2015年1月5日月曜日

中国を考える

 昨年の世界的景気減退は「新常態」といわれる中国経済の高度成長からの離陸―10%超から7~8%台への中高度成長へ―が影響していると見ることができそうだが中国経済の実態は香港の数字を差し引くとせいぜい4~5%成長だという専門家も少なくない。そこで年頭に当って中国について考えてみたい。
 
 中国経済の最大の特徴―弱点はマクロとしての1国経済=GDP国内総生産とミクロの1人当GDPの乖離という『矛盾』にある。中国経済は今や世界第2位(2013年9兆4691億ドル)に浮上し数年のうちに米国を抜いて世界一になると予想されている。ところが1人当GDPは6千960ドルで、豊かさの目安とされている「1人当GDP2万ドル以上」と相当な隔たりがあり「国の豊かさと個人の貧しさ」の極端な乖離が齎す『矛盾』が抜き差しならない「国情の不安定」を現出している。そしてこの矛盾は決して解消できない難問として今後の中国を根本的に規定しつづけるところに悩ましさがある。何故なら中国が1人当GDP2万ドルを実現するためには地球がもう二つ以上必要となるほど膨大な資源量が欠かせないからである。
 その原因はいうまでもなく13億8400万人を擁する人口の多さにある。世界人口70億人の20%近い人口はこれまで中国経済を強力に牽引するエンジン=「人口ボーナス」として機能し、1980年代初頭から25年以上に亘って10%を超える高度成長を続けてきたが、2012年ついに生産年齢人口(15~60歳)が減少し「人口オーナス期」に転じた。この間競争力の大きな要因のひとつであった「低賃金」は「製造業一般工・月額(2013年)」でみると400ドル前後に達しシンガポールを除いたアジア地区では最上位近くまで上昇した結果10倍以上あった日本(約3000ドル)との格差も縮小、賃金だけの比較なら中国以外への工場移転も選択肢として十分考慮に値するに至っている(400ドルを4万円と考えてみると国内非正規雇用者の平均賃金との差は著しく減少していることが分かる)。しかしこの賃金も地域間格差が激しく「富の偏在・格差の拡大」として中国政情を不安定にしている。
 格差問題は企業の効率性の分野にも存在している。国有企業の比率は6割近くから25%まで低下しているとはいえ総資産利益率で企業の効率性を測ると民間企業の12%台に比べて4%台で低迷したままである。これまで中国政府が堅持してきた国有企業優先主義を打破し民間企業の市場参入と平等な競争原理の導入という企業改革が習政権の構造改革の中核であり中長期的な中国の成長力を決定付けるだけに2013年11月の三中全会(中央委員会第3回全体会議)の構造改革の決議の重要性がここにある。
 中国経済を語るとき為替政策を忘れることはできない。2006年の人民元改革によって変動相場制へ移行されたがあくまでも管理フロート制(管理変動相場制)であり、昨年のように中国経済の減速が鮮明になると当局の人民元売り・ドル買い介入によって人民元がドルに対して2.42%の下落を示し輸出競争力の下支えが図られるなど、「一国二制度」の香港の中国化を含めて、中国経済の開放は不透明なままである。
 最後に「国防費の膨張」を最重要ポイントとして取り上げる。2014年の国防予算は前年実績比で12.2%増の80823000万元(約133000億円)に達し4年連続2桁の伸びを示した。しかし中国の実際の国防費は公表数値の3~5倍あるともいわれており実際のところは不明である。そのことは国防費のGDP比が中国の場合2.1%(2011年)でアメリカ4.7%ロシア3.9%イギリス2.6%フランス2.3%に比べて極めて不釣合いに映ることからも類推される。問題は軍備費の国力に与える悪影響であり、このことは歴史的にもソビエト連邦の崩壊や近年のアメリカの国力低下による世界政治への影響力のカゲリを見ても明らかである。しかも中国の場合はソ連同様1人当GDPが低いにもかかわらず軍備増大をつづけているところにあり、このままでいけば現体制の維持に重大な結果を招く可能性が非常に高いと危惧される。
 
 以上中国経済と政治状況について思いつくままつづってきた。「巨大化する国力と国民の平均的な貧しさ」は中国最大の「不安定な危険因子」であり現体制が続く限り克服できない課題として作用するに違いない。そのうえ「中華思想に基づいた覇権主義」は国防費の不断の増大を要求するに違いなくこれが中国経済にボディブローのように効いて疲弊を齎す可能性が極めて高い。キャッチアップ経済を卒業した経済は「生産性の向上」が至上命題だが、投入労働力の低下(生産年齢人口の減少と高齢化)と政府系企業の非効率を温存したままでは実現に疑問符が付く上、拡大する格差は国民の生産意欲を減退させその不満は反政府紛争の激化として「不安定要因」となるに違いない。
 
 今年の中国は表に現れる現象に惑わされず、その底に沈殿していくマグマの動きまでを見通す沈着な分析力の問われる一年になりそうだ。
 今年もご愛読よろしくお願いいたします。   

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