トランプさんが次期大統領に決まった次の日の昼のニュースショウで大の大人が――それも政治評論家だとか知識人といわれる連中が「石破さんがトランプさんの気に入られるには……」と大真面目にあれやこれややり取りしているのを見てこの人たちは本気なのだろうかと、呆れ果ててしまいました。「気に入られる」という言葉は「下のものが上の人に……」というニュアンスがあります。グレイトアメリカの大統領は極東の島国・日本の総理より当然格上ということをこの人たちはなんのためらいもなく「前提」としているのです、それも多分無意識に。加えて彼らが持ち出す「モデル」は安倍前総理なのです。安倍さんはトランプさんと仲が良かった、丁重な扱いを受けていた、世界で最も頻繁に首脳会談を行ったなどと両者の蜜月ぶりを引き合いに出して石破さんがそうなるためにはどうすれば良いか、ゴルフをしなさいの何のかのとアドバイスする連中の姿は噴飯ものでした。
安倍さんがトランプさんとそんなに仲が良かったのに、では日米関係がどれだけ改善されたのかと振り返って見れば、大量の兵器を売り付けられただけで他にこれといってわが国にとって有利な見返りは何一つなかったのではありませんか。安倍さんはプーチンさんとも27回も会談していますが日ソ関係は北方4島返還も頓挫したまままったく進展は見られませんでした。
この局のこの番組だけかと思っていたのですがどの局もどの番組でも同工異曲の「気に入られ方教室」を臆面もなくくり広げるのですからわが国のマスコミ――テレビ放送はどうなっているのでしょうか。
トランプさんがどうでて来るか予測不能であることを殊更に取り上げて、関税を引き上げて国内産業保護になるだとか、軍事同盟の費用負担の公平化を打ち出してくるから「思いやり予算」を大幅増額しなければならないとか、防衛予算のGDP比2%では低すぎるから3%4%に拡大を突きつけてくるに違いないとか、この機に乗じた「軍事大国化」を当然視する論調を展開する「専門家」さんたちの『卑屈』な「属国意識」が情けなく腹立たしくてなりませんでした。
対等な関係の独立国同士の「日米関係のあり方」の「正論」を堂々と戦わせばいいのです。そもそも「正論」を持っていないから相手の出方に対処する策で応じるしかないのです。
今のアメリカは、特にトランプさんは「基軸通貨国としての責任」を忘れているのではないかという危惧を抱きます。「自国第一主義」を掲げて高率の関税で自国産業を保護すると公言して憚りませんがそんなわがままを言うなら、ドルが今持っている基軸通貨という「特権的地位」を捨ててユーロや円や元と同じ通貨になってください。
第二次世界大戦の前後までは英国のポンドが基軸通貨の役割を担っていましたが戦争を機に英国経済が衰退してドルが基軸通貨に選ばれたのです。そのための裏づけとしてアメリカは金1オンス=35ドルと定め金との兌換を保証し、各国通貨はドルとの交換比率を固定することで安定性を維持する「金ドル本位制度」を世界は採用したのです(ブレトンウッズ体制の確立)。この体制は1971年のニクソンショックによって「金・ドル交換停止」となり事実上崩壊するのですが、にもかかわらず今日までドルが基軸通貨として流通してきたのは各国のドルに対する信認と利便性が他の通貨より勝ってきたからです。
ドルに対する信認は、戦後80年間アメリカがその軍事力、経済力、政治力を用いて世界経済の発展と平和に貢献してきたからです。いわばアメリカは「世界を主導する責任」があるのです。この「信認」はアメリカと各国の無形の「信頼関係」により成立しているのです。ですからアメリカの指導者は世界の信認に応える義務があります。
アメリカが経済大国として繁栄してきたのは豊富な資源と有能な人材があったからです。しかしそれと同等に「基軸通貨国としてのメリット」もありました。アメリカの国債がドル建ての資産として海外各国から準備資産や運用資産として大量に購入されるというメリットです。それは俗な言い方をすれば「ドルを好きなだけ刷ることができる」ことです。トランプさんは多くの公約をしましたが「双子の赤字」を抱えたアメリカ経済のもとでは国債に頼らざるをえません。しかしトランプさんが進めようとしている「グレイトアメリカ」は世界の国々の「信頼」に応える姿ではありません。世界の国々が互いに信頼し合って「自由貿易」をすることが世界経済発展のベターな政策だと主導してきたアメリカだから信頼してきたのです。その自由貿易を支える基礎となるのが「法の支配」を受け入れ「自由」を尊重する「民主主義」だとアメリカが主導してきたのです。トランプさんのやってきたこと、これからやろうとしていることは、「自由貿易」と「民主主義」に反することばかりです。
コロナ後アメリカは急激な「利上げ」を実施しました。自国のインフレを抑制するためです。この影響を受けて「円安」が一挙に進行してわが国経済は多大な損害を被りました。しかしもっと被害を受けたのはアメリカから多額の借金をしている発展途上国です。借入返済額が膨脹し負担が過大になって国の経済が破綻に瀕した国もあるのです。
世界の外貨準備に占めるドル比率は最高時80%を超えていましたがこの20年間で70%から60%に低下しています。今もロシアと中国の間の貿易決済にドルは使用されていませんし北朝鮮も同様でしょう。中国の一帯一路政策の参加国は元を決済通貨にしています。EUはEU間貿易の決済は当然ユーロが使われます。BRICSは新通貨の創設を検討しています。21世紀になってから「経済制裁」は広汎に行なわれてきましたから強制的に「ドル圏からの追放」が行われたことになります。
「ドル基軸通貨」体制は刻々と綻びを拡げているのです。
60年を超えた「日米安保体制」は東アジアの平和と安定の要です。しかし両国の関係はこの60年間に微妙に変わってきました。冷戦下の「防共」の砦としてのスタート時の立場から中ロと対立するアメリカの最前線基地という役割に変わってきているのです。もちろん「核の傘」の恩恵(?)は認めますがアメリカへのわが国の「基地提供」がなくなればアメリカの世界戦略は根本的な変更を迫られるはずです。もしトランプさんが理不尽な、法外な要求をするようならわが国は「ケツをまくる」行為に出てもいいのではありませんか。威勢のいいことを言う割に「卑屈な属国意識」の強い人たちに、冷静な世界情勢の分析とケツをまくるくらいの「腹をククル」覚悟はあるのでしょうか。
トランプさんに気に入られようと汲々とするのではなく、アメリカのよき友として「助言」できる関係になりたいと願っています。
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