2015年10月24日土曜日

今、図書館が新しい

 先日妻を図書館へ連れて行った。京都市で一番新しい図書館なので書庫から自動で本が出てくる装置や無人貸出機、メディアゾーンでDVDを観賞している高齢者の多さなど想像以上だったようだ。
 
 今、図書館が新しい。佐賀県武雄市の図書館が2013年CCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ…TSUTAYA等を運営)を指定管理者に選定して面目を一新、累計200万人以上が訪れ8割が満足しているという。カフェや書店を併設するなど来場者数アップに斬新な手法を展開している。従来から窓口業務や蔵書管理を委託することは多かったが、最近になって「指定管理者制度(委託ではなく公営組織の法人化・民営化)」を活用する公立図書館が全国で400を超えるようになった。ところが図書館が変わって多様な人が利用するようになると反発が強くなることもあり愛知県小牧市では42億円の予算をかけて図書館を中心とした「文化拠点」を建設しCCCを指定管理者に据え駅前の活性化を図ろうとしたが住民投票で反対されてしまった。
 
 そもそも公共図書館とはどんな位置づけのものなのだろうか。図書館法によれば「社会教育法の精神に基き、図書、記録その他必要な資料を収集し、整理し、保存して、一般公衆の利用に供しその教養、調査研究、レクリエーシヨン等に資することを目的とする施設」ということになる。では社会教育とは…?法律の条文は難しいので要約すると「土地の事情及び一般公衆の希望に沿い」「図書、記録、郷土資料、地方行政資料、美術品、レコード及びフィルム、視聴覚教育資料その他の『図書館資料』を、収集して、一般公衆の利用に供し」「青少年と成人に対して学校教育以外の組織的な教育活動を行うことによって」「文化的教養(教養、調査研究、レクリエーションなど)を高め得るような環境を醸成する」ということになる。
 
 これまで図書館法など見る機会もなかったから「…レクレーション等に資する」という一文には正直驚いた。一般公衆は「専門的知見から図書等を選定して青少年・成人に教育活動を行う」ものが図書館だとイメージしていたのではないか。だからCCCが運営するカフェや書店を併設する施設で借り出した図書を読んだりDVDを見たりしながらコーヒーを飲み談笑するシーンは従来の図書館の概念から逸脱するものとして拒否されたのだろう。どちらかといえば「固い」従来型のイメージとCCCの演出する図書を中心とした『サロン』的文化施設とは相容れなかったのに違いない。
 少し声を大きくすると「シーッ」と叱責されるような従来のイメージは図書館機能の一部である教育活動の側面を増幅したものと見るほうが正しいが、それが固定観念となって我々に沁みついているからCCC方式は反感をもたれたのだろう。
 更に指定管理者制度を「従来の図書館の全面的委託」と捉えられたことも誤解を生んだのではないか。CCCが指定管理者に選定されると、図書館法で規定された図書館機能をCCC的に法人化民営化するのだから従来型の図書館とは大幅に異なった施設になることも有りうるということが理解されなかった。
 
 高齢化と生涯学習が社会的な大きなテーマになり情報メディアが図書ばかりでなくテレビ、DVDはもとよりPC(パソコン)、携帯電話、スマホなど多様化するなか図書館も時代に即応した「新しい図書館」に変貌することが求められておりそのひとつのあり方が「法人化・民営化」という指定管理者制度であろう。財政が逼迫する現状で図書館を文化行政の有効な施策として活用したいと考えるのは当然であり、とすれば地域の図書館へ一度も行ったことのないという大人の多い状態をこのまま放置しておいていいはずがない。小牧市の取り組みは武雄市の成功体験を踏まえながら更に一段高い次元に図書館を引き上げて駅前に「文化拠点」を創造しようとしたものと考えられる。
 しかし行政はそうした文化行政と新しい図書館のあり方を市民に伝え説得する過程を省いて強行しようとした。そうした行政手法への反発も手伝って計画が頓挫したのであろう。42億円という一地方自治体としては決して少なくない費用を投入しようとする計画にしては粗雑な姿勢であったと言わねばなるまい。方向性は時代を先取りした優れたものであるだけに今後の調整を期待して見守りたい。
 
 最後に図書館への希望を。京都市の図書購入予算を増額して欲しい(新刊書の補充が乏しすぎる)。開館時間延長と休館日を全市一律でなく分散して欲しい(現在は全市火曜日)。一年に一度も読まれないような本でも必ず一冊はある今の図書選定基準は継続して欲しい。
 
 

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