2012年12月3日月曜日

天と地

 11月30日の2つの記事に興味を惹かれた。
ひとつは「ハズレ馬券経費に認めず」という記事。競馬で得た所得を申告せず2009年までの3年間に計約5億7千万円の脱税をしたとして大阪地検が所得税法違反の罪で会社員の男を在宅起訴した、いうもの。年収800万円の男が市販の競馬予想ソフトに独自の計算式を入力し、3年間に約28億7千万円の馬券をインターネットで購入し約30億円の配当を獲得、差し引き約1億4千万円の純儲けを得た。しかし税務当局はハズレ馬券の購入費を経費と認めず、実際の当たり馬券の購入費のみが経費だとして利益を5億7千万円と判定した。少々分り難いが、1万円づつ100点の馬券を買い内1点が当たり100倍の配当があった場合、当たり馬券の購入費1万円が費用で差し引き99万円が儲けとして課税對象になる、というのが税務署の考えらしい。当然ながら一般の競馬ファンは100万円買って100万円の配当だからトントンと考えるからその差は著しい。サテ結末はどうなるのだろう。

 もうひとつは、過労死などで従業員が労災認定を受けた企業名を開示しないのは違法だとして市民団体代表が大阪労働局に起こした「不開示決定の取り消し」を求めた訴訟で、企業名が公表されると当該企業が社会的に『ブラック企業』という不当な否定的評価を受けることがあるので「不開示決定は適法」である、という判決を大阪高裁が下したというものだ。一審の大阪地裁が下した開示を命じた判決を大阪高裁が覆したのだ。「情報公開法は法人などの正当な利益を害する恐れがあるものを不開示情報と規定する」と指摘し「脳・心疾患による死亡で労災認定されただけでは過失や法令違反があることを意味しない」のに「社会的には『過労死』=『ブラック企業』という否定的評価を受け、信用が低下し利益が害される蓋然性が認められる」というのが判決理由になっている。原告の「全国過労死を考える家族の会」は「働く人の命が使い捨てにされる現状を改善して欲しい、納得がいかない」として上告する方針を明らかにしている。
 労働者の権利のうちで「労災認定」を受けるのは最もハードルの高いものになっている。石綿事案にみるようにいくつもの困難な条件をクリアしてやっと認定にたどりつくケースの多い労災認定で、山田裁判長のいうような可能性は果たしてどんな場合なのだろうか。具体性が極めて曖昧だ。それでなくても談合やダンピング、下請けいじめなどの公正取引法違反やインサイダー取引、偽装請負など企業倫理が低下している現在、法の力点は企業よりむしろ労働者側に置かれるべきではないのか。

 年収800万円の恵まれたサラリーマンの無分別なバクチ騒ぎと不遇な労働者の過労死、何という違いか。『働く』ということをもう一度考え直してみる必要がありそうだ。
 蛇足―マスコミが大きく取り上げたのはバクチ騒動の方だった。

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