2024年11月4日月曜日

中道右派の時代

  今回の選挙の意味は何であったのか。それは裏金に象徴される振り切った「安倍なるもの」への平衡力としての「中道右派」への「揺りもどし」であったと思います。「失われた30年」からの脱却が国民の悲願となって「強力な指導者」が待望され、この気運に乗じた「安倍一強」の8年はわが国の政治状況を限りなく右傾化してしまいました。自民党の得票率(衆議院議員選挙の投票率平均60%弱、自民党の得票率35%とすると)を考えると国民のせいぜい3割に満たない支持しか得ていないにもかかわらず「反安倍的」なものをほとんど無視して「国のかたち」を変えてしまったのです。それが今回の選挙前の国の政治的情勢でした。したがって「安倍なるもの」への不満のマグマは頂点に達していました。そこへ「裏金問題」が浮上したのですからこれが「発火点」となって「安倍なるもの」に対する「平衡力(釣り合いをとろうとする力)」が起動する環境は完全に整っていたのです。かといって国民は安定志向ですから一挙に「リベラル」へ揺り戻すことは望んでいませんでした。「中道」――それもどちらかといえば「中道右派」で様子を見よう、そんな選挙ではなかったか、と思います。

 維新は「亜自民党」ですから選択肢には入りません。「国民民主党(以下国民)」がもっとも条件に合致していると考えられたのでしょう。次いでリベラル色の強い「枝野立憲民主党(以下立民)」ではなく穏健で中道的な「野田立憲民主党」が選ばれたのです。

 

 今回の選挙について雑感をニ三述べてみます。まず納得のいかなかったことは、高市氏の「非公認候補の応援」です。そもそも今回の選挙は裏金問題に対する「国民の審判」にありました。自民党は「自浄作用」として悪質と判断したわずかな党員を「非公認」にしました。にもかかわらず高市氏は彼らを堂々と「応援」したのです。これは明らかに「反党行為」です。ところが自民党執行部はこれを「黙認」しあまつさえ2000万円を支給したのですから国民が怒るのも当然です。党は政党支部への党勢拡大費と言い訳しましたがそんな理屈が通るはずもありません。透けて見える「見せかけ『非公認』」は国民感情を逆なでしました。それが自公で218議席という惨敗を招いたのです。

 公明の退潮も同一線上にあります。非公認候補の推薦、支持を行なったのですから国民がそっぽを向くのも当然です。自民の暴走を矯正するストッパー役であったはずの存在が、結局安保法制の改変にも賛成したのですから党のイメージが汚染された感は否めません。

 激減した旧安倍派議員が石破体制に意趣返しすると息巻いていますが筋違いも甚だしいのではないでしょうか。裏金問題の張本人で今回の惨敗の責任の本当の張本人なのですから陳謝して当然で「逆恨み」するなど彼らの倫理観はどうなっているのでしょうか(もともと倫理観など持ち合わせていない連中でしたか)。

 

 今回の選挙結果の論評を聞いていて完全に抜け落ちている視点があります。ノーベル平和賞が「被団協」に与えられたことです。受賞後の記者会見で被団協・代表委員田中熙巳さんが石破さんの核共有論に対して「論外!政治のトップが必要だと言っていること自体が怒り心頭!」と石破さんの論文を厳しく批判した報道は、党内野党を標榜し国民目線を装っていた石破さんが実は以前から持論として「核容認」であったことをあからさまにしました。石破さんの米シンクタンク「ハドソン研究所」に寄稿した論文の概要は次のようなものです。核のシェア、持ち込みを具体的に検討しなければならないと提言し、北朝鮮とロシアの軍事同盟の強化は北朝鮮の核・ミサイル能力増強につながりそこへ中国の核戦力が加われば米国の東アジアにおける抑止力が機能しなくなる。それを補うためには核戦略の見直しが必要であり、核共有・持ち込みを含めた日米安保条約の現在の片務的非対称のものから「普通の国同士の軍事同盟」に格上げしなければならい。被団協の田中さんが「論外!怒り心頭!」と怒りをぶつけたのも当然なのです。

 ノーベル平和賞は極めて政治的な側面を持っています。時々の世界情勢を考慮して平和が冒(おか)される危険性が高まっていると判断すればそれを是正する考え方や政治的方向性に賞を与えることで「警鐘」を鳴らしつづけてきました。今回もロシアがウクライナ戦争において核の使用をチラつかせて戦況を有利に導こうとしていることや北朝鮮のあからさまな核戦力開発への暴走に対して危機感を抱いて、被団協の「核タブー」化への世界的規範の醸成に努めてきた長年の運動に対して改めて意識を向けるべく受賞を決定したのです。

 「世界唯一の被爆国」を常套句とする我が国の政治家たち。安倍さんも菅さんも岸田さんも事あるごとに口にしてきました。しかしその言葉とは裏腹に核の傘を容認しさらに安保法制の改変も断行したのです。これは自民党長期政権を支えた「3割弱」の支持層以外の国民の考えを完全に無視した暴挙であったのですが、しかし3割の岩盤支持層の人たちの中にも「行き過ぎ」ではと懸念する人もあったかもしれません。そうした従来の自民党政権とは反対の立場を表明していた石破さんが安倍さんでさえ表だって認めていなかった「核持ち込み」も「アメリカとの核の共有」も具体的に検討を開始する人であることを知ったのですから「拒否反応」は半端なものではなかったのではないかと思うのです。

 

 裏金に対する国民の怒りは想像以上に強く深いものでした。しかし「核容認論――核共有、持ち込み許容」に対する「拒否反応」もそれと同じくらい「反自民」に作用したのではないでしょうか。マスコミが取り上げないから表面にはでていませんが。

 

 マスコミは「中道右派」という表現をまったくしていません。しかしわが国の政治趨勢はこれまでの「右傾化」一辺倒から「中道右派」へゆるやかに移行していくに違いありません。同様に石破さんの「核容認論」に対する「拒否反応」も表面化していくことでしょう。

 わが国は今重大な転換点に立っているのです。

 

 

 

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