2015年10月10日土曜日

時事雑感

 今年もノーベル賞受賞者が我国から出た。2年連続、2000年以降自然科学分野では英独仏を抜いて世界2位の受賞者数を誇る。とはいえ喜んでばかりもいられない。10年後20年後もこの勢いを保てるかどうか極めて悲観的だからだ。梶田さんがいっているように基礎研究よりも経済的成果が直接、短期に産み出せる応用分野へ予算(資金)の配分が偏っている現在の教育行政は我国の教育システムを脆弱化しかねない。加えて大村教授が苦学を重ねて今日あるような高等教育就学の機会均等が持続できるかどうかという危惧もある。東大生の親の5割以上が年収一千万以上であるように、所得格差の継承と固定化が負のスパイラルとなって子どもの学歴格差につながり国としての知的レベルの劣化を招く危険性が予想される。先の人文社会科学系学部の廃止あるいは軽視の文科省通知など我国の文部行政は根本的に見直す必要がある。
 
 臨時福祉給付金(一人当たり六千円)の支給を受けた。年金受給者の場合65歳以上(扶養者有り)で年間約211万円以下の場合は大体支給対象者になるようで年金受給者(総数約3900万人)の多くが支給を受けることになろう。これは「平成26年4月の消費税率の引上げによる影響を緩和するため、低所得者に対して、制度的な対応を行うまでの間の、暫定的・臨時的な措置として支給」されるものだが果たして年金受給者に支給する妥当性はあるのだろうか。個人金融資産(15年3月末)は1700兆円以上ありこの内の50%以上を60代以上の高齢者が保有しているといわれている。金融資産は別にしても年金だけで夫婦二人生活するには困らない収入を受けている人が随分多い現状で、一律前掲の基準で支給することに疑問をもつ。社会保障費が膨張する中でこんな『甘い』バラマキをしていては財政悪化は当然であろう。大体1億円以上の金融資産を保有している高齢者に年金を支給する正当性はどこにあるのだろう。テレビで大言壮語する高齢知識人や経団連の大立者のひとりでもいいから「年金受給拒否」を申し出てくれないものか。
 介護保険に関しても理解不能の事態が起こっている。「カジノ型デイサービス」というのがあってパチンコ、麻雀に加えてルーレットなどのカジノ型プレーのできるデイサービス・ステーションが歓迎されているという。神戸市が禁止措置に踏み切ったというニュースが報じられたがその是非について識者・コメンテーターの意見の歯切れが悪い。楽しみながら積極的に介護を受けるのだから、とか、麻雀は知能向上にもつながるから、とか、一概にカジノ型が悪いとは言い難いなどと。とんでもない!パチンコも麻雀も愉しみたいのならパチンコ店や雀荘へ行って楽しめばいいのであって、1割負担の「介護施設」で遊ぶなど「不逞の輩」の何物でもない。まして「カジノ型プレー」はまだ国内では認可されていないのだから、たとえ「擬似通貨」によるものであっても介護施設で遊ぶことは許されるものではない。どうして識者は『厳然』と否定しないのか解せない。悪いことは悪いとはっきり批判すべきである。
 
 TPPが大筋合意した。コメ、乳製品、牛肉・豚肉などの保護が不十分ながら担保されたようだ。しかしどうして「農業」ばかりがこんなにも厚く保護されるのだろうか。1993年のガット・ウルグアイラウンド合意でコメ市場の解放を決めた際、6年で合計6兆600億円の保護対策を講じたが結局「競争力強化」は図れなかった。コメ農業の競争力強化策ははっきりしている。規模の拡大と収量増加だ。我国は先進諸国の中で唯一、コメを初めとして多くの作物で単位面積当たりの収量が30年間止まったままなのだ。FAOSTATのデータによる〈kg/10a〉のコメ収量は今(2011年現在)や米国、オーストラリアは勿論のこと韓国やペルーよりも劣っている。規模拡大の必要性がはっきりしているにもかかわらず小規模農家や兼業農家を優遇、保護するから「農地の集約化」は遅々として進まない。こんな現状を放置したまま―生産性向上の対策をなおざりにしたままで、外国との競争に勝てないから高額関税や所得保障で保護を求めるなど、筋違いではないのか。専業農家で懸命に努力している農家が報われない現体制は何としても打破するべきだ。
 1970年日米繊維協定が締結されて過剰織機の廃棄処分が決定し西陣を初め全国の織物産地で織機が打ち壊された。1992年日米構造協議で大規模小売店舗法が改正、スーパーなどの大型店舗出店規制の撤廃によって郊外型の大型商業施設がぞくぞくと建設され、駅前の商店街はシャッター通りに変わり果てた。日本中のあらゆる産業は時代の変化に翻弄され縮小、倒産、転業してきた。
 何故「農業」だけが『保護』されなければならないのか、多くの消費者を犠牲にして。
 
 「一億総活躍担当相」などというわけの分からない大臣を作って国民を惑わすのではなく「国家百年の大計」を合理的に樹ち立て国民に真摯に向き合う政治が望まれる。

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