2012年7月23日月曜日

有る時払いの催促なし

昔、「有る時払いの催促なしで、お金貸してよ」という冗談があったが、今、野田首相が政治生命をかけて推し進めようとしている「社会保障と税の一体改革」は若年層と将来世代にとってはまさに「有る時払いの催促なし」で増税を迫られているようなものだ。
 
 まず年金制度は「750兆円の債務超過」に陥っている現行の「賦課方式の年金制度」をどのように精算するか、これが最重要課題である。企業が750兆円もの債務超過になれば会社破綻は当然であるように現行の年金が制度破綻しているのは自明である。にもかかわらず政治も行政(官僚)も小手先の改革でこの制度が持続可能であるように取り繕って今日まで来ている。そして今又同じ過ちを繰り返そうとしている。
 医療保険制度は、都道府県毎の保険者が経営者であるにもかかわらず予算が組めず決算もできない状態―財政責任を負いながら収入と支出の均衡を図る機能を有していない状態にあるのを、当事者能力を有した機関に改変できるかどうかが問題解決のポイントである。
社会保障給付の総額は凡そ100兆円、保険料で60兆円、税金で約40兆円(内30兆円国負担)を賄っている。国の一般会計90.3兆円のうち政策経費は51.8兆円に限られているが社会保障関連の支出は26.4兆円を占めしかも毎年1兆円のペースで増加していく。一方年金積立金は06年の165.6兆円が11年には125.7兆円まで取り崩されておりこのままでいくと28年には枯渇するのではないかと懸念されている。

 ではどうすれば解決ができるのか。
 「年金清算事業団創設による積み立て方式移行」、これが年金の抜本改革だ。年金清算事業団に債務と積立金のすべてを移行し、今の高齢者と既納付分に対応する年金の支払を担当する。事業団の収入は①積立金の取り崩し②新型相続税③追加所得税④年金清算事業団債を充当する。新型相続税は相続資産に一律10%課税とし35年間継続、追加所得税は1.93%で100年間課税、清算事業団債は新年金制度を引き受け機関とする、などの仕組みで改革は達成できる。
 現行医療保険制度―とりわけ高齢者医療制度の最大の問題点は名目上都道府県毎に保険者を設定しているが実際は市町村の寄り合い世帯である「広域連合」が担当しており、加えて負担調整が事後の赤字補填の形で行われているので財政責任が曖昧になる結果を招いているところにある。解決のためには負担の公平性を確保し、財政責任を負う保険者を明確に決め、監視能力を強化することが必要になる。現行制度は「年齢」のみで負担を決めているがこれでは公平性は2割程度しか反映されない。「地域」「所得種類」「その他の社会経済的要因」「慢性疾患の状態」などの変数を順次取り入れてオランダのように9割まで公平性を高めるよう努める。公平性を確保した上で「事後の赤字補填方式」から「事前予算制度」に徐々に移行する。具体的には、年度初めに加入者特性(年齢、地域、所得種類など)に応じて保険者に配分金を交付(または拠出金を徴収)し、収支赤字は保険者の責任として事後の赤字補填は行わない。収支調整は保険料の引き上げや保険給付の削減の形で保険者が行うようにし、財政規律を堅持する誘因を喚起する。監視機能については書類審査だけでなくデータベースの活用により不適切な医療行為を監視できるようにする。医療費の請求データベースを活用して、過剰診療や不適切な医療機関の特定などの能力を高めていく。これによって症状別の標準的な医療費の把握ができ予算統制が可能になる。

 繰り返すが、750兆円の債務超過をどう解消するか、保険者に経営者として当然の収支均衡の調整機能をどのように付与するか、この2点を抜本的に解決しない限り真の社会保障改革は実現できないことを認識するべきである。
(以上は「日経・経済教室『一体改革・残された課題』7.17~7.19担当吉川洋東大教授川口洋行成城大教授鈴木亘学習院大教授」の概略をまとめたものである)

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