2014年12月8日月曜日

12月2日に思う

 1941(昭和16)年12月2日に生まれた。73歳になってこんなことを考えている。 
 
 経済学はアダム・スミスを父とし「国富論」を嚆矢として「見えざる手」によって市場が最適運用されると一般に考えられているがこれには重要な前提がある。産業革命後、キリスト教の倫理と「利潤」の相克を如何に調停するかが課題となったが、『利潤の私蔵を戒め追加投資(と分配)に利潤を転換』していくことを要諦として「利潤追求を資本主義経済の根本的動因」とすることが承認されるようになる。「見えざる手」が真実機能するのはこうした「了解事項の共有圏」においてであることが忘れられている。
 資本主義経済は「有限な資源の最適利用」を市場を通じて行う経済といえる。19世紀後半に有力なNation-state(国民国家)が成立し「資源獲得競争」が発生、20世紀初頭に競争が激化して第1次世界大戦を惹起した。戦争による国土の破壊は「不況」を齎し戦争と戦争の間は「軍備の備蓄」が国富を侵食して、「不況」を常態化するようになる。戦争も軍備備蓄も資源と資金の市場からの収奪であり不競争下の非効率の拡大が結果として「不況」を必然化する。ケインズの「不況の経済学」は「20世紀という戦争の世紀」の生んだ経済学であった。
 21世紀は「グローバル化」の時代でありNation-state(国民国家)『群』が「有限な資源」を必要とする結果これまでのように『限られた』有力国民国家の「無制限の資源利用」による「最適化=効率の追求」は不可能になる。市場機能を絶対とした資本主義自由経済は修正を迫られている。数年前の世界的金融危機に起因して世界的な「低成長時代」を迎えているが、先進国においては「格差の拡大」が「利潤の私蔵」を極大化すると共に「企業利潤の再投資と分配」が十分でないから成長力が低下するのであり、新興国は獲得資源と流入資金の不足が成長を制限している。
 宇沢弘文のいう「自然・インフラ・制度(教育・医療・金融)=社会的共通資本」の「市場メカニズムとの調整」を如何に実現するかがグローバル時代の資本主義の在り方に繋がるに違いない。
 
 我国の混迷は安倍首相の年末解散によってその極に達している。何故に斯くも無惨な世態を招来したのであろうか。思うにその淵源は明治維新にあり「近代化=西欧化」を無批判に受容れ追求してきたことにあるのではないか。そして先人は早くにそれを啓発している。
 「数え年八つの娘」の「わかる」とか「わからない」という発言が、聖書の意味が「わかる」ということにおいて、何の関係があるのだろうか。本来が、聖書は、聖書の意味は、「数え年八つの娘」には「わからない」ものである。「わからない」で当たり前である。(略)日本の「近代」とは、人間の基軸をいわば「数え年八つの娘」に置いた時代であったのではなかったろうか。(略)この決定的な誤りが、「近代」の誤りではなかったであろうか。(略)もはや現代においては人間そのものが、人間の中の「八つの娘」的部分と等しくなってしまいつつあるように思われるが、そしていったん、人間の基軸がこのようにずれてしまうと、とどまるところを知らず人間は限りなく幼稚化していき、それは風俗面において最もどぎつく現れてくることになるのである(新保祐司著「内村鑑三」より)。先進する西欧文明をその基底にある倫理や哲学を抜きにして摂取し拙速に追及してきたことを改悛すべきである。
 蓋し賃金及び俸給はその結果が具体的なる、把握し得べき、量定し得べき仕事に対してのみ支払はれ得る。然るに教育に於いて為される最善の仕事―則ち霊魂の啓発(僧侶の仕事を含む)は、具体的、把握的、量定的でない。量定し得ざるものであるから、価値の外見的尺度たる貨幣を用ふるに適しないのである。弟子が一年中或る季節に金品を師に贈ることは慣例上認められたが、之は支払いではなくして献げ物であった。従って通常厳正なる性行の人として清貧を誇り、手を以て労働するには余りに威厳を保ち、物乞ひするには余りに自尊心の強き師も、事実喜んで之を受けたのである。(新渡戸稲造著「武士道」より)。社会的共通資本の市場との調整、企業利潤の再投資の円滑化多様化と公正な分配を模索する必要がある。
 科学は自然の実態を探るとはいうものの、けっきょく広い意味での人間の利益に役だつように見た自然の姿が、すなわち科学の眼で見た自然の実態なのである(略)自然というものは、広大無辺のもので、その中から科学の方法に適した現象を抜き出して調べる。それでそういう方法に適した面が発達するのである(中谷宇吉郎著「科学の方法」より)。使用済み核燃料の処理方法も廃炉技術も確立することなく原発を実用化したことや過剰な検査と投薬に依存する医療制度を齎したのは科学を盲信した酬いであろう。
 
 馬齢を重ねた老書生、73歳の妄言である。

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