昨今の「103万年の壁」論議を聞いていていつも違和感を感じます。二つあって一つは「納税」に関して、もう一つは「103万円の壁」そのものについてです。そしてなにより何故いまなのか、どうして2020年令和2年の税制改正時に問題にしなかったのか、政治家もマスコミもという感を強く抱くのです。令和2年の税制改正で国はとんでもない「インチキ」をしたのです。
小学校で「国民の三大義務」を習いました。教育(憲法第26条2項保護する子女に普通教育を受けさせる義務)、勤労(憲法第27条1項勤労の権利と義務)、納税(憲法第30条納税の義務)の3つです。今の論議はこの「国民の義務」という考え方に根本から異議を唱えているように感じるのです。
「103万円の壁」は既にご存じの通り「基礎控除48万円」と「給与所得控除55万円」を足した合計控除額のことです。この金額が妥当かどうかを検討する前にもう一度復習すると「基礎控除」は最低限度の生活費という意味合いで「給与所得控除」は個人事業者の必要経費に相当するものです。言ってみれば基礎控除は生命維持に必要な最低限の食費とみてよくそれを国は月額4万円と算定しているのです。それに対してサラリーマン(ガール)の必要経費は年額55万円ですから月額5万円足らずです。通勤費は会社から出るとしても背広などの衣服や諸経費が月額5万円たらずで妥当かどうかは悩ましいところです。
ここで問題にしたいのは2020年令和2年の税制改正で基礎控除が38万円から48万円に増額されたのに反して給与所得控除が65万円から55万円に減額されたことです。これはとんでもないインチキです。前回の税制改正は2,015年(平成27年)に行なわれてそれぞれ38万円と65万円に設定されていたのを2020年に今の金額に変更されたのです。基礎控除が増額されたのはこの5年間に物価の変動があったからそれを調整するためだったと推察するのですがそれならサラリーマンの必要経費(給与所得控除)が10万円減ると考える理由が理解できません。少なくとも5年間変動がないと見るのが妥当でしょう。それを基礎と所得で10万円を入れ替えて「103万円の壁」は変えずに税の減収を防いだと考えざるを得ません。どうしてこんな税調のインチキを議員さんたちは許したのでしょうか、玉木さんまで。
わが国所得税制の一大特徴は「源泉徴収」という徴税方法にあります。世界の徴税方法は「申告納税制度」が主流で源泉徴収をしている国はドイツ、インド、韓国などごくわずかです。もしわが国が申告納税だったら国と地方でどれほどの費用が掛かるか資料がありませんから定かには言えませんが厖大な額になるであろうことは想像できます。国民が源泉徴収――給料支給時に概算の税金が「天引き」される――を受け入れているのは国が納得のいく妥当な「最低生活費と経費」を計算してくれるであろうと「信頼」しているからです。その国が――政府税調がこんなインチキをするのでは国民の信頼を大きく裏切る行為に他なりません。
「103万円の壁」を国民が問題にするのは「所得税の計算の仕方」に疑問を持っているからです。103万円で税金が掛かる今の計算方法がおかしい、「最低生活費と経費」はもっと多いはずだ、そう思っているのです。そもそもの設定金額に対する疑問、税制改正の期間の物価変動の見積りが低すぎる、源泉徴収で国や地方自治体が受けているメリットを国民に還元するという姿勢が見られない、などを考慮すれば「控除額の総額」は103万円ではないはずだ、もっと多いはずだ、そう考えているのです。実際この10年でサラリーマンを取り巻く環境は大きく変化しました。情報化時代の進展、リスキリングの必要性などいずれも「自己投資」が求められます。そんな変化を国は考慮しているとは思えないのです。
「源泉徴収」という徴税方法を当たり前と考えずに国民の理解と納得が「前提」であることを真摯に考えるなら、政府も地方自治体も「103万円の壁」の妥当性についてもっと真剣に考えるべきです。そして現在の税制の基本となっている「夫婦と子供2人、妻は専業主婦」というモデルを再検討すべきです。
さて次は政府も地方自治体も声高に主張する「7~8兆円」ともいう「税の減収」という問題です。この問題は納税義務者が「平等」に税を「負担」しているかどうかという視点から考える必要があります。経済を国内経済に限れば個人と企業、政府(国と地方自治体)の3つの主体で構成されます。個人は労働、消費、納税を、企業は生産、投資、納税をします。これに対して政府は国と国民を守る(国防)、行政サービスの提供、税による所得の再分配を行ないます。
現在の税収の8割を所得税、法人税、消費税が構成しています。2022年度でみると65.2兆円の31%が所得税、20%が法人税、消費税が32%を占めています。ぱっと見ておおかしいと思いませんか。そうなんです、企業の負担(法人税)が少な過ぎるのです。これは法人税がこの40年で約半減した結果です。昭和末頃の税率は43.3%でした。その頃の税収に占める法人税の割合は35%近くもありました。それが平成の30年間に7回にわたって減税され現在では税率は23.2%にまで引き下げられています。その結果が20%の割合まで低下したのです。「減税でグローバル競争に勝って企業が成長すればその利益がトリクルダウンされて国民も潤う」というアベノミクスで減税が加速されましたが、この間GDPは横ばいで成長できず給料も据え置かれて企業の内部留保(企業の純利益の残高)だけが600兆円まで積み上がっているのです。
最初3%でスタートした消費税は現在10%にまで「増税」されました。現在の「103万円の壁」論議の底には消費税の国民への過負担感が影響しています。国は所得税に比べて消費税の安定性を主張して社会保障の財源として減税は不可能だ(望ましくない)として減税に応じる気配がありません。「103万円の壁」による税の減収を穴埋めするとしたら法人税の増税以外に国民の納得のいく方法はないのです。
アベノミクスの結果「過剰な円安」を招いて異常な物価高騰を招き生産にも消費にも悪影響を与えています。その結果「手取り額」で買える消費の実質額が減少したので「手取りを増やす」という国民民主党の訴えが国民の支持を得たのです。しかしこの問題は単に「103万円の壁」を解消するだけで解決するものではなく、国の税制の在り方、所得税の仕組み、など全体としての「税体制変革」を考えなければならない問題なのです。
「税金納めて一人前や」、若いころ大人たちに散々言われたものです。
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