2010年11月15日月曜日

政治権力は腐敗する

 尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件の報道に接して「CSR(企業の社会的責任)」と「コンプライアンス(法令遵守)」という企業の内部統制システムを思った。そして内部告発に関する「公益通報者保護法」というセーフティーネットも整備されている企業に対して全く法整備が整わない我国の現状で「シビリアンコントロール(文民統制)」が担保されているのであろうかという不安を感じた。

 高度成長期のなかで企業は利益を追求するだけでなく、組織活動が社会へ与える影響に責任を持たなければならないという自覚をするようになった。しかし残念なことに企業イメージの向上を図るPR活動(寄付やメセナなど)に注力され、社会や企業利害関係者への説明責任を適切に果たすことによって持続的成長を実現するという内部統制本来の目的が見失われることが多かった。その結果企業信用を失墜する反社会的行動が多発した。そこで食品偽装、サービス残業、偽装請負、公共工事の入札談合など無批判な企業論理による社会規範を蹂躙する事態を正常化するためにコンプライアンスが重視されるようになり、更に内部告発者の身分を保証する「公益通報者保護法」が2006年4月に施工された。

 このように企業活動については社会的公正を実現するための内部統制システムやセーフティーネットが整備されたが公共部門での取組みは未だ殆んど手付かずである。税金の無駄遣いの責任所在、天下りの弊害、省益等の既得権など公共部門の不正、非効率が一向に改善されないのは内部統制システムと公益を維持するための内部告発者を保護するセーフティーネットが整備されていないからである。従って今回の尖閣ビデオを流失させた海上保安官の身分を保証するセーフティーネットは無いしそもそも公益を保護する内部告発に相当するかも定かではない。

 シビリアンコントロールは軍部の暴走を阻止するためのシステムであり文民の政治家が軍隊を統制するという政軍関係における基本方針のはずだが、今回の事件は文民政治家の暴走もありうる危険性を図らずも垣間見せた。「政治権力は腐敗する。絶対的権力は絶対に腐敗する。」というイギリスのアクトン卿の言葉が生々しく感じられる昨今の世界情勢である。

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