2012年10月22日月曜日

今こそソフトパワー(2)

 中国のGDPがあと10年ほどで米国を抜いて世界1位になるという。世界経済に占める割合は20%、人口も14億人を超えるに違いない。しかしこうした数字は現在のトレンドをそのまま延長したもので実現するには数々のハードルがある。

米国が今日あるのは米ドルが世界の基軸通貨であったこと、自動車・家電製品・ITなどイノベーションで世界経済を牽引し絶えず生産性を向上して高い成長率を維持してきたことによる。一方中国は人口ボーナスによる低賃金を武器とした製造業の輸出力がこれまでの推進力であったが今年になってそれに翳りが出ている。生産性について考えると資源の最適利用が必須の条件だが、我が国でもそうであるように政府の規制や既得権層の存在がそれを妨げることが多い。報道されることが余りないが中国では汚職や格差に対する集団抗議行動が年々増加し05年で8.7万件(政府発表)も起こっている。コピー商品は横行している。鉄鋼に代表されるように政府の方針に反して過剰な投資が行われている。こうした現状の中国では生産性の大幅な向上を望むのは困難であろう。

中国の抱えている難問を列挙してみると次のようなものが考えられる。国民の90%の人々には退職金や健康保険がなく、都市部に住む約半数と農村部の4/5に当たる人は医療サービスが受けられない。中国の最大都市上位500の都市の半分では飲料水の確保ができずゴミ処理場が不足しているなど都市部のインフラ整備に相当の財政資金を投入する必要がある。人民元の安定性を強化し汚職を撲滅して公的財政部門の健全化を持続的に推進していく必要がある。さらに都市部に流入してくる数億人の人々に職を与え、所得格差を解消しなければならない。教育システムを改善して多くの管理職を育て上げることも必要であり、旧態依然の公共部門を改革し、個人の所有権並びに著有権を保護するための法整備も急務である。これだけの課題を一党独裁体制でこなすことは事実上不可能である。2025年には、いずれにせよ中国共産党の76年間にわたる権力に終止符が打たれるであろう(ジャック・アタリ著林昌宏訳「21世紀の歴史」作品社)。

中国は広大な国土を抱え、成長の潜在力を持った国だ。他国と同様に民主主義に向かっている。現在の体制はエリート支配の一形態だが、今後、民主主義の台頭に直面しながら持ちこたえることができるとは思わない。(略)中国の軍事力を懸念する必要はない。なぜなら、中国は本当の意味で軍事大国ではないからだ。強大な海軍、空軍を持つには程遠い(2012.9.9毎日新聞「ジャック・アタリ/時代の風」)。

世界1位になっても1人当たりで見ると15000ドル(130万円)弱で現在の日本の1/3、韓国の2/3程度に留まる。国威と国民の経済的厚生をいかに調和させるか。弱い犬ほどよく吠える、ではないが中国が強面に打って出れば出るほど、抱えている問題の根が深いということではないのか。

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