2014年9月22日月曜日

政府の成長戦略を考える

 ドル高が急である。9月19日の終値が109円を超えた。安倍政権が発足して極端な円高80円前後が是正され102円内外という心地よい円安で経過してきたが今年8月20日頃を境に103円104円と下げ調子が加速し9月に入って3週間で一気に5円以上下げてしまった。アメリカ金融政策の超緩和策からの脱却が具体的になったことが原因だろうがこの傾向がこのまま続くと日本経済への悪影響が懸念される。
 
 安倍政権が発足して1年半以上が経過したが経済政策の「3本の矢」のうち「成長戦略」が不発のうちに『外国資本の国外逃避―円からドルへのシフト』というドラスティックな形で安倍批判が噴出したと見るのが妥当であろう。事実として成長戦略は具体的に何も実現されていない。日銀による超金融緩和政策が市場に好感を持たれ円高是正と株高が演出されていかにも経済が好転したかのようにメディアは報じているが経済の仕組み―規制緩和も財政改革もなされないまま『無駄な時間』が過ごされている。そればかりか来年度予算の概算要求が101兆円を超える巨大なものになっており「財政規律」に緩みがでている。日本政府の債務残高がGDPの200%を超える世界最悪の状況にあり、こを打するために膨張する社会保障費対策として消費税増税が打ち出され4月に8%に今年中にも来年10月の10%増税が決定されようとしているにもかかわらず、一向に財政の効率化を図ろうする気運が起こってこない。
 見えない成長戦略と財政規律の緩み―外国資本は厳しくわが国を見つめている、そう感じさせる「急激な円安」である。しかしテレビのニュースショウでは円安のメリット、デメリットなどという的外れな話題に終始しているのは何とも心もとない。
 
 さてその成長戦略だが「日本再興戦略2014」では「日本の『稼ぐ力』を取り戻す」として①コーポレートガバナンスの強化②公的・準公的資金運用の在り方の見直し③産業の新陳代謝とベンチャー加速、成長資金の供給促進、を打ち出している。またこれを補足する形で「企業と投資家の望ましい関係構築ロジェクト(伊藤リポート)」が経産省から公表された。このふたつの政府戦略の目指すところは、持続的成長のためには企業と投資家の協調的関係の構築が重要でありややもすれば内向きで現状維持的な現在の企業家マインドを投資家の厳しい視線で成長に振り向けさせようとするものであろう。そして成長の指標として世界の投資家に評価される株主資本利益率(ROE)の最低ラインとして8%の数字を掲げた。
 しかしこうした市場重視・投資家重視という戦略は極めて危うい志向である。何となれば市場―投資家は「短期的利益志向」が非常に強く今我が国の企業に必要な「持続的長期成長戦略」を彼らの経営監督機能に求めることは矛盾がある。またROE(自己資本利益率)は現在のアメリカの株高が多くの企業のフリーキャッシュフロー(純現金収支)を上回る自社株買いによるバランスシートのバブル化によるところが多いことを考えると、企業成長力を測る指標として相応しくない。むしろROA(総資本利益率)を用いるべきである。
 いずれにしても政府の成長戦略は本質をすり替えた『市場迎合的』な傾向が強く再考を促したい。
 
 成長のために企業に(長期を見通して)投資や賃金増に資金を振り向けさせようとするなら、将来に利益が見込める環境を醸成する以外に方途はなく、規制緩和や税制・財政の改革を積極的に進めることが「本道」である。そして人口減が成長のマイナス要因として確実化する現状においてより重要なことは働く人たちが安定した雇用を確保し仕事を通じて職務能力を向上させ生産性を高めることである。
 
 雇用こそ企業の最も重要なレゾンデートル(存在理由)であり景気の調節弁として安易に解雇して企業財務強化で不景気を乗り切ろうとする『アメリカ型労働政策』はわが国には馴染まないことを銘記すべきである。

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