2012年6月4日月曜日

消費税増税と利子所得の関係

先日とある居酒屋で隣に座っていた初老の親父さんがこんな呟きを洩らした。「消費税くらい10%でも20%でも払ってやるよ。その代わり銀行の利子を何とかして呉れよ。100万円1年預けて10円の利子しか付かないじゃ洒落にもならないよ」。この呟きが妙に耳に残った。

 個人金融資産1500兆円といわれているからもしこれに1%の利息が付けば単純に計算して15兆円の利子収入が発生することになる。消費税1%は2兆円の税収増とされているから1%の利息は消費税7%超に相当することになる。個人の財布(家計)を考えてみると、勤労所得と財産所得(利子や配当の所得)と言う形で収入を得て、所得税や消費税の税金を納め、残りの可処分所得で消費し余りを貯金しているから、消費税を納めるのも利子所得が減少するのも個人にとっては結果的に同じことだ。ということはこれまで消費税は5%払っていると思っていたが、実は10年以上前から消費税7%~15%(2%の利息なら)分位の「負担」を我慢させられてきたことになる。
 昨今消費税増税を声高に叫んでいる人達は、我国の消費税は西欧先進諸国の水準に比べて15%近い増税余地がある、と其の正当性を主張しているが、本当にそうなのだろうか。

 バブル崩壊から脱出するために平成11年2月にゼロ金利が導入され、それにつれて預金金利も平成3年の2%から平成11年に0.001%の水準に引き下げられた。この措置により受取利息は平成3年の38.9兆円をピークに17年には3.5兆円と1/10に減少した。一方家計は住宅ローンなどの借入れをしているが支払利率は受取利率ほど低くなっていないから純利子所得(受取利息―支払利息)は17年に10.2兆円の支払超過になっている。
 平成3年時点の利子所得38.9兆円を基準として4年以降各年の実際の受取利息との差額を逸失利子所得と考えて17年までを累計すると331兆円になる。支払利息の軽減分(82兆円)を調整したネットの逸失利子も249兆円に上る。(資料:予算委員会調査室福嶋博之「低金利がもたらした家計から企業への所得移転」)

 少々古い資料だがこれに従えばこれまで家計の被った「受け取ることの出来たかもしれない純利息収入逸失額」は17年時点の249兆円から更に積み上がって300兆円に達しているに違いない。国民所得勘定に云う「個人所得=国民所得+(個人利子所得)-(法人企業利潤)-(純利子)」であるから個人の利子所得の減少はマクロでみた個人所得の減少に大きな影響を及ぼしているはずであり、デフレの一因とみることもあながち誤りとは云えまい。
 デフレの原因が需給ギャップ(供給力に比して需要力が少ない状態)にあるとすれば消費の源泉である利子所得が大幅に減少している今、消費税増税によって家計から更なる収奪を行うようなことをすればますます消費が落ち込んでデフレを進行させることは明らかである。

 欧州諸国が景気の落ち込みを金融緩和(低利子化)によって凌ぎ、それによって悪化した財政を増税(家計から政府への所得移転)や雇用調整で健全化を図ろうとして経済破綻しかかっている現状は、今政権が政治生命を賭して行おうとしている「財政健全化のための消費税増税」が全く同じ過ちの後追いになる危険性を暗示していると言えないだろうか。

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