2012年5月7日月曜日

東電問題の見方(2)

東電問題を電力会社(供給側=産業界)の立場から考えて見たい。
 
 3.11直前までの「オール電化」狂騒曲は一体何だったのだろう。思うに、国際的に稼働率が20%以上低い我国の原発を世界レベルに引き上げる構想が政官財で出来上がっていたのではないか。その余剰電力を当て込んで電力会社は勿論のこと住宅メーカー、不動産業から家電、自動車など産業界上げて「オール電化」を演出していたに違いない。金融界が深く関与していたことはいうまでもない。政府はデフレ脱却の起爆剤として財務省、経産省などの官僚からこうした構想を吹き込まれ、原発の安全性を閑却視して盲目的にその推進を考えていたのであろう。
 ところが3.11がこの構想を根底から覆えしてしまった。原発の安全性に対して国民をはじめ政府、産業界も根本的な疑問を抱かざるを得なかった。そして「脱原発」が国民的合意を形成したかに見えた。それが半年も経たないうちに脆くも崩れ去り「原発再稼動」に大きく舵を切ったのは何故だろうか。

 経済社会への影響力を設備投資規模でみてみると、1980年代電力業界の規模は自動車業界全体の4倍、鉄鋼の6倍、そして産業界全体の4割近くを占めていた(5月1日日経「国有東電・苦難の再生」から)。この構図は今も余り変わっていない。取得設備投資額22年度実績見込額でみると電気は1兆27百億円で全産業の2割を占め、鉄鋼の2倍自動車の3倍近い(経産省企業金融調査:平成23年3月31日現在における)。経済のサービス化が進展する中でも電力産業の影響力は絶大で、とりわけ製造業の依存度は大きい。ということは電力業界が利益を上げて産業界の推進力となってくれなければ日本経済が大きく落ち込んでしまうのではないかという危惧を政官財のトップが抱いても当然である。
 電力業界が利益を上げる最も手っ取り早い方法は減価償却の済んだ原発を稼動させることだ。全国に54基ある原発のうち32基が1970年代以前に運転開始している。原発を何とか再稼動させたいという思惑の真意はここにある。デフレから脱却して景気を上向かせ、税収を大きく上げたい財務省や官僚組織としては電力業界の成長力回復が必須の条件であり政官財挙げてこれに取り組む必要がある。東電を潰す等以ての外なのである。

 原発の安全性を科学的に追求し必要電力を確保しながらも依存度を低め、経済運営を安定しつつ電力業界依存体質から新しい成長軌道へ導く。この難題に今の政治は機能するだろうか。

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