2011年1月17日月曜日

美術館へ行こう

 最近の美術展ブームは凄い。昨年暮れの上村松園展は行くのを控えたほどの混雑振りであったし、一昨年の阿修羅像展、昨年の「ボストン美術館展」などその盛況振りは枚挙に暇が無い。英アート情報誌「The Art Newspaper」が発表した2009年世界各地の美術館で開かれた特別展1日当たり来場者数調査によると日本の展示会が1位から4位を独占している。1位は東京国立博物館の「国宝 阿修羅展」で1日当たりの来場者数は1万5960人、2位奈良国立博物館「正倉院展」で同14965人、3位同9473人東京国立博物館「皇室の名宝―日本美の華」、4位は同9267人で国立西洋美術館の「ルーヴル美術館展17世紀ヨーロッパ絵画」となっている。
 こうした現象を高齢化による『年寄りの暇つぶし』と決めつけておけないことに気づかしてくれる『啓蒙の書』にであった。

 「オペラをつくる」(岩波新書、武満 徹・大江健三郎共著)のなかで武満徹がこういっている。「今の芸術家の役割は(略)前よりももっと重要になってきている。(略)いま人間がやっと感じはじめたある重要なものを(略)どれだけ次の時代に受け継がせることができるか(略)いちばん純粋な形で人間の想像力とか思想のタネをどういうふうに次の人間社会のなかに植えていくことができるか。そいう役割を芸術家が自覚しなければいけないのでないかと思うのです。」

 我国が大変革期を迎えていることは皆感じている。その期待の現われが「政権交代」であったのだが無惨にも裏切られてしまった。政治の劣化は時代の趨勢に大きく取り残されている。我々が今求めているベクトルは、戦後の驚異的な経済復興達成のあとの虚脱感からどう脱出するかということであり、経済成長だけでは埋めることのできない多様な価値観の実現である。理由のある「格差」や「増税」を受入れる覚悟すら我々にはある。それに応えてくれない政治への諦めと苛立ちが『芸術(美術)』に振り向けられているのではなかろうか。豊穣な芸術には先達の時代に先駆けた『純粋な形で人間の想像力とか思想のタネ』が埋め込まれているのだから。

 美術展の群集は芸術と対峙することで『諦めと苛立ち』の深層の確認作業をしているのかも知れない。

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