2013年11月4日月曜日

年金生活者と「隠れた負担」

  9月初旬から低迷(売買高が2兆円以下)が続いていた株式市場が昨週水曜日から3日連続2兆円を超す活況を呈した。これはアベノミクスの成長戦略如何を静観していた投資家が一応の評価を与えた結果と読んでいいかもしれない。とすれば安倍首相の長期安定政権の可能性は高く、来年4月には消費税は8%に、再来年10月には10%に増税されるのはほぼ確実だし、アベノミクスが順調に進めばその頃には物価は2%程度に上昇しているに違いない。ということは今の収入から7%近く可処分所得が減ることを覚悟する必要がある。これは年金生活者には相当キツイ現実である。
 先のコラムで農作物重要5項目の関税障壁による「隠れた負担」が1人当り年間2万4千円になることを示したが、国民年金だけの夫婦2人の高齢者世帯には年金支給月額約5万4千円のほぼ1ヶ月分に当たるから生易しい負担ではない。エンゲル係数(消費支出に占める食費の割合)は高齢者ほど高く70歳以上世帯では26%超を占めておりこれは50代までの平均(21.5%程度)に比べると5%も高いから食料品の「隠れた負担」は高齢者には極めてキビシイ負担になる。加えて消費支出のうち食料品や水道光熱費などの「基礎的支出」の割合が高齢者の場合70%近くあって節約の余地が少ないから余計「隠れた負担」の影響は大きい(ちなみに50代までの基礎的支出は50%以下である)。基礎的支出には食料費、水道光熱費のほか住居費や医療費、交通・通信など規制の強い分野の支出が多いから「隠れた負担」は農作物重要5項目による2万4千円を超えていることは間違いない。
 景気が良くなっても収入の増えることが期待できない高齢者は「隠れた負担」をキビシク監視する必要がある。

 ホテルのメニュー偽装も「隠れた負担」と言えないか。名門と謳われたホテルが長年にわたって客を欺いてきたのだから許せない裏切りだが我々消費者に問題はないだろうか。
 偽装を詳しく見ると①産地偽装(九条ねぎ、津軽地鶏、沖縄まーさん豚)②料理法や食材の偽装(手捏ねハンバーグ、自家菜園野菜)に大別できそうだ。また食材とは別に「苺とチョコのシュー・ア・ラ・モード手作りチョコソースと合わせて」とか「レトワール風オードブル ホテル菜園の無農薬サラダを添えて」などという過剰な修飾コピーも目立っている。
 
 人間誰しも飢えは苦しい、飢えがしのげたら美味しいものが食べたいと思うし舌が肥えたら有名な店の上等なものが食べたくなるのは人情だ。しかし根底には「食べ物は粗末にしてはならない、勿体無い」という規範があるはずだ。今回の騒動にこうした素朴な食に対する欲望や規範は働いているだろうか、そう問い掛けをしてみると次元が全く異なったところで動いているような気がする。
 旨いかどうかは自分の舌で判断するものだ。ところが今回の騒動はどうもそうではないような気配を感じる。ブランド食材と職人技を思わせる調理法や耳障りのいいキャッチコピーは「旨さを強制」する装置だし消費者はそれによって「旨さの付加価値の保証」が提示されたように受け取っているフシがある。舌で判断する前に提供するホテル側に「保証書」の提示を求めることで安心している。裏返して言えば「自分の舌」に自信がないとも言える。
 こう考えてくると今回の騒動はホテル側も消費者の方も「食べ物を粗末にした」結果ではないかと思えてくる。どんな有名店のメニューでも自分の舌で味わい評価してこそ「食への畏敬と憧憬」があると言えるし、提供側は「食べ物で欺く」という「不遜な態度」では「食に従事するもののプライド」など微塵もないと批判されても反論できまい。

 偽装されたメニューも間違いなく「隠された負担」である。監視の目が離せない。

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