2013年7月15日月曜日

同時代性の共有

 ここしばらく「雇用」について考えている。労働市場の流動化、だとか自由な働き方の追求だとか言って「日本型雇用慣行」の見直しが進められ、また一方で大学の職業能力育成の向上や失業者や若年層の職業訓練の充実を公的機関で、という要請も強くなっている。
「いい学校へ行って、いい会社に就職して、豊かな老後を」というモデルが危うくなっている。いい会社に入って、年功序列で段々に給料が上がっていって、終身雇用の安定した中でローンを組んで持ち家を手に入れて、退職金でローンを清算して手元に残った僅かな蓄えと年金で老後を夫婦で楽しみたい、そんなモデルが否定される時代だ。
欧米先進国は景気対策として「解雇」で労働力を調整するが日本は残業代などを削減して給料を調整することでコスト削減を図り「雇用」は守る。こうした日本型雇用慣行がグローバル時代の世界的競争力を弱める結果につながっているといわれる。
雇用に関連する種々の論議が繰り返される中で、正規雇用が抑えられ非正規雇用が加速度的に増加して格差が拡大し「雇用者所得=サラリーマンの給料」は相当減少した。
終身雇用が否定され年功序列が崩れて成果主義に移行したという今、若者はどんな生涯設計を描いているのだろうか。企業の人材育成力が劣化したなかで個人のキャリア形成はどのように行なっていけばいいのだろうか。

日本型雇用慣行から欧米型の移動を前提とする流動化した労働市場への移行を当然のように社会の仕組みが変えられようとしているが、本当にそれでいいのだろうか。流動化雇用システムで最も成功している米国でも失業率は常時6%以上ある上に世界で最大の格差国である。企業の競争力は高まるかもしれないが個人にとって幸せと言えるだろうか。そんな疑問を皆が抱いているに違いない。『日本型雇用の真実・石水喜夫著(ちくま新書)』はそんな疑問に正面から取り組んだ労作であり私の疑問に見事に応えてくれた石水氏には『同時代性』を共有している同志のような親近感を感じた。この書を読めば、一方的に日本型雇用慣行を否定するのではなく、又競争力の劣化やデフレの長期化を雇用問題のみに求めるのではなく多面的に再検討する必要性があることが分かる。

我が国のデフレは20年の長きに亘って経済を蝕んできた。原因は複雑に錯綜しているがそのうちの一つに「イノベーション力の劣化」があるのではないか。ロボット型掃除機や羽なし扇風機など目新しい電化製品は日本製でないしそもそも情報化時代の基幹製品であるPCもスマホも外国発祥の製品である。
我が国の女性活用は世界の最低レベルにあることは繰り返し警告されてきたが一向に政治も企業も改革を実現しようとしない。労働力の減少が経済停滞の最大の原因と指摘されながら、世の中の半分を占めている「性」がほとんど生かされていない。男性中心のシステムが機能しなくなっているから我が国のイノベーション力が劣化しているのではないか。男性と女性が協働できる社会にならなければ日本は活性化しないのではないか。
そんな問題意識を持った私に「快楽としての読書[海外篇]・丸谷才一著(ちくま文庫)」は『愛と性と母権制・フロム著』を教えてくれた。フロムの「男女協働」の提案は今最も『同時代性』がある。

コラムを書いて今日で400回になる。2006年4月がスタートだから7年と少しになるがこの間多くの本を読んだ。書く事がこんなに読むことにつながっているとは思わなかった。読んで、書いて、見て、そしてまた書いて読んで。そんな繰り返しの中で『同時代性』を共有する多くの人に出会った。沈潜し熟考している優れた先人や同時代人に畏敬の念を抱く。
書く事が楽しくなっている。

0 件のコメント:

コメントを投稿