の専門調査会が2009年に公表した報告書は「朝鮮人が毒薬を井戸に投じた」などの流言をきっかけに虐殺が起きたと認めています。加害者が起訴されたケースを当時の司法省がまとめた報告書も虐殺を報告していますし、当時の内務省警保局長は各地方長官に宛て「爆弾を所持し、石油を注ぎて放火するものあり」と朝鮮人の取り締まり強化を指示する電文を送っています。

 なぜ松野長官はこんな見え透いた嘘を発言するのでしょうか。小池都知事は虐殺犠牲者の慰霊式典への追悼文を今年も送りませんでした。

 

 ロシアのプリゴジン暗殺は極めて事実らしいけれどもまだ生存説も完全に否定できない報道ではないでしょうか。その間の本当らしい情報は盛んに専門家が述べていますが、プライベートジェットの搭乗者名簿などいくらでも細工できるのではないかという疑問をどうしても消すことができません。プーチンと彼の関係や叛乱後のプーチンのプリゴジン処遇を見ていると生存可能性の憶測を抑えることができないのです。死亡後に生存をうかがわせる動画がアップされたり彼の死亡を決定づけるにはもう少し時間がかかりそうです。

 

 福島原発の処理水放水に関しては、まだ分からないことに頬かむりして分かった範囲で「安心」を主張するところに危険性を感じます。これは「原発安全神話」と同じ構図です。しかも放水2回目(8月31日)の取水でトリチウムが1㍑10ベクレル検出されたという発表もあり放水前保証したほどの安全性はALPSにないのかもしれないと思わせられました。

 汚染水に含まれている放射性物質は「通常運転」時のものは確定されているかもしれませんが、メルトダウンした原子炉から発生するものにどんなものがあるかはまだ未確定部分も残されています。それは原爆が爆発力以外に放射能が人体に与える影響が分からないうちに投下された状況と同じ危険性を感じます。もしALPSの除去物質以外に有害物質があったとしたらそれは除去されずに放水されるのですから危険性は排除できません。中国人民の過剰とも思える反応はひょっとしたらその辺にあるのかもしれません。

 

 以上に述べたように情報には①ウソ②不確実なもの③分からないことがあるのを分かっている範囲で判断したものが一見本当らしい装いで流通しています。これを見抜く力が情報化時代に求められるリテラシーですが、危険なのは嘘や不確かな情報を好んで選択する傾向が強いことです。トランプ現象やネット右翼はそのひとつです。

 

 政府や公共の発表を信じることができない現在の状況は政治家や役人の言葉に重みがないことのもたらした悲しい現実です。

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